第503話 先の話

 程なくして、銀髪さんが戻ってきた。どうやら、叔父さん陛下に説明するのに疲れたらしい。


 スーラさんを私に返しがてら、小声で「疲れた……」とぼやいていた。叔父さん陛下、ここぞとばかりに銀髪さんに嫌味でも連発したかな?


「今日はもう、これ以上話は動かないでしょう。スワシェニルの事は、明日決めます」


 ジジ様の宣言で、本日はこれにてお開き。ミシアも、この家の空いている客間を借りるらしい。


 銀髪さん、剣持ちさんと三人で家の外に出た。今朝は、何てことはない日になると思っていたのに、蓋を開けたらこれだよ……


 銀髪さんじゃないけど、何か疲れた。こういう時は、温泉だよね!


『そうですね! 早速行きましょう! ウィカラビアのお湯もいいですが、旧ジテガンのまだ行っていないところも捨てがたいです!』


 うん、検索先生は通常運転ですね。でも、それがかえってほっとする要因だよ。




 なんとも大きな事に巻き込まれた感のある昨日から、開けて翌日の朝。朝食の会場には、ジジ様、ミシア、ヤーニ様と一緒にスワシェニルも来た。


 昨日とはまた違う服を着てる。多分、ヤーニ様が面白……楽しんで着せ替えてるんだろうなあ。


 スワシェニル本人は、顔色はよくなったかな。しっかり寝たからかもね。強制的に寝かせた訳ですが。


 朝食会場はだだっ広い集会場のような作りの部屋に、長テーブルがいくつか置いてある。


 誰かと食べてもいいし、一人で食べてもいい。自由な空間だ。


「朝食は余程の事がない限り、ここでいただきます。席は自由ですし、時間も大雑把に決められているだけです。今日はここに座りますが、明日からは好きな席を使うといいでしょう」


 ジジ様がここの使い方を教えている。


「ああ、サーリ、カイド達もちょうどいいところに。こちらに来てちょうだい」


 呼ばれちゃった。今日はジジ様と一緒の朝食かなー。長テーブルの端にジジ様、その向かいにミシアとスワシェニル。


 ジジ様の隣には、ヤーニ様。呼ばれた私達は、ヤーニ様の隣に銀髪さんと剣持ちさん、スワシェニルの隣に私が座った。


「こちらは私の孫でカイド、その隣が護衛のフェリファー。あなたの隣に座っているのが、魔法士のサーリです」


 良かった。ここで神子ですって紹介されたどうしようかと思ったよ。まあ、ジジ様ならやらないって信じてたけど!


 スワシェニルは一度にたくさんの人を紹介されたせいか、おどおどとしている。


 それもそうか。慣れ親しんだ人はいなくなり、見知らぬ人達ばかりのところに連れてこられたんだもんね。そりゃ怖いよな。


 まずは食事を、という事で、ほっとさんから朝食をもらう。今日はフレンチトーストだ。


 小さく切って卵液につけてから焼いたパンと、ソーセージに卵、サラダ、スープ。卵はスクランブル、目玉焼き、オムレツの三種類からのチョイス。


 ソーセージもハムかベーコンにチェンジ可能。至れり尽くせりです。


 そして! フレンチトーストにかけるのはメープルシロップ! やっと完成したのですよ! 待ちに待ったメープルシロップが!


 あ、他にもジャムをチョイス出来ます。でも、私はメープル。ああ、良い香り。


 飲み物はスペンサーさんから。そういえば、紅茶をジジ様に教えたら、すっかりはまったらしい。最近は、ずっと紅茶を楽しんでるんだって。


 そんなジジ様の飲み物は、やっぱり紅茶。ストレートで。ミシアがミルクティー、スワシェニルも同じものを。


 ヤーニ様はジジ様と一緒で、銀髪さんと剣持ちさんはブラックコーヒーだ。


 私はちょっと考えて、アイスオレにした。


 食事が終わって一息、ジジ様がスワシェニルに向き合う。


「さて、あなたの身柄は当面、私が預かる事になりました。しばらくは、ここでゆっくり過ごしなさい」

「え?」


 言われた事が理解出来ないらしく、スワシェニルは混乱している様子。ミシアが笑顔で彼女の手をぽんぽんと叩いている。


「好きに過ごしていい……と言われても、何をしていいのかはわからないでしょう。ミシアと一緒に過ごすといいわ。こういう場所での過ごし方は、この子がよく知っているでしょうから」

「あら、お婆さま。私、ここに来るのは初めてなのよ?」

「問題ないでしょう? わからない事はサーリに聞きなさい」


 おおっと、こっちに飛び火した。怯えた目で見てくるスワシェニルに、ぎこちない笑顔を返すしか出来ない。あ、涙目になった。何でー?




 ここに滞在するのなら、まずは家選び。いつまでもジジ様の家に厄介になる訳にもいかないでしょ。てか、家は有り余ってるからね……


「現在人が住んでる家は、名前が掲げられてるから、それ以外の家を選んでね。どこでもいいよ」

「どこでもって……ここ、どれだけの家があるのよ……」


 うーん、正確に数えていないけど、人が住める場所は百戸くらい?


『正確には百八戸です』


 煩悩の数ですか。年末には除夜の鐘鳴らしちゃうぞ。


「ここはどうかしら? ……うーん、でもちょっと見晴らしが良くないわね。サーリはどの家にいるの?」

「私はもっと下の方。湖に面した方だよ」

「ああ、そっちもいいわね。でも、なるべくお婆さまのお側にいたいわ。ねえ、この辺で一番見晴らしがいい家ってどれ?」

「んー、向かい側の、教会の裏辺りかな。あの辺り、山の傾斜をそのまま使ってるから」

「ああ、いいわね! ニル、あそこはどう?」

「え? えっと、えっと」


 いきなり聞かれて、スワシェニルが慌てている。急がなくてもいいよー。ゆっくり決めなー。




 結局、スワシェニルに大した望みはないらしく、ミシア主導で教会の裏の家に決まった。


 部屋数も二人で住むには丁度いいし、何より教会の脇を通る路地を二人が気に入ったらしい。ちょっと可愛く作ってあるからね。


 だが、それを作ったのは、魔法ロボットである。あいつら、本当にどっからこんなデザイン引っ張ってきたんだ?


 必要な日用品などは、街の店で買い物。ミシアに引っ張られる形でスワシェニルが振り回されてるけど、段々笑顔が増えてきてる。


「ねえサーリ、家具はどうするの?」

「好みの意匠があれば、教えて。作るから」

「作るって……今から?」

「そう。今夜までには全部揃えられるよ?」

「……そうよね、サーリだものね」


 何でそう、残念なものを見るような目でこっちを見るのさ。隣のスワシェニルがおろおろしてるよ。




 彼女達の着替えは、ヤーニ様達侍女様方がぱっと仕立てたそうだ。凄いな、縫い物の腕。


 そのうち、全自動ミシンとか作ってみようか。名前はぬいこさんで。デザイン画を入れて、着る人間のサイズを入れれば、ぴったりの服が出来上がってくるってやつ。


 うーん、素材はあったっけ? ……もしもし、検索先生?


『失礼しました。少し、神と交信していましたので』


 神様との交信って、そんなに負担がかかるんだ。


『相手は神ですから』


 なんとなく納得。で、ぬいこさんを作る素材、足りますかね?


『少々心許ない素材がいくつか。鉱石系が足りなくなってきています』


 あー、建築だのなんだので使いまくったからなー。そろそろ採取に行かないとだよねー。


『それなら、ここから北東に向かったところに、いい鉱山があります! 人が知らない場所ですから、採掘し放題です。それとですね、そこには温泉もありまして!』


 これ以上、まだ増やすつもりですか!?


『当たり前です。世界の温泉を全て開発しなくては!』


 検索先生の通常運転ですねー。まあ、ミシア達もしばらくはここに慣れるのに時間がかかるでしょうし、その間、腰据えてあちこち採取に行くのもいっか。


『ヴィンチザードに行くのは、もう少し先になるでしょう』


 え? あれ? 現地に行くの? 遠隔浄化じゃなくて?


『反国王派に浄化は効きません。悪い事をしているとは思っていませんから。また、グウィスト侯爵に浄化を使うのは危険です』


 危険とは。


『改心が行きすぎて、一家心中しそうです。しかも、使用人まで道連れにして』


 はた迷惑! なんちゅう改心の仕方か。つかそれ、改心って言うの?


『元々性根が卑しく、小心者だった男が、婿入りで大きな力を得た結果、性格が歪み、肥大したようです』


 おおう……スワシェニルの母方のおじいさん、婿選びに失敗してますよ……

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