第502話 内乱一歩手前の国
ジジ様の家に行くと、居間兼応接室でジジ様とミシアが向かい合って座っていた。
ミシア、顔色悪いよ。
「えーと、ただいま戻りましたー」
「ご苦労様。制御用の腕輪は、もらえて?」
「あ、はい、ここに」
「そう。あの子は二階でまだ寝ているから、はめてきてもらえる?」
「わかりましたー」
何か空気が重いから、この場から逃げ出せるのなら万々歳だ。
二階には、部屋が三つ。一つは主寝室でジジ様の部屋、残り二つは客室にしているんだとか。
まあ、ここにいる限り、客はないんじゃないかと思ってたんだけど。来たね、客。
そっと扉を開けると、カントリー風のベッドにスワシェニルが寝ている。薬で眠らせているので、まだ起きない。
近くでよく見ると、やっぱり痩せてる。腕輪をはめる為に持ち上げた腕なんか、凄く細いよ。
親に虐げられていたっていうから、ろくに食事も出来なかったのかな。そんな子が、一人で家を出て、ここまで来られたんだろうか。
もしかして、誰かが連れ出した?
『正解です』
うわ! びっくりした。ここしばらく検索先生、静かだったから。
『少し、向こうの内情を探っていました』
そんな事まで。で、どうでした?
『彼女を家と国から連れ出したのは、彼女の世話をしていた乳母です。彼女の母親の乳兄弟だったようですね』
ほうほう。という事は、それなりの家の人?
『実家は騎士爵の家です。彼女の夫も、侯爵家に仕える騎士だったようです。本来の令嬢であるスワシェニルと妻の為、侯爵の犯罪にも目を瞑っていました』
辛かったろうな。で、その旦那さんは今は?
『逃亡の途中で、命を落としています。妻の方も、ダガードに入る直前で殺されました』
う……スワシェニルは、そこから一人で?
『そのようです。偶然かどうかわかりませんが、ちょうどその頃国境沿いの街に王妃が慰問に訪れていました。その時にミシアも同行していたようです』
それで、スワシェニルを拾った?
『そのようです。様子がおかしいのと、家紋入りの短剣と指輪を持っていた事から、身元がわかったようですね。国境からそのまま王宮へすぐに逃げ帰りましたが、追っ手の方が先回りして王宮に入り込んでいました。こちらの追っ手は、侯爵家のものです』
ジジ様の実家からの使者なら、奥宮まで入れるのも頷ける。でも、叔父さん陛下はジジ様が不在だって知っていただろうに。
『国王は、奥宮への立ち入りを許可した訳ではないようです。邪魔もしなかったようですが。王太后が不在だという事は、相手には伝えていました』
んー? って事は、勝手に奥宮に入ったよな? お前ら。って事で、捕まえる口実に使ってね?
『そのようですね。実際、今彼等は捕縛されています』
叔父さん陛下……相変わらず腹黒いなあ。そういうところが領主様と一緒だっての。
『捕縛した連中に関して、そろそろ向こうから連絡が来るかと思います』
あー、尋問に手を貸してってやつかなー。いっそ強力浄化をしたら、自白しないかな。
『するでしょうね』
んじゃ、叔父さん陛下から依頼がきたら、離れたここから強力浄化をぶち込んで差し上げましょう!
『……国王は、嫌がるかもしれませんが』
えー? 何でー? ついでに叔父さん陛下の真っ黒なお腹も、浄化しちゃおっか。
『その結果、国が傾くかもしれませんが、よろしいんですか?』
いや、さすがにそれは困ります。てか、国王の腹黒を治したら、国が傾くってどういう事だよ。
検索先生の読み通り、叔父さん陛下からスーラさんで連絡が来た。客間から廊下に出て、念の為遮音の結界を張る。
『やあ、ミシアは元気にしてるかい?』
「開口一番それですか……ってか、スーラさんはミシアが持ってるんじゃないんですか?」
『あの連絡は、私のすぐ側でしていたんだよ。だから、その場で返してもらったんだ』
そうだったんだ。
『あの子とは、合流出来たんだよね?』
「ええ、無事にジジ様のところに連れてきました」
『そうか……ありがとう』
「いえいえ」
『それで、今回の依頼なんだけどね』
来た! 浄化一発で終わらせるつもりだったけど、国が傾いたらダメだしなあ。
『ミシアとスワシェニル、しばらくそちらで預かってもらえないかな』
「へ?」
『ん? どうかしたかい?』
「あー、いえ、二人の事でしたら、ジジ様が預かっているので、大丈夫かと」
『ああ、そうか。母上と一緒だったんだね。じゃあ大丈夫か。うん、母上共々、よろしく頼むよ』
「はーい」
それで、通信は終わった。尋問、頼まれなかったね。
『王宮にいるプロに頼んだのでしょう』
尋問のプロか……知りたくない役職だね。
さてさて、検索先生のおかげでスワシェニルがどうやってダガードまで行けたかはわかった。
あの子がボロボロだったのも。ミシアがついていてあのままだったのは、身なりを整える時間すら惜しいと思って、全部移動時間に充てたからなんだね。
で、スワシェニルの味方だった人達は、もういない。その事を、スワシェニルは知っている。
あの子の精神状態が心配。
「……そういえば、ミシアはどうやってスワシェニルの事情を知ったんだろう」
今のところ、読心術は封じられているはずなんだけど。
『それですが、あの二人は魔力共鳴を起こしたようです。その為、一時的に読心術が使えたのです。同じ血筋にあり、しかも魔力の質が似通っているという条件を満たした為に、起こった事です。しかも、共鳴作用により血に潜む記憶まで読み解きました。彼女はきちんと修業すれば、大変優秀な魔法士になるでしょう』
魔力共鳴? 初めて聞いたよ。しかも、血に潜む記憶って……
『魔力共鳴はかなり珍しい現象です。バルムキートも知らないでしょう。血に潜む記憶は、同じ血に連なる者達の記憶です。過去だけでなく、現在のものも見えます。これを読み解けるのも、希有な才能といえるでしょう』
うーむ、ミシアはじいちゃんの跡を継いで賢者の称号を得られるかもね。
一階に下りると、部屋の空気が幾分和らいでいた。良かった。でも、ミシアが魂抜けかけた顔をしているのは、何ででしょうね?
「サーリ、ありがとう。スワシェニルはよく眠っていて?」
「はい、薬が効いてるようで、ぐっすりと」
「そう。良かったわ。ダガードに入るまでも、大分苦労したようだから」
あー、確かに。検索先生によれば、味方全滅だもんな。といっても二人だけってのが、また辛い。王家の血を引く侯爵令嬢なのに。
「それと、サーリに一つ、聞きたい事があるのだけれど」
「何でしょう?」
「ミシアは今、魔力を全て押さえられているのよね?」
「ええ、そうですね」
「では、何故また人の心を読めたのかしら?」
あー、それかー。私もさっき、検索先生に聞いたばっかりだしなー。という訳で、魔力共鳴や血の記憶の読み解きなどを説明した。
さすがに皆、びっくりしてるね。ミシアも驚きで目を丸くしてる。でも口は閉じておいた方がいいよ。お姫様なんだから。
「そんな事があるのね……不思議だわ」
「反国王派の情報は、おそらく血の繋がりで王家の持つ情報を直接読んだんだと思います」
「反国王派……少し離れている間に、ヴィンチザードは随分と荒れたようね」
ジジ様の呟きが怖い。まあ確かに。内乱一歩手前とか、荒れてるよねえ。
「ミシア、今話した事は、叔父上には伝えてあるのか?」
銀髪さんからの問いに、ミシアは首を横に振る。
「いいえ、そんな暇なかったから。とにかく、ニルを安全な場所へ逃がす事しか考えてなくて……」
「なら、まずは叔父上に全て伝えた方がいいな。通信機を借りたいんだが」
「ああ、はい、どうぞ」
私が持っているスーラさんなら、誰とでも通話可能だからね。銀髪さんは、スーラさんを持って部屋の外へ行った。
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