第501話 魔力壊し

 突然の室内台風で、居間のあれこれが大変な事になったから、ささっと魔法で元に戻しておいた。こういう事が出来るから、魔法って好き。


 眠らせたスワシェニルに関しては、ジジ様の家の客間に寝かせている。


 で、残ったメンツで再び居間に集合。ジジ様が口を開いた。


「先程のあれは、本当に魔力の暴走なの?」

「そうです。制御方法を学べば、暴走する事はなくなりますけど」


 その制御を憶えるまでがなー。ミシアが無意識に、じいちゃんにもらった腕輪に触れている。彼女の場合、他人事じゃないからね。


 ミシアが他人の心を勝手に読んでいたのも、立派に暴走の範囲だから。あれが日常だったと考えると、ミシアの魔力量はとんでもないんだよなあ。


「暴走というのは、魔力を持つ者なら、誰でも起こす可能性があるのかしら?」

「誰でも、という訳ではありません。魔力が少ない者は、そもそも暴走を起こさないと言われています」


 もしくは、暴走しても被害が出ない。何せ、さっきの風で言えば、そよ風程度の微風が室内に起こる程度だから。


 それを考えると、スワシェニルの魔力量は結構なものだと思う。


 ここで一つ、じいちゃんから聞いた話を思い出した。


「確認なんですが、ミシアとスワシェニル、血は繋がっていますか?」

「かなり遠いけれど、血縁よ。私が嫁ぐ際に、母の甥に当たる王家の五男坊が当主として養子に入ったから」


 つまり、ジジ様の従兄弟の孫娘が、スワシェニルって事か。


「なら、現在のヴィンチザード王家には、魔力の因子がありますね」


 私の言葉に、ジジ様だけでなく、銀髪さん達も息を呑んだ。そうだろうね。一国の王家に、魔力の因子が存在するなんて、あまり聞かない話だから。


 でも、魔力は遺伝する。ミシアとスワシェニルがいい例だ。しかも、二人とも魔力量が多い。


 多分、ミシアの方が多いだろうけど、スワシェニルも普通に多い方だ。あの暴走っぷりなら、きちんと訓練すればいい魔法士になれる。


 ただなー。魔法士って、魔力量だけで決まるものじゃないからねー。


 しばらく何かを考え込んでいたジジ様が、私に聞いてきた。


「サーリ、あの子の魔力を押さえる方法はあって?」

「もちろん、ありますよ。じいちゃんがいい道具を持ってます」


 ちなみに、今もミシアの腕にはまってますよー。


「では、その道具を用意してちょうだい。まずはあの子が何を望むのかを、聞かなくてはね」

「わかりました。多分今日一日は起きないと思いますから、今からじいちゃんのところに行って、もらってきますね」

「お願い。ミシア、あなたはここに残ってちょうだい。まだ聞きたい事があります」

「はい」


 んじゃ、行ってきますか。




 家の外に出ると、まだ日差しが強い。あー、おやつの時間、過ぎちゃった。後で何か食べようっと。


 何故か後ろを付いてくる銀髪さんと剣持ちさんは無視して、そのままじいちゃんの家へと向かう。


 ジジ様の家は教会のある広場の上側、じいちゃんの家は下側。山の中だからか、傾斜を残して街が造られてるんだよね。


「……ミシアも、魔力を暴走させる事があるのか?」


 銀髪さんだ。これは、私に聞いてるんだよね?


「しますよ。というか、させてました。彼女はスワシェニルよりも魔力が多いせいか、普段から暴走状態でしたね」

「……読心か」

「そうです。今はきちんと魔力を押さえているので問題ありませんが、あのまま暴走させっぱなしだったら、もしかしたら、短命だったかも」


 後ろで、銀髪さん達が息を呑む音が聞こえた気がする。でも、これは本当の事。


「暴走って、要は使い方を知らないまま、魔力を振り回す事でもあるんです。剣だって、ちゃんと扱い方を知らないで、力任せに振り回していたら大変でしょ?」


 下手すると、筋肉を痛めて回復に時間がかかる。でも、魔力の場合は回復方法がない。


「振り回した魔力で、自分自身も傷付けるんです。物理的な傷ではなく、魔力を使う精神部分が焼き付きます」


 だから、魔力の使いすぎには十分注意しないといけない。といっても、私の場合は特殊だから、どれだけ使っても問題ないけどね。


 実際、普通の魔法士が私と同じ事をやったら、ミシアくらいの魔力量でも十日ともたないんじゃないかなー。


 だからこそ、魔法士が目指すべきはじいちゃんなんだよ。あの人、魔力量自体はそれ程でもないんだけど、何せ使い方がうまい。


 創意工夫って、ああいうのを言うんじゃないかな。私の場合は、底なしの魔力量に物を言わせるタイプ。物理ではなく、魔力でぶん殴る方向です。


「ミシアは……大丈夫なのか?」

「問題ありませんよ。彼女は生まれ持った魔力量が多いのと、実は無意識の間に力を押さえる事をしてましたから」

「そうなのか?」


 意外に聞こえるかもしれないけど、これは本当の事。


「そうでなかったら、違う意味で精神が焼き切れてましたよ。人が考えている事が勝手に頭の中に入ってきたら、どうします?」


 寝ている間も、ひっきりなしに人の声を聞き続けるようなものだからね。そういう意味では、生存本能のようなもので押さえていたのかも。


「それに加え、今はじいちゃん特製の腕輪で魔力を押さえてますし、制御方法も習ってますから」

「……そういえば、バム殿の元を離れてかなり経つのではないか?」

「あー、ちゃんと自習用のあれこれは渡してあるっていうから、本人が怠けてなければ大丈夫かと」

「ミシアだからな。怠けていないとは限らないぞ」


 ミシア、信用ないな。


「それならそれで、ずっと腕輪を外さなければいいんですよ。あの子はお姫様なんですから、魔法で身を立てる必要はありません」


 大体、魔法士って、それで食っていける! って目標があるから皆頑張って修行するんであって、他でそれ以上に稼げるなら、そっち行くって。


 魔法修行、結構大変って言うから。きつい修行から逃げ出して、その後魔法士崩れになる人も多いそうな。


 まあ、ミシアにはぜひとも制御くらいは憶えていただきたい。でないと、厄介な事になりかねないからね。


 そんな事を話していたら、じいちゃんの家に到着。


「じいちゃーん、いるー?」

「おお。何ぞ、風が強かったようじゃな」


 これはもう知ってるな? さっきの暴走の事。


「うん、それで、魔力制御用の腕輪が欲しいんだけど」

「さっき間に合わせで作ったわい。ほれ」

「ありがとー」


 さすがじいちゃん。用意がいいなあ。腕輪を受け取ったら、背後にいた銀髪さんが一歩前に出た。


「バム殿、少し、話を聞いてもいいか?」

「ふむ、構わんよ。暴走の事かの?」

「それもあるんだが……魔力制御を教えてほしいと言ったら、教えてもらえるか?」


 え? 銀髪さんが、魔力制御を憶えるの? 無駄じゃね?


 じいちゃんも同じ事を考えたのか、確認した。


「それは、カイド殿にかの?」

「俺じゃない。先程暴走した娘にだ」

「ふむ。それは、その娘次第じゃな」

「娘次第?」

「魔力制御は単調な事を毎日繰り返す。それを嫌って怠ける者が多いんじゃ。ある程度慣れれば、制御をせずとも魔法は使えるからの」

「では、魔法が使えれば、暴走はなくなる?」

「どうかの。ミシア程の魔力量であれば、制御を憶えずに使ったら確実に暴走する。大きな力は、使い方を間違えると大変なんじゃよ」


 ミシア、ちゃんと制御方法自習しててね。でないと……


「ミシアが、制御を憶えなかったら、どうなる?」

「国王陛下の判断にもよるじゃろうが、魔力を壊し、永久に魔法を使えないようにするじゃろうな」


 本気で魔力を封じる場合、体内の魔力全部を壊す事になる。じいちゃんが作る腕輪は、あくまで簡易の制御装置だから。


 じいちゃんが話した内容に、銀髪さんがショックを受けてる。ダガードには魔法士が少ないから、魔力壊しも知らなかったんだろう。


 南ラウェニア大陸には魔法士が一杯いるから、中には魔法を使って犯罪を犯す人間もいた。


 そういう人達も、刑罰の一つとして魔力を壊される。二度と魔法で悪さ出来ないように。


 まあ、大半は壊される前に死罪になるけどね。魔法士が関わった犯罪って、重罪な事が多いから。


 しんと静まりかえってしまった室内に、じいちゃんの声だけがした。


「何はともあれ、今はその腕輪をその娘にはめてやるがよい。二度も三度も暴走させては、本人の為にならん」


 そうだった。ここには腕輪をもらいに来たんだったわ。改めてじいちゃんに礼を言って、家を出た。


 後ろに銀髪さん達が付いてきてるかは、確認しなかった。

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