第498話 開店
旧ジテガンからウィカラビアに戻って翌日。叔父さん陛下からスーラさんで通話が来ましたよー。
「もしもーし。ご無沙汰してまーす」
『……ミシアから聞いていたけど、本当にもしもしって言うんだね。どうしてだい?』
「癖のようなものです。気にしないでください。用件は、ジジ様の事ですか?」
『そうなんだ。母が面倒かけるね』
「いえいえ」
ジジ様の面倒なんて、面倒に入りませんて。基本、ご本人がやりたいように過ごしてますからねー。
私も特に呼びつけられる事もないしな。あれ? 別に面倒、かけられてなくね?
『それでね、悪いんだが、母の望み通りにしてはもらえないかな?』
「ああ、いいですよ」
『相応の礼は……え? 即答?』
「ええ。ジジ様がここを気に入ったというのなら、いつまででもいてもらって構いません」
『えーと、そう言ってもらえるととても助かるんだけど……何故快諾してくれたか、聞いてもいいかい?』
そんなに難しい事かな? ジジ様にはお世話になってる事が多いし、ユゼおばあちゃんとも相性がいい。
それに、ジジ様ってまっすぐな人だから、話していても気持ちいいんだよね。
その辺りをつらつらと下手なりに説明したら、スーラさんの向こうの叔父さん陛下が黙っちゃった。
しばらく無言が続いたけど、やがてぽつりと呟きが聞こえてくる。
『……ありがとう』
叔父さん陛下にお礼を言われる事じゃないんだけどなー……と思ったけど、そういや叔父さん陛下はジジ様の息子だったわ。
あれだ、年いくと、大人と子供が逆転するって、おばあちゃんが言っていたやつだね。多分。
「ジジ様に会いたくなったら、いつでも連絡ください。迎えに行きますから」
『そうだね……私は早々国を開けられないから、ミシアを迎えに来てやってほしいかな』
ミシアかー。下手にここに連れてくると、あの子も帰りたくないって言い出すんじゃないかなー。
「賭けてもいいですが、ミシアをここに連れてきたら、絶対帰らないって言い出しますよ?」
『そうだね。そんな気がしてきた……その時は、力ずくで連れ帰ってくれないかな』
ミシアの抵抗、凄そうだなあ。
という訳で、ジジ様がウィカラビアの温泉街に滞在する事は、割とあっさりと決まった。まあ、既にここにいるからね。
ジジ様達とは、正式に賃貸契約を結ぶ事になった。私の方は気にしないんだけど、侍女様方がねー。
「こういう事はしっかりしておいた方がいいのよ」
「ええ、契約事は、きちんとしておかないとね」
「欺されたりしたら、大変なのよ」
欺そうとする人は、今ならわかるから大丈夫って言っても、無理なんだろうなー。
ジジ様と侍女様方、それぞれ家一軒ずつの契約で、一月五万ブール。デンセットで戸建ての家を借りると、一月でそれくらいするって聞いたので。
円換算で一月五万円と思うと、家一軒としては安いよなー。でも、こんな何もない山奥の家と考えると、高いかもね。
とはいえ、一応暮らす為の設備は整っているからか、誰からも文句は出なかった。
私の方はと言えば、次の目的地が決まっていないので、現在はウィカラビアで羽を伸ばしている最中。
たまに沖合の島に停泊中の船に行って、三匹と遊んでくる。ブランシュ、ノワール、マクリアの三匹は、今も船の中の砦で生活中。
なんかね、あそこで留守番してるんだってさ。毎日外の空を飛んでるから、運動量は問題ないし、食料も近くの海で魚や海の魔獣を狩っているらしい。
それをほっとくんに渡して、調理してもらうんだってさ。君達、ある意味たくましいなあ。
しばらく会わなかったら、マクリアが大きくなっていてびっくり。体色は青みが強くなっていて、もう白い部分は少なくなっている。
ブランシュもまた一回り大きくなってたし、輝く白で眩しい程。やっぱり、グリフォンの王はブランシュかー。
ノワールは体高はさほど変わらないんだけど、足が細くなって競走馬のよう。運動って、大事なのね。
「ブランシュ、ここまで大きくなったら、もうそろそろ話せるんじゃない?」
「話せるよー」
「ええ!?」
びっくり。いきなり話し出した。しかも流暢に。ノワールを見たら、首を縦に振ってる。
「ついこの間、すらすら話し始めたんだ」
「いや、君も随分流暢になってないかい!?」
ちょっと離れている間に、二匹とも成長したんだねえ……じゃあ、マクリアは?
「プープー」
うん、君はもうそのままでもいいかもしれない。しかし、契約者であるミシアから離れて随分経つけど、いいのかね?
「大丈夫。契約者とは、距離が離れていても繋がっているから」
「そうなんだ」
んじゃ、ミシアを連れてくるのはやめておこうっと。来たがるだろうけど、その分帰りたがらないのが目に見えるから。
ダガードで頑張ってお姫様修業、していてくれ。
ウィカラビアでのんびりし始めてはや十日。旧ジテガンの果樹園にもまた顔を出してきた。
バイルーの苗は、今のところ問題ないようで、成長が楽しみです。ふふふ、いい実がなりますように。
あと、領主様と相談して、商会から商品を調達、ウィカラビアの温泉街でちょっとした店を開こうという事になった。
前にちょっと計画したんだけど、それが具体的な形になったってところ。
いやあ、日用品とか細々したものって、やっぱり欲しいじゃない? で、そういう時にいちいち私を通さないと手に入らないっていうのはどうかなあと思って。
それを話した時、領主様からは変な反応をもらっちゃったけど。その辺りは、具体案をじいちゃんに相談していた時、銀髪さんが説明しれくれた。
「ジンドの反応が妙なのは当然だろう。お婆さまは自分で店でものを買う事など、ないんだから」
「へ? じゃあ、欲しいものがある時は、どうするんですか?」
「侍女に話しておけば、そこから王宮の関係部門に話が通り、御用達商人が品を持ってくる。最終的に、持ってきた品の中から選ぶくらいだな」
「え? じゃあ、好みの意匠とか、どうするんですか?」
デザインに好き嫌いはあるよね。色とかもさ。そうしたら、さすがは王族って答えが返ってきた。
「そういった部分は、商人の方がよく把握している。だから彼等は侍女や使用人から、それとなく情報を得るようにしているんだ」
その時々で、主の好みを把握するのも、侍女や使用人の勤めだそうですよ。大変だなあ。
中でも、主本人ではなく、侍女や使用人のセンスがいいと、社交界での評判も上がるそうな。
なので、センスのいい侍女や使用人は引く手あまただそうだよ。
「お婆さまの場合、ご本人の趣味がいいから、お若い頃からご自身でドレスの柄までお決めになっていたと聞いている」
「それは凄い。あ、だからあっちこっちで布地を買ってたんですね」
他国の布地は、ダガードのものとはまた違う織りだったり染めだったりするから、ジジ様にとっては感性が刺激されたんだろう。
今も買い込んだ布地で仕立てた服で過ごされてる。服の型は、以前お渡しした楽なやつ。相当気に入ったんだね。
また新しい型、検索先生に探してもらおうかな。最近はユゼおばあちゃんも一緒になって、あれこれ楽しんでるみたいだし。
「今までは今までとして、旅の間はご自身での買い物を楽しまれていたようだから、この街に店が出来るのは、お婆さまとしては歓迎するんじゃないか?」
「だといいですねえ。とりあえず、小物や日用雑貨、あと本を置こうかと」
「本? 本を、店で売るのか?」
「おかしいですか?」
街の本屋さん。いいよね。子供の頃通っていた本屋さんはなくなっちゃったけど、学校の側にはあったなあ。
よく放課後、みんなで寄ったっけ。
銀髪さんは、何か考え込んでる。
「まあ、ここなら外から人が入ってくる事はないから、いいのか」
「何ですか?」
「いくら印刷が普及してきたとはいえ、まだ本は高価なんだよ。だから、本を売る店は盗まれないように防犯をしっかりしているんだ」
「あー、なるほどー。でも、ここは人も少ないですし、万引きもないでしょう」
本屋さんって、万引き被害が多くて大変って、よく聞くもんね。万引き、ダメ絶対。
店番は適当に護くんを改造して作った。名前はどうしようかな……
「よし、店先に出るんだからばんとうさんで!」
ついでにばんとうさんの下で細々働くでっちくんも作った。店先の掃除は君の仕事だ! でっちくん。いや、他にも仕事、あるけど。
例によって例のごとく、ばんとうさんとでっちくんの名前を聞いたじいちゃん達の反応は、残念なものを見る目でこちらを見ていた。
ふんだ! わかりやすければいいのだよ!
店先に置く品は、ジジ様達にアンケートを採って決めた。こんな山奥の急ごしらえの店に置いてあるとは思えない程高品質なものばかり。
買うのが王侯貴族のご婦人方ですからねー。
品物は、ばんとうさんが在庫を管理していて、数が少なくなったら私に連絡が来るようになっている。仕入れは私の担当だから。
ウィカラビアからダガードに戻り、港街キッカニアで品を仕入れる。
いや、凄いよあの街。またぐんと発展してた。人も増えたし、建物も増えて活気があるわー。
船団に参加している商会のいくつかと契約したので、そこの支店に行って品物を仕入れる。
新商品があると、お試しとして少量仕入れるのも忘れない。
何か、こういうのも楽しいね。
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