第493話 新しい力

 神罰申請のシステムを教えたら、またしても頭を抱えられた。しかも三人に。


 疲れた顔の領主様が、質問してきた。


「という事は、サーリが希望すれば神罰が下ると?」

「一応、申請出来るってだけで、審査の結果拒否される事もありますよ」


 今までは一度もないけど。多分、理不尽な申請をしたら、弾かれると思うんだ。その前に、検索先生に止められるんだろうけどさー。


「あ、あと、神様を侮辱する行動を取ると、自動で神罰対象になるそうです。それと、私を神子だと認識した上で、害を与えても神罰対象なんだとか」

「神子だと認識した上で害を……それは、ローデンの王家も知っていた事かな?」

「多分、知りません。神罰が下るようになったのは、邪神がいなくなって瘴気が薄れたからだって聞きました」

「そうか……だからか……」


 知ってたら、あの国の連中ももうちょっと考えて行動したと思うよ。知らなかったからこそ、用済みの神子として扱ったんだろうし。


 その結果が、ローデンや周辺諸国への異常気象だ。その後、ナシアンには個別できつい神罰が下ったけど。あれはあの国がやり過ぎたからだしね。


 しばらく考え込んでいた領主様は、やがてにやりと笑った。


「という事は、フェリファーは命拾いしたというところかな?」

「え!?」

「君、サーリには冷たく当たっていただろう?」

「あれは! ……カイド様に、近づく女だと思って」


 ちょっと待て剣持ちさん。私が、銀髪さんに媚びを売っていたとでも!?


「まったく、だから君はもう少し女性との関わり方を学ぶようにと言っただろうに。嫌がって避けてばかりいるから、女性を理解出来ないんだよ」

「ぐ……しょ、精進します」


 さすが領主様。剣持ちさんが完全に負けてる。


「カイド様もですよ」

「俺!?」

「あなたも女性を苦手にしているでしょうが。帰国したら、少しその辺りも詰めてお話ししないといけませんねえ」

「もう王位は叔父上に譲ったんだから、いいだろうが!」

「王族だという自覚をお持ちください。なあ、サーリ」

「ですよねー」


 ふっふっふ、さっきの言葉がブーメランのように銀髪さんに戻ってるー。


「く……卑怯だぞ!」

「何も卑怯ではありませんよ。サーリに立場を自覚しろと仰ったんですから、ご自分も自覚なさってくださいね」


 さすがに何も言い返せまい。けっけっけ。




 イケメン王子に渡すにしても、コロドン卿を通じて呼び出すか、こちらから出向くしかない。


 領主様がその辺り、調整してくれるというのでお任せ。その間、ここで待っている事になった。


 銀髪さんと剣持ちさんは、テーブルの上の無名に興味津々だ。神剣として、というより剣としての興味みたい。


「切れ味はどうなんだ?」

「ちょっと振ってみたいですね」

「これ、抜いてもいいか?」


 おもちゃを前にした子供みたい。まあ、抜くくらいならいいかな。てか、神剣なんだから、切ったりしちゃダメなんじゃね?


「振ったり試し切りとかしなければ、鞘から抜くくらいならいいですよ」

「よし!」


 神剣無名くんは、凝った意匠の鞘に収まってる剣だ。見た目は装飾多めの儀礼用の剣って感じ。


 でも、魔力をたっぷり使って補修し、かつ土地神様の力が入ったからか、刀身が七色に光る不思議剣になっちゃった。


 まー、綺麗だからいっかー。


 男子二人は神剣を抜いてキャッキャと楽しそうにしてる。こういうの、女はわからんよなあ。


 生ぬるく眺めていたら、スーラさんに着信。あ、じいちゃんからだ。


「もしもーし、じいちゃーん? 元気ー?」

『おお、こちらは全員元気じゃよ。そっちはどうじゃ?』

「うんとねー、偽物の神剣を拾ったら、本物になったー」

『……どういう事かの?』

「えーとね、神殿にあった偽物神剣は盗賊に盗み出されて、運ばれてる最中に谷底の川に落ちたらしいんだ。で、それを拾って損傷が激しかったから修復したら、ここの土地神様が偽物を本物にしてくれたの」

『……相変わらず、やる事が普通じゃないのう、お主は』


 いや、神剣を本物にしたのは土地神様だから。私じゃないからね。


『それで、その本物になった神剣は、どうするんかの? 亜空間収納行きか?』

「ううん、この国の王権の象徴だっていうから、王位争いしてる王子にあげる。悪い人じゃなさそうだから」

『そうか。その方がええじゃろうな』


 私が持ってても、意味ないし。イケメン王子も、今はいいけどこの先はどうなるかわからないっちゃわからない。


 人って、簡単には変わらないけど、根っこの部分が表とは違ってて、それがいきなり出てくるって事もあるから。


 そう考えると、あの神剣に王様の監視機能でもあればいいのにって思っちゃう。


『付けますか?』


 え?


『今なら特別サービスで付けるよー、と土地神が言っています』


 本当、ここの土地神様はノリが軽いな! でもやってくれるなら、お願いします!


 神剣を持つ王が悪政を強いるようになったら、神罰軽めに落としてほしい。


『……付与完了です。これにより、民の声を無視した政策を行う王には、強制改心の神罰が下ります』


 軽めじゃなかったー!


『名ばかりとはいえ、神剣を粗雑に扱われて土地神が怒っています。その現れかと。今までは瘴気のせいでうまく力が使えなかったそうですが、神子が一掃したので本来の力を取り戻せたと喜んでいます。そのお礼も兼ねているのだとか』


 こんなところにも瘴気の悪影響が。邪神は本当、いらない事しかしない奴だったんだな。


 いやー、それにしても、お礼が「道を踏み外したら強制改心」機能付きの神剣とは、これ如何に。


 この先もこの国とダガードが付き合うなら、いい王様でいてくれた方がいいから、結果オーライなのかな。




 領主様が話を付けてくれた結果、明日敵側も含めて神剣の真贋を問う場を設けるそうな。


「何故そんな話に?」

「これを機に、敵側を一掃しようという腹のようだよ」


 一掃……つい先程も聞きましたね、その単語。煩悩まみれの敵側が、神剣くらいで引き下がるかねえ?


 その辺りは、私が考える事じゃないか。


「それでサーリ、念の為、明日の出番までこの屋敷と神剣に結界を張ってもらえないかな?」


 ああ、この期に及んで盗みだそうという人間がいる可能性があるんですね。敵側、大分追い込まれてそうだしなあ。


「了解です。あの王子の方は、いいんですか?」

「刺客から身を守れない程度では、王になっても長続きはしないだろうよ」


 領主様、辛口ですね。でも、この先も私が守ってあげる訳にはいかないんだから、自衛頑張ってねという意味でも、自分達でどうにかしてもらわないとダメなのか。


 何でもやってあげるのは、よくないんだね。

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