第489話 おいしい依頼
一応、銀髪さんにも確認を。
「ジンドが冤罪で捕まった!?」
「一応、領主様のご意向で、銀髪さん達はウィカラビアに引いた方がいいという事なんですけど」
「ジンドを置いて行けるか!!」
ですよねー。思わずリーユ夫人を見ると、苦笑いしてる。銀髪さんも、わかりやすい人だよなあ。
「それにしても、ジンドはおとなしく捕まったのか? らしくないんだが……」
「何か、考えがあるとか?」
リーユ夫人に聞いてみた。
「あの人の考えなんて、私じゃわからないわ。でも、サーリがいるから、あなたが助けに来てくれるって信じているのかも」
にっこり笑って言われてしまいました。まー、動きますけどね。領主様がこの国に囚われたままだと、コーキアン領もダガードも大変な事になりかねないし。
それに、日頃お世話になってるし、いい顧客でもある。助けないって手はないな。
あ、そういえば。
「リーユ夫人、領主様って、スーラさん、持っていったでしょうか?」
「肌身離さず持ち歩いているって言っていたから、多分持っていったんじゃないかしら。あれ、他の人が見たら何の為のものなのか、わからないでしょうし」
あれが通信機だなんて、わかる人はそう多くないよね。スーラさんを領主様が持っているのなら、後で連絡は出来る。
「って事で、領主様からの連絡を待ちましょう」
無駄なく動くには、その方がいいでしょ。……いや、検索先生に聞けば、大体のところはわかるんだろうけど。
『コーキアン辺境伯の身柄は無事です』
ですよねー。本当に領主様に危険が及んでいたら、多分先生が先回りで教えてくれるはずだから。そういうところは信頼してる。
捕縛騒動で宿自体も軽いパニック状態だったけど、さすがは高級宿、従業員教育もしっかりしていたらしく、すぐに騒動は収まった。
一応捕まった領主様の関係者って事で、宿から放り出されたら船で過ごそうと思ってたけど、それはないみたい。
そういう意味でも、やっぱりこの冤罪捕縛騒動、裏があるよねー。
と思ってたら、早速リーユ夫人にスーラさんで連絡が入った。
「ジンドなの!?」
大声で返してしまい、はっと気づくリーユ夫人。大丈夫、部屋には色々術式盛り込んだ結界を張ってあるから。
「ええ……ええ……それは大丈夫。でも、皆この場に留まってるわ……ええ……え? そうなの? でも……わかりました」
何やらやり取りの後、リーユ夫人は深い溜息を吐いた。
「今聞いていた通り、ジンドと連絡が取れました」
「ジンドは、何と?」
「心配はいらないから、とだけ。また連絡するとも。ウィカラビアに戻らないのなら、そのままここで待つように、ですって」
思わず銀髪さん、剣持ちさんと顔を見合わせる。
「……どういう事でしょうか?」
「今回の捕縛騒動、ジンドも一枚噛んでるな」
「ですよねー」
いつの間に、偉い人とのパイプを作ったのやら。リーユ夫人も何やらがっくり脱力してるから、同じ事考えたんだろうね。
「ジンドは、まだこちらに助けを求めてはいないんだよな?」
「はい、心配するなとだけ。事情を聞こうにも、何も聞くなと言われてしまって……」
大丈夫と言われても、リーユ夫人だって気になるのは当然。まだ説明出来ない段階なのかもしれないけど、もう少しこう、情報をだね。
「あれがそう簡単にくたばるとも思えん」
「カイド様!」
銀髪さん、口悪いなあ。剣持ちさんんが慌てたのは、リーユ夫人がいるからだろうね。
「ああ、口の悪さは許せよ、夫人」
「存じておりますから」
にっこり笑う夫人。やっぱり、強いよなあ。
何もせずに宿で待つのも疲れるもの。どうせやる事がないのなら、少し街を見てきてもいいかなあ。
却下されるかなー? と思って申し出てみたら、意外にも受け入れられた。おお、言ってみるものだね。
「ただし、全員でだ」
銀髪さんの言葉に、思わずブーイング。
「えー」
「えー、じゃない。ジンドからの連絡は、夫人に入るだろうし、その時はすぐに動けるようにしておくべきだ」
「だったら、リーユ夫人と二人で行ってきますよ」
「すぐに動けるように、と言っただろうが。俺達を置いて行く気か?」
ちぇー。反論出来なかったので、四人で出る事になっちゃった。
駄々っ子港街は、それなりに活気があっていい街だと思う。船団の船は港にあるけれど、乗組員とかはどうしてるんだろう?
「一応、この街からは出ないように言われてるらしいわ」
私の疑問は、リーユ夫人によって解消された。あのスーラさんでの短い通話で、そこまでは聞いたらしいよ。
「そうなんですね。割と緩いのかな……」
まあ、今回の捕縛騒動には領主様も絡んでるっぽいからねー。あらかじめ、取り決めでもされてたのかも。
街に出て来たのなら、やっぱり買い物でしょう! という事で、私は青果店を中心に、リーユ夫人は服飾、小物、雑貨を中心に。
男性二人は体の良い荷物持ちですな! 付いてきた以上、拒否は許さん!
「ふふふ、カイド様をこんな風に使ったなんて知れたら、何て言われるかわからないわね」
「大丈夫ですよ。文句言う人がいたら、ジジ様のところに逃げ込みましょう。ジジ様なら、銀髪さんを荷物持ちに使ったところで、怒らないから」
「それもそうね」
銀髪さんと剣持ちさんが苦い顔をしてるけど、気にしない気にしない。
そんな感じでのんびり待っていたら、捕縛騒動から五日も経ってた。時の過ぎるのは早いなあ。
っと、スーラさんに通知が。誰だろ。あ、じいちゃんからだ。
「もしもしじいちゃん?」
『おお、サーリか。そちらはどうじゃ? 神剣の事は、何ぞわかったかの?』
「いやあ、それがさあ」
領主様の元に行く際、神剣絡みの話を聞いてるから、それを見に行くって言ってあるんだよね。
かいつまんで今の状況を話したら、スーラさんの向こうでじいちゃんが唸っている。
『うーむ。領主殿は何か厄介事に巻き込まれておるのかのう?』
「もしかしたら、って話だけど、神剣が王権に絡んでる場合、王位継承問題が起こってるかもって、先生が」
『なるほど。本物偽物関わりなく、それを手に入れる事こそが重要という事じゃな』
うん、多分そんな感じ。通りの端とはいえ、外でこんな内容を話せるのも、護くんの結界があればこそ。
でないと、音声がダダ漏れだし、何より普通の音量で独り言言ってる痛い人になってしまう。
結界で音が漏れないようになってるし、外からは喋っていないように見えるからね。
『それにしても』
「何?」
『お主は次から次へと面倒事に絡むのう』
「いや、どっちか言ったら巻き込まれてるだけですから」
『自覚なしとは……』
失礼だな! 本当に巻き込まれてるだけじゃないか。自分から動いたのって、邪神教団くらい? ……だよね?
じいちゃんとは、その後も近況報告とかして通話終了。翻訳にのめり込まないよう釘も刺しておいた。
側で見張れないからなあ。ユゼおばあちゃんが代わりに見張ってくれてると期待しておこう。
宿と街の往復をする事さらに四日。捕縛騒動から九日目にして、ようやく領主様からの連絡がきた。
ちょうど買い物から帰ってきたところに、リーユ夫人のスーラさんに着信の音が。
『いやあ、待たせてしまったね』
「本当よ。待ちくたびれてしまったわ」
えー、リーユ夫人、結構買い物を楽しんでいたのにー。ジジ様とスーラさんで連絡を取り合って、ジジ様達の分まで服とか小物を買い込んでいたの、知ってるんだからね。
まあ、それはさておき、現在領主様はこの国の王都であるレリッツにいるという。
『ヤーダヤからは北西に位置する、山裾の都だ。そこのコロドン卿の屋敷に滞在しているよ』
滞在なんだ。捕まってるじゃなくて。
「それで、私達は王都のコロドン卿のお屋敷に行けばいいのかしら?」
『そうだね。悪いが、こちらから迎えを出す訳にはいかないようだ。サーリ、依頼してもいいかな?』
おっと、私に話が回ってきちゃった。でも、依頼という事なら、オーケーですよー。
「依頼内容は、夫人と銀髪さんと剣持ちさんを、王都のコロドン卿のお屋敷に連れて行く、でいいですか?」
『ああ、報酬ははずむよ。それと、コロドン卿の領地には、王室にしか卸していない果物があるそうだよ。おまけで、それも融通してもらおう』
「行きます! 今すぐにでも!」
王室にしか卸していないとか、何それ美味しそう!
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