第480話 狩りの結果
山に出る魔獣は、大型のものばかりだった。
「はっはっは!」
「はあ!」
うん、私の出る幕、ないようです。さっきから切り倒された魔獣を亜空間収納に入れるだけの、簡単なお仕事しかしてないよ。
銀髪さんと剣持ちさん、最初はドラゴン素材のセラミック魔剣に戸惑っていたけど、扱い方を憶えたら無双状態になってる。
どんなに大きくて堅くても、簡単に切れるものだから楽しいらしいよ。
「これは愉快!」
「いい仕事が出来る!」
うん、もう二人だけでいいんじゃないかな。
結果発表。大きな熊で角がある種が三十頭、デカい牙ををむき出しにしてきた大きな鹿が四十五頭、頭が三つある猪が十六頭、他細々した魔獣を含めると、計百三十八頭仕留めました。二人だけで。
「いや、この剣はいい!」
「恐ろしくなる程の切れ味ですね……」
「あ、それはこの山限定の貸し出し品なので、返却してもらいますよー」
「え!?」
いや、最初にちゃんと言ったよね? 何でそんな世界の終わりみたいな顔してるのさ。
銀髪さん、後ろに隠しても無駄ですよ。離れた場所にあるものでも、亜空間収納には入れられるんだから。
剣持ちさんも、諦めてください。涙目で見つめてきても無駄です。さあ! とっとと返してもらいますよ。
二人からドラゴンセラミック魔剣を取り上げたら、もの凄いしょぼくれてる。約束は約束です。
「くそう……その剣、売ってくれないか!?」
「そ、そうだ! 買い取ればいいんだ」
また無茶を言う。さっきの無双ぶりを考えると、あれはこの二人に与えちゃいけない代物だ。
「高いですよ?」
「いくらだ!」
「それなりの蓄えなら!」
「百二十兆ブールです」
「はああ!? おま……それ……国家予算の何年分だと思ってるんだ!」
「ひゃく、にじゅう、ちょう……」
そーだよねー。日本の国家予算だって、ここまではいかないって額だから。
「よく考えてくださいね。この世界で、下位種とはいえドラゴンを倒せる人間、どのくらいいます? 倒して素材を回収出来る人間、どのくらいいますか?」
「う……」
二人して答えに詰まったな。空を飛んでるドラゴンって、攻撃しにくいし普通の武器は届かないんだよね。
大型の弓矢であるバリスタとか、攻城武器の投石機とか、普通はその辺り。それでも倒せないで大変な思いをするんだから。
「私は魔法でさくっと倒せますけどお? そんな貴重なドラゴン素材をふんだんに使い、人造ダイヤというこの世界ではまず私以外作れないものまで使用して作った魔剣ですからあ? お高いのは当然ですよねえ?」
「待て、なんだその人造ダイヤとかいうのは」
あれ? これは話してなかったっけ? あ。やべ。じいちゃんしか知らない話だったかも。
「えー、魔法でダイヤを作る技術の事ですがー」
「そんなものまで作れるのか!?」
作れちゃうんですー。おかげで中継器が良い感じで出来たしなー。でも、やっぱり口止めはしておくべきだよね。
「この事はご内密に」
「当たり前だ! こんな話、おいそれと出来るものか! 頭がおかしい人間と思われる。フェリファー、お前も口外するなよ」
「心得ました」
よし! 口止め成功。あとは話を逸らすのみ!
「さあ、近くの街を探して、この魔獣を換金しましょう。この国のお金が手に入ったら、私がブールで買い取りますから。さー、いくらになるんでしょうかねー」
「お前、あからさまに話を逸らしてないか?」
ギックウ! どうしてこういう時だけ、察しがいいんだよもう。
その後、何とか二人を言いくるめて、近場の街まで行ってみた。街に入るのに、ちょっとした面倒があったけどね。
こっちの街、中に入るのにお金がいるんだって。でも、この国のお金は持っていないので、門番の人と交渉する。
「魔獣を倒して素材を売りたいんですけど、扱ってるところ、ないですか?」
「何!? 魔獣だと!? どこに出たんだ!?」
「いえ、山の方で狩ってきたんです」
「山あ? ……ああ、バッツ山か。それなら、大通りを進んで左側にある討伐組合に持っていくといい」
「ありがとう。でね、素材を売らないと、お金がないんだけど……」
「何だって? しょうがねえな。そうしたら……おい、あんちゃん二人はここで足止めだ。嬢ちゃん、その素材を売ってここに入街税を払いにきな。一人百ツフだ」
「わかった。じゃあ二人とも、ここで待っててね」
「あ、おい!」
背後から銀髪さんの声が聞こえるけど、気にしない。今は現金を手に入れるのが先だからねー。
門番のおじさんが言っていた討伐組合ってのは、門から少し行ったところにあった。
「ここかー。てか、ここの文字も読めるんだね」
『自動翻訳です』
ありがとうございます、検索先生。あの二人にも、貸しっぱなしの護くんを通じて翻訳してくれてますよね。言葉が通じるって、素敵。
討伐組合は、入るとただの酒場って感じ。入り口から奥まで丸い大きなテーブルがいくつも並んでいて、一番奥にはカウンター。
でも、その棚には木製のジョッキが並んでいて、カウンターの上には小さな樽。うん、完全に酒場だわ。
ここ、本当に討伐組合なの? 案内板みたいなのも出ていないしなあ。仕方ない。カウンターにいるごついおっちゃんに聞いてみよう。
「すみません、ここ、討伐組合ですか?」
「そうだが?」
あ、本当にそうなんだ。
「狩ってきた魔獣、買い取ってもらえる?」
「ああ?」
目の前には怪訝そうな顔のおっちゃん、背後のテーブルには飲んだくれている連中がいて、そいつら全員が笑い出した。うるさー。
「おいおいおい、こんな娘っ子が魔獣を狩ってきただって?」
「嬢ちゃん、早いとこ家に帰って母ちゃんの手伝いでもしてな」
「ここは子供の来るところじゃねえよ」
うわー。こういうの、昔どっかで見た事あるなあ。確か、再封印の旅の途中で狩った魔獣を売りに行った時だ。
あの時、こっそり私一人で行ったんだよなあ。で、後でヘデックとじいちゃんに思いっきり怒られたっけ。
あの頃のヘデックは、まだまともだったのに……
おっと、感傷に浸ってる場合じゃないや。
「買い取ってくれるの? くれないの?」
「……なら、狩ってきたってえ魔獣をここに出してみな」
「ここに?」
「出せねえのかい?」
「うーん、狭くて全部出せないと思う」
「は?」
いやあ、でかいのが山盛りだからねえ。しかも、あの二人が狩ったので、切り傷も凄いし。
特に最初の頃は、そんなに切り刻む必要あるのかってくらい切ってたからね。セラミック魔剣の使い方を憶えてからは、的確に首を落としてたけど。
あ、首くらいなら、出せるかな?
「一部でいいなら出すよ。血が出てるけど、いい?」
「へっ。出せるもんなら出してみな。大体、入れ物すらも持ってねえ――」
熊の頭をごろりと出したら、カウンターのおっちゃん、言葉の途中で驚きの余り黙りこくっちゃったよ。顎、閉じないと外れるよ?
背後でゲラゲラ笑っていた連中も、しんと静まりかえってる。だから言ったじゃん。血が出てるよって。
出したのがカウンターの下だったから、流れる血で床が汚れてるよ。
「これは首だけど、ちゃんと胴体もあるから。しかも新鮮だよ? 内臓も、薬に使えるくらいの鮮度はあるから」
カウンターのおっちゃん、私の声、聞こえてるかな。おーい。目の前で手を振ってみても、反応なし。
あれ? これ、目を開けたまま気絶してない?
おっちゃんは気絶してなかったけど、目の前で起きた事に脳の処理が追いついてなかっただけっぽい。
たまたま二階から下りてきた別の人がこの状況を見て悲鳴を上げ、やっとおっちゃんと背後の連中が正気に戻った。
「ま、待て待て待て! こいつはシント連峰に巣くってるオオツノじゃねえか! こんなのを仕留めたってのか!」
あそこ、シント連峰って名前が付いてるのか。おっと、おっちゃんが言ってる間にも、奥の方から人が出て来て、熊の頭を見て驚いている。
「ええと、私じゃなくて……連れが、だけど」
「そうか……そうだよな……」
銀髪さん達って、仲間って言っちゃっていいのかな? 一応、連れって言っておいたけど。
おっちゃんは何だかほっとした様子。やだなあ、私が狩ったらこんなに血を流させないよ。獣系は、窒息させる方が楽だからね。
食べる場合は、その場で血抜きするけど。あ、亜空間収納内で解体までやった方が良かったかな。
『今回は肉はいらないので、これでいいのではありませんか?』
肉、いらないんだ。
『薬用になりますが、食用には筋が多すぎます』
つまり、おいしくないって事ですね。オーケー。おいしくない肉はいらない。
頭部だけでなく本体もある、しかも複数って伝えたら、またしてもどよめきが起こった。
「と、とにかく、ここじゃ本体出すのも無理だろう。裏に回ってくれ」
裏には、解体専門の倉庫があるんだってさ。で、そこに回って熊の本体を出したんだけど……なんで後ろからぞろぞろ人がついてくるのよ。
「本物だよ……」
「あの角、俺、本物始めて見たぜ……」
「あんな子供が……」
「いや、仕留めたのは他の人間だってよ」
「ああ、それなら……」
うるさいなあ。後ろで好き勝手言ってるギャラリーは放っておこうか。熊に群がってる人達は、何をしてるんだろう?
『毛皮や内臓の傷を調べているんです。傷がない方が、高値で取引されますから』
ほほー。あれは最初の方に狩った奴だから、本体が結構傷だらけなんだよねえ。買い取り価格、下がりそう。
『それでも一体百万ブールは下りません。こちらの通貨ですと、十万ツフですね』
という事は、ざっくり計算で一ツフ=十ブールってところかな? 端数はどうするんだろう。
『切り捨てになります』
ざっくりしすぎい。
査定結果が出て、買い取り金額は首と胴体合わせて十三万ツフ。妥当な金額だろうね。ぼられなくて良かった。
まあ、やられたら、別の街に持っていくだけだけどねー。
あ、他の魔獣も買い取ってくれるかな? え? 無理? 予算が足りない? そっか……残念。
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