第481話 星形の王都

 全部の魔獣は買い取ってもらえないというので困っていたところ、王都に持っていってはどうかと薦められた。


「王都?」

「ああ、こっから西にいったところにある、エナーアドって街だ。ここらじゃ一番大きな街だから、他の魔獣も買い取ってもらえるだろうよ。運が良けりゃ、お貴族様にお買い上げしてもらえるかもしれねえぜ?」

「それ、運がいいの?」

「そりゃあいいさ。そこらの商会なんぞに比べりゃあ、破格の値段で買い取ってもらえるからな」

「……力ずくで取り上げられたりは」

「あのな、オオツノなんて魔獣は、いくら軍隊をつぎ込んでもそうそう狩れる魔獣じゃねえんだよ。それを討伐してきたんだろ? 国の軍隊が出てきたところで、恐れる必要なんざねえさ。それに、おめえら余所者だろ? なら、売り払ったらとっとと逃げちまえばいい」

「余所者って、わかるの?」

「当たり前だ。他に討伐した奴がいるのに、おめえみたいな小娘に売りに来させるなんぞ、世間知らずもいいところだ。余所じゃどうだか知らねえが、ここミンゲントじゃあどこの討伐協会でも足元見られるぜ」


 ……その辺りはダガードも一緒な気がする。世間知らずってところは、その通りなので何も言えないけど。


 だって、私は異世界から来てるし、銀髪さんは元王様だし、剣持ちさんも貴族だしね。


 それにしても、見た目で判断するとは。この大陸は魔法士が少ないって話だから、仕方ないのかな。


 熊一頭分の金額をもらい、門へと急ぐ。途中何度か男がぶつかってきたけど、あれ、スリだね。ローブの下に手を突っ込んでこようとしてた。


 もっとも、このローブは自動で防御結界がいつでも展開されるようにしてあるから、スリ達が指先を痛めただけだけど。


「いってええ! あの小娘、俺の指を傷つけやがった!!」


 知らないよ。あんま調子に乗ってると、電撃食らわしちゃうぞ? 私、先を急いでるんだから。


 そのまま歩いていたら、後ろから追いかけてくる。しつこいなあ。わからないように足下を引っかけて、すっころばす事何度か。


 めげずに門まで付いてきたけど、どうやらスリとしては顔が知られているようで、門番さんに追い払われてたわ。


「何だ? あれ」

「スリです。討伐協会でお金を手に入れたと思われたようで、懐を狙われました」

「……お前のか?」

「そうですよ?」

「命知らずもいたものだ」


 どういう意味ですか? 銀髪さん。事と次第によっては、ちょっと砦の裏まで来てもらうからね。


 門番さんには、無事入街税を払った。


「こっちの兄ちゃん達は入ってないんだから、嬢ちゃん一人分で百ツフな」

「いいんですか?」

「おう。俺らはぼったくりをやってる訳じゃねえんだぜ?」


 門番さん、いい人。もしかして、銀髪さん達をとどめ置いたのも、その為かな?




 街から少し離れて、二人に売り上げを示した。


「熊一頭分なので、少し少ないですけど十三万ツフです。ブールに換算すると、大体十倍で百三十万ブールですね。で、ここから先程百ツフ払ったので、まずはブール換算で千ブールを」

「それはいい。売りに行った手数料とでも思え。で、熊一頭というと、残りがかなりの数だよな?」

「ええ、協会の人から、王都で売ってはどうかと薦められました」

「王都か……」

「協会を通じて売れば、貴族に売っても権力ずくで取り上げられる事はないそうですよ」

「どこにでも、クズはいるものだからな」


 銀髪さんが、吐き捨てるように言う。剣持ちさんの顔も険しい。ダガードにもいたからね、そういうクズ貴族。


 大体は王都の強力浄化が元で、一掃されたみたいだけど。


「その王都というのは、ここから遠いのか?」

「西にずっと行ったところって言ってましたね。マップで確認してみましょう」


 護くん経由でマップを表示してみると、現在地から西に少し行ったところに、マークがついてる。


「ここですね。大体……ダガードの王都とコーキアンの端くらいの距離でしょうか」

「大分あるな」

「絨毯や船を使えばすぐですよー」


 移動手段があるの、忘れてない? 私の言葉に、銀髪さんと剣持ちさんが同時に溜息を吐いた。


 感じ悪いよ! 君達。




 船で王都へ。その間、二人はシャワーを浴びて着ていた服を洗濯し、清潔になっている。あれだけ無双すりゃ、汗もかくさ。


 船内では、ちょっと遅いお昼を食べて、後はのんびり到着まで待った。ウィカラビアを出たのが早朝で、狩りを始めたのが八時付近。


 二人が無双していた時間は大体二時間半から三時間。それから近くの村ドゥオガに入ったのが十二時近く。いやあ、濃い午前中でした。


 王都は、ダガードのそれと比べるとちょっと小ぶりな感じ。ただ、その形が独特。


「ほう……面白い形をしている」

「これは……星、でしょうか」


 銀髪さんと剣持ちさんも、興味深そうに見てる。星形の要塞って、あったよなー。あんな感じ。という事は、要塞都市なのかな? ここ。


 人目に付かないところで船を下り、徒歩で王都へと続く道に出る。おー、長蛇の列。


「人が集まるようだな」

「物資もそうですね」


 王都だからね。上から見た感じ、王都へ入る道はここの他に四つ、計五つある。


 一番空いてそうなここを選んだんだけど、それでもこの列の長さだもんなあ。ただ、列は常に動いているから、あまりストレスはない。


 すぐに順番が回ってきて、ここの入街税は一人千ツフ。さすがに地方都市よりは高いらしい。


「おー……おお?」


 王都に入ると、あまり高い建物がない。三階建てがせいぜい。そこはちょっと拍子抜けだなあ。でも、キルテモイアはもっと低かったっけ。


で、奥の方に一際高い建物があると思ったら、あれが王宮だそうな。


 小高い丘の上に築かれた王宮は、分厚いカーテンウォールに囲まれた無骨な「城」で、優美とはかけ離れている。


「随分と攻めづらそうな宮殿だな」

「というか、あれは軍事施設という意味での城でしょうよ」


 よく見れば、壁のあちこちに銃眼が見えるし、カーテンウォールの上には歩兵もいるよ。尖塔も、物見用だなあれ。


「王宮は別にいい。俺達が向かうべき場所は、別だろうが」

「そうでした。門で聞いた討伐協会の場所は……あ、あれだ」


 どこの施設も、わかりやすい看板を掲げているので大変助かります。討伐協会の看板は、熊の魔獣と盾と剣がモチーフになっている。


 この辺り、熊多いのかね?


 三人で中に入ると、ドゥオガのそれより大きい。それだけ、人が多く来るって事なのかな。


 でも、基本的な造りは一緒。手前に丸テーブル、奥にカウンター。違うのは、カウンターにいるのが恰幅のいいおばちゃんってところだ。


 しかも、そのおばちゃんのところに列が出来てる。あ、横入りした。


「ちょいと! そこの坊や! 横入りするんじゃないよ! ちゃんと列に並びな!」

「何だとババア! てめえ、俺が誰か知らねえのか!」

「王都に来たばかりの田舎もんなんぞ、知りゃしないよ! あんたの田舎じゃあ良くても、ここは王都だ。規則に従いな!」

「この……舐めやがって!」


 あ、横入りした人がカウンターに剣を向け……ようとしたところで、周囲の人達からタコ殴りにされた。うへー。


「規則が守れないようなでくの坊は、王都じゃやっていけないんだよ!! 皆! そのバカ外に放り出しな!」

「へい! 姐さん!」


 おおー、あのおばちゃん、ただ者じゃないんだ。てか、魔獣を売るなら、この列に並ばないといけないのかな?


「そこの嬢ちゃん達! あんたら、見かけない顔だね。依頼を受けに来たのかい?」


 おっと、私達の事か。


「いいや、魔獣を売りに来た」


 銀髪さんが前に出て、応対してくれたよ。おばちゃん、それを聞いてにやりと笑った。


「依頼を受けて……って訳じゃなさそうだね。魔獣の買い取りだけなら、そっちで受け付けてるよ」


 ああ、買い取りだけは別のカウンターなのか。こっちは小さいおじいさんがいる。


「はい、魔獣の買い取りかね?」

「そうです。お願いします。……ここに出していいんですか?」

「大きいのかな?」

「あと、たくさんあります」

「ほえ? それにしては……」

「大丈夫。ちゃんとありますから」


 おじいちゃんは首を傾げていたけど、「ならこっちだね」と裏に案内してくれた。ここも裏なのか。


 案内されたのは、やっぱり倉庫。しかも、あちこちで解体が始まってる。


「じゃあ、この辺でいいかな?」

「出来ればもっと広いところが……」

「え? そんなに?」


 うん、後ろの二人が無双したからね。周囲で解体しているお兄さん方も、いぶかしそうな目でこっちを見てる。


「んー、じゃあ、外の方がいいかな。庭があるから、そっちで」

「はーい」


 やっとあの魔獣の山を出せるよ。


 で、出した結果。おじいさんが腰を抜かしましたとさ。

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