第479話 インスタント魔剣
じいちゃんに記録を預けた翌日、領主様から連絡が入った。
『今の国に少し滞在する事になったから、例の集団の事も調べておこうと思ってるんだ』
あ。領主様に伝えるの、忘れてた。
「えーと、申し訳ありません、その件なんですが……終わりました」
『え? 終わったって、何がだい?』
「相手、全部潰しましたので、もう調べる必要、ありません」
『……』
ち、沈黙が怖い! 怖々スーラさんの向こうにいる領主様の様子を窺っていたら、大きな溜息が聞こえてきた。
『相変わらず君は……まあいい。厄介な連中だったのだろう? よく潰せたね』
「えーと、ほら! 私、一応神子なので!」
どういう言い訳なのやら。自分でも思うけど、領主様もそう思ったみたい。一瞬の沈黙の後に、今度は噴き出した。
『ぶふっ。そうか、一応ね。確認だけど、怪我とかはないだろうね?』
「あ、大丈夫です。瘴気には強いので」
『う、うん。そうか。では、また』
「はーい」
そういえば、リーユ夫人とは連絡取らなくていいのかな?
と思って朝食の席で軽く聞いてみたら、なんとジジ様に渡したスーラさんを借りて、連絡を取っていたらしい。
「勝手に借りてごめんなさいね」
「いえいえ、大丈夫ですよ。何なら、リーユ夫人専用のスーラさん、用意しましょうか?」
「いいのかしら?」
「ご遠慮なく」
作るのは簡単だからね。あれ、単機能だし。
本日もじいちゃんは翻訳にかかりきりなので、朝食の後は私も単独行動……しようと思ったのにい。
「お前は目を離すとろくな事にならない」
何ですかそれ。銀髪さんに見張られるような事……したね。でも、あれは神子の仕事だしー。
報告連絡相談をしなかったのは悪いけどさー。神子の仕事に一般人を巻き込むものじゃないと思うのよねー。
思うだけで言わないけど。
「で? 今日はどうするんだ?」
「んー」
翻訳が上がってこない事には、やる事が……あった。メープル。あれを探しに行きたい。
『いいですね。北方にはまた違う温泉があるでしょう!』
検索先生がノリノリである。あー、ダガードでも出来るけど、雪見風呂とかもいいよねー。寒い地方の温泉はいいものだ。
って、ダガードも十分寒い地域なんだけど。
『うまくすれば、メープルはダガードの気候で育てられるかもしれません』
おお! これは気合いを入れて探しに行かねば!
「北にメープル探しに行くー!」
「は? 北? めーぷる?」
おっといけない。銀髪さんと剣持ちさんがいるんだった。じいちゃんの木工教室に真面目に通っていた剣持ちさんは、翻訳で手一杯のじいちゃんが教室を閉めてしまったので、手持ち無沙汰らしい。
で、二人して付いてくるとか言い出した。
「一人にしておくとろくな事にならないというのは、俺もよくわかった」
「そうだろう、フェリファー。それに、こいつの側にいると面白い事が多く起こるからな」
「カイド様……その辺りはもう少し自重なさってください」
いや、あんたら二人とも立場考えて自重してくださいよ。
船で北へ。例の時間がかかった大陸探査の恩恵は、実は色々な方面に及んでいる。
「ふーむ、もうちょっと北かなあ」
マップを表示させて、にらめっこ。護くんを経由しているので、二人にも見えている状態。
このマップには、メープルが自生している場所が示されているのだ。つまり、この場所に行けば、メープル取り放題である!
いや、誰かの土地って場合もあるけど、その時はこう、こっそり、ね。
一人にやけていると、マップ表示を見ていた銀髪さんと剣持ちさんが何やら話し込んでいる。
「これは便利だな」
「ぜひ、軍で実用化を!」
「無理でーす」
速攻却下だ。うちの護くんは自宅警備専門で、軍事利用は考えていないよ。
大体、軍全体に貸し出しとか、どんだけの数を借り受けるつもりよ。何より検索先生を通しているので、余所に貸し出しはいたしません。
軍事利用なんかされて、一度にたくさんのマップを開く事になったりしたら、検索先生が過労死しちゃう。
剣持ちさんは不服そうだけど、銀髪さんからお叱りの言葉が飛んだ。
「フェリファー、便利だと思うのは当然だが、国の利益ばかり押しつけると、こいつが逃げるぞ」
「それは困ります」
「そうだ。そんな事になったら、お婆さまに大目玉を食らう」
「は?」
あー、ジジ様は可愛がってくれてるからなー。そんなジジ様に、ぜひともメープルの自然な甘さをだね。
「カイド様、それでよろしいのですか?」
「いいんだ。お前も、いい加減もう少し見方を変えろ。何の為に王宮を出て来たんだ」
「それは……申し訳ありません。精進します」
「ああ」
相変わらず堅苦しいなあ。剣持ちさんは軍人だっけ? なら仕方ないのかな。
メープルがある場所は、ウィカラビアから北東に進んだ大平原にあるらしい。かなり緯度が高いね。
船の下には、だだっ広い平原が広がり、進行方向には奥へと広がる大森林。
『あの森林に、サトウカエデと同じ種の木が存在します』
「よっしゃー! メープル見つけたどー!!」
後ろで男二人が驚いているけど、気にしない。一本でも木を手に入れられれば、後は栽培で増やすからいいんだもんねー。
『新しい温泉もお忘れなく。この辺りは大きな国の辺境地域に当たるようですから、購入も問題ありません』
そーなの? でも、この辺りで使える通貨、持っていないんだけど。
『そこらで適当な魔獣を狩って、換金しましょう』
そうですね。ところで、温泉が湧くのって、どの辺り?
『あの大森林全体とその奥にある山脈です』
さすがに、何の伝手もない人間に山は売ってくれないかも。でもまあ、資金は調達しておいた方がいいよね。
森の手前で、船の高度を下げた。
「あの山に魔獣を狩りに行きますけど、船で待ってますか?」
「ついて行くに決まってるだろう」
「女一人狩りに出す程、落ちぶれてはいない」
銀髪さんも剣持ちさんも、私が神子で魔法が使える事、知ってるはずなのにね。
大抵の魔獣には魔法が通じるし、何だったら物理攻撃よりも効果的だよ。
でもまあ、行くと言ってる以上放置する訳にもいかない。亜空間収納の中から予備の護くんを取りだして、一人一つ持たせた。
「これは……砦にあったやつだな」
「これがあれば、魔獣からの攻撃を防いでくれますよ」
一瞬むっとした二人。続く私の言葉で、その顔が少しだけ青くなった。
「だって、そこの岩くらいの大きさの魔獣がごろごろ出てくるかもしれませんよ?」
私が指差した先には、幅も高さも十メートルくらいありそうな大岩が転がっている。
あんなの相手に剣一本でどうにかなるとは、二人も思わなかったらしい。いい判断です。
森を抜けて、山へ。あ、森ではちゃんとサトウカエデを見つけて三本ほど頂戴しておきました。
いや、周辺に誰も住んでないみたいだし、森も手が入ってるようには見えないので、多分誰も管理してないよね、って事で。
森の中には小型の獣しかいなかったので、大型の反応がある山裾まで一気に行く。あ、移動は小回りの利く絨毯です。
山裾はなだらかに広がっていて、森よりも大木が多い。これなら大型の魔獣も隠れる場所が多いな。
『大地から湧く魔力も多いようです。敵は強いですよ』
了解です。んじゃあ絨毯に乗ったまま……だと、剣を使う二人が文句言いそう。
『いっそ、魔剣でも作って二人に渡しますか?』
え? 何それ。そんなの作れるの?
『ドラゴン素材がありますから、作れます。その代わり、全てセラミックの剣になりますが』
う、うーん。セラミックの剣かあ。あ、でもセラミック包丁とか、あったもんね。一緒か。
じゃあ、一時的に貸し出しって事で、二振り、作ってもらっていいですか?
『了解です。後十秒程お待ちください』
え……十秒で剣、作れるんだ。カップラーメンより短いよ。大丈夫なの?
『問題ありません。……出来ました』
確かに、亜空間収納の中には青白い鞘と柄の剣が二振りある。
「えーと、ここ限定で、ちょっと変わった剣、使いませんか?」
「変わった剣?」
「そんなもの、持っていたのか?」
銀髪さんも剣持ちさんも、妙なものを見る目でこっちを見てる。そりゃそうか。私は魔法士で神子だから、剣とは縁がないもんね。
これが日本の巫女さんとかだと、神剣とかで縁がありそうだけど。
「実は、ドラゴン素材で作った剣がありまし……て……何でそんな変な顔、してるんですか?」
話してる最中に、幽霊でも見たような顔になってるよ。どういう事?
「お前……今、なんと?」
「ドラゴン素材がどうとか、言っていなかったか?」
「? 言いましたよ? あ、でも上位種じゃなくて、下位種のものですけど」
さすがに上位種ドラゴンの素材は、使えない。だって、ドラゴンセラミックに使うのは主に骨だから。
鱗でいいのなら、上位種が使えるんだけどねー。
『挑戦してみますか?』
……剣本体だけなら。柄とか鞘は、下位種のものにしましょう。
っと、そんな先の事よりも、今目先の事。
「使いますか? 使いませんか?」
「使うに決まってる!」
おお、声がハモったよ。では、お貸ししましょうか。亜空間収納から取り出した剣は、全体的に青みがかった白だ。
所々に、見覚えのない石が嵌められている。あの石、何だっけ?
『人造ダイヤの試作品です。色が入ったので、周囲の魔力を集める簡易バッテリーとして付けてみました』
今回の剣は、本体の切れ味を向上させると同時に、剣の長さを擬似的に伸ばす術式が入ってるらしい。
で、あの人造ダイヤで集めた魔力が、その術式を展開する為のエネルギーになる訳だ。
魔力を持っていない人でも、使える魔剣ね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます