第476話 邪神教団の最期

 ううん……あー、目覚まし止めなきゃ……って、またこれか!


「見張るくんの音、電子音に変えましょうよ!」

『それだと神子が起きない可能性があります』


 いや、起きるから。ちゃんと起きますから。この爆音、心臓に悪いんだって。


 見張るくんの爆音ベルで目を覚ましたのは、砦の丸塔にある私の部屋。夕べはこっちにそのまま泊まったんだ。


 いや、あれから食べ終わってもなかなか疲労回復が出来なくて。動くのも億劫だったから、そのままこっちで寝ちゃった。


「あー、お腹空いたー」


 空腹感が半端ない。そしてまだ少し怠い。街に戻ったら、カートで十二番湯に行こう、そうしよう。


『温泉は疲労回復にはもってこいですからね!』


 そーですね。いやあ、それにしても浄化であんなに疲れるとは。邪神の完全浄化をした時程ではないけど、結構大変でした。


 邪神の時は、意識不明が二日続いたってじいちゃんが言ってたからなあ。それに比べれば、まだ余力が残っていたんだと思う。


 時刻はもうじき街での朝食の時間。こっちで食べてから帰るか、それとも。


『朝食を欠席すると皆に心配をかける恐れがあります』


 ですよねー。んじゃ、怠いけど帰ろう。食べ終わったら、そのまま十二番湯に行けばいいや。




 ポイント間移動で街で使っている家に移動する。今日は珍しく曇り空だね。


 のそのそと身支度を調えて家を出ようと思ったら、誰か来た。もしかして……


「おはようございます銀髪さん、剣持ちさんも」

「おはよう。具合が悪いのか? 顔色が悪いぞ?」

「おはようございます。カイド様の言う通りだな。休んでいた方がいい」


 珍しくも剣持ちさんからの労りの言葉だ。でも、体調不良とかじゃないしなあ。今は多分、疲れたよりもお腹空いたが勝ってる。


「あー、いえ、ちょっと疲れてるだけなので。ご飯食べ終わったら、回復の為温泉に行ってきます」

「なら、いいが……」


 銀髪さんが渋々といった様子で引き下がる。この二人でこれなら、ユゼおばあちゃんやジジ様にも心配されるかなあ。


 そのまま三人で集会場へ。あれ? 何か皆の視線が変……


「おはようございます?」


 思わず半疑問形になってしまった。しんとした会場から、リーユ夫人が慌てた様子で挨拶してくる。


「お、おはよう、サーリ。今日も良い天気ね」

「え……今日は曇ってませんか?」

「あ。そ、そうね」


 変なの。ジジ様やユゼおばあちゃん、侍女様方とも挨拶を交わし、いつも通りじいちゃんの隣に座る。


「じいちゃんおはよー」

「おお、おはようさん。にしても、今日は何じゃ。両手に花かの?」

「花……?」


 もしかして、銀髪さんと剣持ちさんの事かね? 本人達も渋い顔をしてるけど、花じゃないような。


 私達の様子を見て、じいちゃんは何故か笑うし。その笑いが伝染したように、皆笑い出しちゃった。


 本日の朝食はベーグルとスクランブルエッグ、サラダ、それに飲み物とフルーツの入ったヨーグルト。おいしい。


 それにしても、最近のほっとくんのメニューは広がるばかりだね。


『今まで以上に地球のメニューを組み込んでいます。スパイスとフルーツからは、いいソースが作れますから』


 そういえば、市販のソースの原材料見ると、野菜と一緒にスパイスとフルーツがばっちり入ってるっけ。


 どうやら、検索先生主導でほっとくんが独自のソースを作ってるらしい。


 ジジ様達、王宮に戻って普通? の生活を送れるのかね? そのうちほっとくんの貸し出しとか、頼まれやしないだろうか。


 まー、その時は報酬次第で考えましょうか。




 朝食後、いつも通りに集会場を後にして家に戻る。今日も銀髪さん達はじいちゃんと一緒に木工に励むらしい。


「お前は?」

「んー、ちょっと見てきたいところがあるので、行ってきます」

「どこへ?」


 これ、邪神教徒達が集まってるところ、とか言ったら、止められるコースかな。


「キルテモイアの山でーす。あっちの温泉がどうなってるのか、ちょっと気になって。何せウィカラビアの山がこれですからねえ……」

「ああ」


 よし。銀髪さん達も納得したらしい。一応、キルテモイアまでは船で行くと言っておいた。


 ポイント間移動の事は、まだ秘密にしておく。大体、行き先はキルテモイアじゃないしね。


 船で街を出て、ウィカラビアの港街ゼフの沖合にある小島、そこに停泊中の私の船に行く。


 別にここでなくてもいいんだけど、一番近いポイントがこの船の中の砦だからさ。


 邪神教徒達が集まっているところには、検索先生がポイントを打ってくれているので、問題なし。


『行く前に、結界で身を包んでおく事をお薦めします』

「いきなり攻撃されそうとか?」

『いえ、多分、臭いその他が……』


 あ、察しました。早速結界を張って、臭気も入ってこられないようにしておく。浄化も表面に纏わせておこうか。


 さて、では邪神の神子とやらを見に行きましょうか。




 飛んだ先は、薄暗い洞窟の中。足下は人の手でなめらかにしてあるみたい。


「ここ?」

『そうです。ここは入り口付近ですね。もう少し先に行くと、邪神教徒達が倒れているのが見えると思います』


 倒れてるんだ。まあ、瘴気にどっぷり浸かっていたのに、強力浄化を浴びたんだから、そりゃ倒れるわな。


 日の光に当たった吸血鬼のように、灰になってたりしませんように。


 足下に何かあったら嫌だから、二十センチくらい浮いて移動する。お、倒れている人発見……って。


「うわあ、これ、見ちゃダメなやつだ」


 別に血だらけという訳じゃありません。別のものだらけではあるけど。


『昨日浄化して、そのまま今の時間まで放置されてましたからね。そりゃあ人間ですから、排泄もするでしょう』


 うん、つまり、排泄物にまみれているという……結界があって良かった!


 このまま放置も何なので、ささっと浄化して空気も強制換気しておく。一応、空気穴のようなものはあるみたいだから、そこから新鮮な空気を取り込んで、入り口の方に臭い空気を送り出す。


 でも、倒れている人はそのまま。唸っているところを見ると、生きてるみたいだし。


『体内の瘴気を一挙に浄化されたので、もう二日くらいは動けないでしょう』


 って事は、またまみれるのか……合掌。これも自業自得だ。彼等がばらまいた瘴気で、亡くなった人達もいる。それを考えると、助けようという気にはなれないんだ。


 そのまま、死屍累々の中を奥へと移動した。奥の方が人が多いね。


『おそらく、各地の支部で起こった異変を報告し、話し合っていたのでしょう』


 異変というと、私が浄化したから呪物が消えたっていう、あれですね。で、その為の話し合いで集まったら、そこをまた私に浄化された、と。


 うん、何だか私の方が悪役みたいだわ。




 洞窟は奥へ蛇行しながら続いていて、特に枝分かれなんかはしていない。そもそもここ、どこなんだろう?


『こちらの大陸の東南、以前通り過ぎた国からさらに南にいったところにある、山の中です』


 検索先生が立体マップを展開して現在地を教えてくれた。あー、かなり東に来てるね。しかも、かなりでかい山脈の奥だわ。


『人の目を避ける為、このような場所に潜伏していたのでしょう』


 邪神を崇める教団だからねー。一応、神子の話はこっちにも流れてきてるようだし、邪神もどういう存在かは広まってるんじゃないかな。


 で、そんな邪神を崇める危ない集団は、どこにいても迫害される、と。瘴気をまき散らすような連中だから、そりゃ石投げられるでしょうよ。


 おっと、そろそろ洞窟の一番奥かな? あ、数段高い場所に玉座のような場所がある。


 あそこでぐったりしてるのが、邪神の神子かな?


「おおー……お?」


 石材で出来た座り心地の悪そうな椅子に座る人物が、ゆっくりと顔をもたげた。


「うぎゃ!」


 か、顔が! しわしわの骸骨!? ……じゃない、皺だらけの、痩せ細った人間だ。


 これが、邪神の神子?


「お……おのれ……神子めえええええ」


 うひい、地の底から響くような、恨みがましい声。ゆっくり持ち上がる指先からは、わずかながら瘴気を感じる。


 んじゃ、浄化。


「ひぎゃあああ!」


 しわしわ骸骨は、断末魔の叫びを上げると、椅子から転げ落ちた。そのまま、目の前で煙りと共に着ているものだけ残して消えちゃった……


 え、まさか本当に瘴気の塊だったとか?


『いえ、ただ、長い間瘴気のおかげであの形を保っていたので、エネルギー源である瘴気が完全に消えた今、本来の時間が体に戻ったのだと思われます』


 本来の時間って……


『邪神の神子は、齢一千歳を超えています』

「はいい!?」


 一千歳以上!? それ、人間なの? あ、邪神の神子か。


『神子、そこの棚に、彼等の記録があるようです。持って帰りましょう』


 ……勝手に持っていって、いいんですか? 泥棒ですよ?


『問題ありません。彼等がこちらを訴える事など出来ないのですから』


 検索先生……最近、少し行動が荒いのですが。


『問題ありません。それに、あの記録を持ち帰る事は、神の意に沿う行動です』


 本当かなあ……まあいいや、あそこの棚の中身、全部持っていけばいいですね?


 最後にもう一度、洞窟内を浄化して、ポイント間移動で砦に。やー、何か疲れたわー。主に精神的に。


『疲れた時には温泉ですね!』


 そーですね。今日は久しぶりに一番湯に一人で行こうっと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る