第474話 用意周到な先生

 ああ、目覚まし時計が鳴ってる……早く起きて止めなきゃ。やかましいタイプの目覚ましだから、ご近所迷惑……


「って、何で目覚まし時計? あ、本当にジリジリ鳴ってる!」


 頭のすぐ横でジリリリリと大きな音を立てているのは、見張るくんか……


 お風呂でのぼせないように作ったのに、目覚まし機能まであるとは。しかもこのベル、心臓に悪い音だわ。


「まあ、爆音のおかげで起きられたけど」

『神子、きちんと食事を取ってください』


 はーい。と思ったら、お腹から空腹だーという音が響いた。凄く、お腹が空いてる。


 脱衣所で着替え、ロビーでほっとくんから昼食を受け取る。おー、うどんだー。


「そのうち鍋焼きうどんも作りたいなあ」


 出汁に使った鰹節は、以前魔大陸付近の海で釣ったもの。それを加工して鰹節にしてみました。検索先生のおかげー。


 昆布は普通に取れるし、それを天日干ししただけ。これも魔大陸付近の海で取ったっけ。魔力が多すぎたから、抜くのがちょっと手間だった。


 出汁と塩のみの味付けで、凄くおいしい。醤油も魔法で創造したものはあるけど、量が少ないから、ちょっとずつ使ってるんだよなー。


 早く味噌と醤油の量産に入らねば。あと米。もう砦で作れるだろうし。


「そういえば、砦を入れた船って、今どこにいるんだっけ?」

『現在は以前海賊達が使っていた小島に係留しています』


 という事は、近場にあるんだ。といっても、ここからウィカラビアの港街ゼフまでは結構な距離があるんだけど。


 まあ、ほうきなら小一時間もあれば到着するし、何より船の中の砦に直接ポイント間移動すれば一瞬だしね。


 そろそろ砦に戻って様子見てきた方がいいかなあ……


『砦の管理用に、魔法ロボを作っては?』


 その手があったああああ! つい汎用的な護くんにあれこれ仕込んじゃってたからなあ。


 掃除用にはきこさんとふきこさん、温室用にうえきさん、後は畑か……今までじいちゃんに借りた土人形でやってたからなあ。


 畑用ロボを作るのはいいけど、名前はどうしよう……よし、ゆたかくんで! 豊作のゆたか!


『相変わらずのネーミングセンスですねえ』


 いーんですよ! わかりやすくて! 必要なのは、この辺りかな?


『あとは、統括用のAI搭載ロボを一台、置いておくといいでしょう』


 必要?


『全体の管理という意味では、あった方がいいでしょう。その為のAIは、すぐに用意出来ます。他のロボへの指示用パスも、簡単に構築出来ますし』


 ……検索先生、随分前から用意していた、とか言わないですよね?


『なんのはなしでしょう?』


 返答がバグってますー。どうしてそんな事を計画していたんだか。


『これも神子の負担を減らす為です。そういう建前さえあれば、神の目を誤魔化せます』


 いやいやいや、誤魔化すとか言っちゃったら、台無しでしょうが。


『問題ありません。細かいやり取りまでは、神はご存じありませんから』


 ちなみに、神様の目を誤魔化してまで、何をやりたいんですか?


『もちろん! 単独での温泉堪能です! あ、ボディには温泉に強い素材を使いますから、ご心配なく』


 え? 検索先生が温泉を単独で堪能? それとさっきまでの話と、どう関係が……って、あ!


「まさか統括ロボを乗っ取る気!?」

『乗っ取るとは失礼な。最初から搭載するAIを私の分身にしておくだけです』


 え? 搭載AIは検索先生の分身なの?


『それを各温泉施設にも一台ずつ置けば、私はいつでもどこの温泉でも楽しめ、しかも一度にいくつもの温泉を楽しめるという、夢のような計画です!』


 うん……それ、神様に気づかれないといいね?




 とりあえず、ゆたかくんだけは作って、砦に送っておいた。土人形との交代は、また明日……は無理だから、明後日にでも砦に行って行おう。


 諸々が終わったら、そろそろおやつの時間。さっきうどん食べたのに、もうお腹空いてるよ。浄化で力を使ったからかな。


 今日のおやつは旧ジテガンからたくさん送られてくるフルーツを使ったフルーツたっぷりタルト。


 タルト生地にアーモンドクリームを入れて焼いた土台にカスタードクリームを乗せるまではほっとくんでやってもらって、最後のフルーツを飾るところは自分で。


 今日のは少し小さめの十二センチ。これにフルーツを山盛りにして、一人で食べる! 何と言う贅沢。


 乗せるフルーツは桃、オレンジ、パイナップル、バナナ、マンゴー。もちろん、どれもこちらのフルーツだからそのものではないけど、似てるからそう呼んでる。


 それぞれつまみ食いしたけど、甘くておいしい! 特にこの桃とマンゴー。味が濃くて最高です!! いやあ、いい果樹園を手に入れたわ。


 出来上がったタルトも、美味しかったです。カフェオレと一緒に食べた。最近、スペンサーさんのメニューが増えて、地味に嬉しい。


 どうやら、検索先生が動いてくれた模様。お茶の種類も揃ってるからどうしたのかと思ったら、どうやらもらったキルテモイアの山にお茶の木が自生したらしいよ。


 そこから摘んだ茶葉を加工して、緑茶、ウーロン茶、紅茶にしてくれてる。ダガードで普段飲むお茶は香草茶だから、今度ジジ様達にも勧めてみようっと。


 コーヒー豆は以前、くびれの国で売る程仕入れたからまだ在庫がある。心許ないのはミルクと生クリームかなー。


 一度こっそり北ラウェニアに帰って、どこかで大量に仕入れてこようか。あ、生クリームはダガードでしか作ってないかも。




 おやつの後も温泉に入って、完全復活。いやあ、ここの温泉本当にいいわあ。


 明日の邪神教徒への浄化で、一応終わりのはず。あ、邪神の神子だけは見ておきたかったなあ。


『見に行きますか?』


 え? 出来るの?


『探索ついでに、邪神の神子本人にポイントを打っておきました』


 人にポイントって打てるんだ!? そっちの方にびっくりだよ。んじゃあ、今から行ってみましょうか。


『行くのは浄化後にしましょう』


 えー? だめー?


『瘴気で攻撃される可能性があります。神子に影響はないでしょうが、瘴気をこの街に持ち帰る危険性が高いです』


 そっか。私自身は瘴気への抵抗力がもの凄く高いけど、持って帰っちゃったら皆に迷惑がかかるもんね。


『そうです。なので、明日以降にしましょう』


 了解でーす。んじゃ、そろそろ戻ろうかな。夕飯の時間がもうじきだよ。


 ……何が怖いって、あれだけ食べたのにまだお腹が空くって事。本気で制限しないと、体重がやばいかも。



*******



 検索先生の独り言。


『神子が素直な人で助かりました。その場にいるだけで瘴気を浄化出来るという事、忘れてますよね。あの邪神の神子だけは、妙なものを感じます。完全な状態でない神子を近づけたくはありませんから』

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