第473話 浄化二日目

 夕べは何だか妙な夢を見た気がする。何で銀髪さんが日本の高校にいるのよ……


 クラスメイトに銀髪さんと剣持ちさんがいるとか、教科の先生で領主様がいるとか、本当おかしな夢だったわ。


「おー、今日もいい天気」


 窓の向こうには、すこーんと抜けるように晴れた空。ちょっと視線を落とすと深い色の湖。


 一日の始まりだー。


 身支度をしてから集会場に向かったら、じいちゃんだけがいた。少し早かったかな?


「おはよー、じいちゃん」

「おお、おはようさん。……ふむ、元気になったようじゃの」

「へ?」

「夕べは何やら悩んでおったようじゃからな」

「バレてる!?」


 やだ、そんなに顔に出てたのかな。


「大体、お主が飯時に遅れるなんぞ、そうある事ではないわい」

「じいちゃん、それは私が食いしん坊だと言いたいのかな?」


 否定しないけど。食べるって、大事だし楽しいよ。じいちゃんも無言で笑ってるし。それは肯定と取るよ?


「まあ、元陛下が元気づけてくれたんじゃろ」

「え?」


 ちょっとびっくり。何で夕べの事、知ってるの? うちに盗聴器とか、仕掛けられてないよね?


『そんなものがあったら、最初から警告しています』


 ですよねー。頼りにしてます、検索先生。それにしても、何でじいちゃんは知ってるんだろう? 聞いても教えてくれなかった。




 奇跡の使い方は先送りって事で、大分気持ちも落ち着いた。万全の状態でないと、今日は呪物の浄化だよ。


『浄化は午後からにしましょう。今日は皆との夕飯は最初からキャンセルした方がいいと思います』


 ああ、昨日みたいになる訳ですね。自覚ないけど、離れたところに強力な浄化をするってのは、かなり負担になるらしい。


 後で昼食の時間にでも、じいちゃんに一言断っておこうっと。一緒に食事を取るのは、なるべくってラインだから。絶対じゃないんだよね。


 んー、でもそれっぽい言い訳を用意しておきたいなあ。あ、そうだ。思い立ったら吉日。これからじいちゃんとこ行ってこよう。


 家を出て、広場へ行くまでの道筋にじいちゃんが使っている家がある。


「じいちゃーん」

「何じゃ?」

「あのね……いたんだ、銀髪さん」

「いたら悪いのか?」


 何やら、剣持ちさんと一緒に大きな板と格闘してる。うぬう、私は許されなかった大物の木工に挑戦していると見た。


 むきー。じいちゃんってば、私にはまだ無理とか言ったのにい。


「睨むな。また何かおかしな事を考えてるな」

「どういう意味ですか」

「そういう意味だ。バム殿、これはどうするんだ?」

「ふむ、カンナをかけて表面をなめらかに仕上げますぞ」

「ほう」


 そのかんなを教えたの、私なのにー。しかも、何気に銀髪さんがじいちゃんを名前で呼んでるよ。


 っと、それどころじゃない。


「今夜の夕食、私欠席するね」

「何かあったかの?」

「うん、今日は星を見ながら食べようと思って」


 家の窓からも綺麗な星空が見えるけど、十二番湯からはもっと綺麗に見えるとおもうんだ。何せ周囲の木も綺麗に伐採してあるから。


 まあ、星空見ながら浄化をして、温泉に浸かって疲れを癒やそうという計画なんだけど。


『そうですね。あのお湯なら疲労に効きますし、日を浴びるより早く回復出来そうです。先に入って回復すれば、午前中に浄化をしても問題ないでしょう』


 検索先生も喜んでるし、一石二鳥……いや、三鳥かな。


「星なんぞ見て、どうするんだ?」

「銀髪さんは情緒がないですねえ。綺麗な星空を見るのは、心に効果があるんですよー」


 ふっふっふ、悔しそうに黙るが良い。ついでに剣持ちさんも悔しそうにしてるのが、ちょっとおかしい。似たもの同士なんだなあ。


「よし、そんなに言うなら俺も行く」

「ダメでーす。独り占めするんだから」

「はあ? 空なぞ一人が独占出来るものではないだろうが!」

「それでもダメでーす」


 反論は受け付けない。という訳で、じいちゃんの家から駆けだした。そのまま魔法でジャンプ力を上げて、ぴょーいと街の坂道と階段をひとっ飛び。


 そのまま十二番湯まで来た。ついでだから、今日は温泉三昧といきましょう。


『最高です!』


 検索先生には大変な仕事をしてもらいましたからね。少しは労わないと。


 十二番湯には誰もいない。意外と皆さん、街の共同浴場で満足しているらしく、他の共同浴場まで足を伸ばしている人は少ないんだよね。


 まあ、元々私一人で楽しむ為に作った温泉だから、いいんだけど。その割には街とか作っちゃってるけどな。


 いや本当、たてるくんとどけんさんの方向性って、どうなってるの?


「あー、気持ちいいいいい」


 大きな湯船に足も手も伸ばして浸かる。この開放感。素晴らしい。ちなみに、十二番湯は森が見渡せるように作ってある。ちゃんと石壁で区切ってあるから、男湯から女湯は覗けないし、反対も同じ。


 そして、ここは一番高いところにある温泉なので、遊び心で天井を開けて空を見られるようにしてある。


 なので、ここで星空を見られるって訳。


「いやあ、この天井だけは開けて正解だったなー」


 実は、天井を開けたのは後付。最初は普通の屋根だったんだよ。


 でも、ここに最初に入った時になんとなく開けたくなって、たてるくんに注文したんだ。正解でしたね!


「さて、もうそろそろいいかな。やりましょうか」

『事故を避ける為、湯から上がってからにしてください』

「はーい」


 標高が高いからそこまで暑くはないけど、日差しが強いからか寒くはない。ちょうどいい気温かな。


 さすがにすっぽんぽんでやるのも何だから、バスローブを羽織る。ここの浴場はオープンに仕上げてあるので、洗い場にも椅子が置いてある。


 のぼせたら椅子で涼んで、また入れるように。その椅子に腰を下ろして、スペンサーさんから冷たい麦茶をもらって一口。


「あー、おいしいー。んじゃ、マップを展開してっと」


 マップには、呪物の在処が青い点で示されている。そこに意識を集中し、強力な浄化をたたき込んだ。


 二度と瘴気を振りまけないように。跡形もなく消し去れるように。


「この世界から、消えてなくなれ!」


 自分達が瘴気で自滅するならまだいい。でも邪神教徒達は、何の関係もない人達を勝手に巻き込んで瘴気まみれにさせていく。


 そんな連中、絶対に許さない。昨日は奴らが瘴気で穢した場所を、今日は瘴気をまき散らす呪物を。


 明日は、いよいよ邪神教徒達そのものを浄化してやる。


「首を洗って待ってろっての!」




 そして、やっぱり浄化の後はぐったりとした。体が怠い。


「き……昨日よりきついんですけど?」

『呪物の浄化の方が負担がかかったのでしょう。明日はさらにきつくなるかもしれません』


 うーん、じゃあ明日もここに来るかな。二日連続となったら、ちょっと疑われるかも。


『では、単独でキルテモイアか旧ジテガンの別荘に行きますか?』


 ああ、そうか。物理的にこの街にいなければ、あれこれ言われる事もないか。ちょっと様子を見てくるとかなんとか言えば通るかも。


 よし、それでいこう。でも、まずはこの体調を回復させないと。


『お湯に入るのは、もう少し待ってください。今入ると、確実に失神して溺れます』


 それはさすがに嫌。まあ、この椅子は寝られるくらい大きいから、このまま少し寝ようかな。


『そうですね。昼食の時間になったら、起こします』


 よろしくお願いします。昼食まで後三時間弱か。んじゃ、お休みなさーい。

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