第469話 はりきりすぎい

 検索先生が大陸中を探査している間に籠もる温泉は、ウィカラビアの山脈にした。


 いや、あれ以来ここに来ていないなーって思って。お風呂場……というか、浴場は作ったけど、別荘は建ててなかったし。


 あの後どけんさんやたてるくんを送ったので、立派に温泉別荘が出来てるのは知ってたんだけど、実物見るのは初めてなんだよなー。


「おおー……お?」


 キルテモイアや旧ジテガンはアジアンリゾート風にしたんだけど、ウィカラビアは少し離れてるから、ちょっと様式を変更したんだ。


 これもリゾート風だけど、どっちかと言ったらヨーロッパ、それも南の地中海リゾートな感じ。


 ただまあ、こうなるとは思わなかったよ? 何がどうしてこうなった?


「これは……山の中に、街が出来てるぞ?」

「そーですね」


 銀髪さんが言うとおり、山脈にある山肌の一つに、百人くらい住めそうな街……村? が出現してるんですが? いつの間に?


 しかもすぐ下に湖があるもんだから、これまたリゾートにはうってつけな感じ。


「まあ、こぢんまりした家が建ち並んでいて、今にも住民が出て来そうよ」

「そーですね」


 いたら怖いですよジジ様。今は検索先生による探査が出来ないので、護くん達からの無人という報告を信じるしかない。


「あらあら、広場には教会まであるのね。さすがだわ、ユーリカ」

「そ、そーですね……」


 おかしいなあ、教会まで作れと指示した覚えはないんだけど。たてるくん、どこで教会建築を憶えたんだ?


 いや、確かに途中で面倒臭くなって、検索先生が見つけてくれた画像を適当に選んで「これを作って」って指示したけどさ。


 だからって、小さな街を作ることはないと思うの!


「まあ、コテージがたくさん集まったと思えばいいのかな……」


 教会の側には、共同浴場も出来上がってるしね! 見た目は大きめの集会場のようだけど、中は温泉だよ!


 広場には噴水もあって、家の軒先には綺麗な花まで咲いてる。このあたりはうえきさんの仕事だな。


 各建屋にははきこさんとふきこさん、ほっとくんにスペンサーさん、あらいさんも設置されていて至れり尽くせり。


 もうここでずっと生活出来そう。


「それにしても、とても綺麗な建物ね。ダガードでは見ないものだわ」


 そういえば、街の建物は全てとてもカラフル。しかも、パステルカラーではなくて、割と原色に近い壁色が多い。


 目に痛くなりそうなものだけど、ウィカラビアの強い日差しの下で見ると、不思議としっくりくるね。


 空気の乾燥具合と日差しの強さ、それに抜けるような青空も関係してるのかも。




 皆でぐるっと街を一周してみたけど、高低差はあれど普通に街でした。ただし、当然ながら店とかはない。


 これ、建物に少し手を入れて店舗にしてしまえば、普通の街だよ。今更ながら、魔法ロボット達のでたらめ具合を知った気がする。


 噴水のある広場に戻って、銀髪さんが呟いた。


「あまり大きな建物はないんだな」

「みたいですねー。どうせなら、各々好きな家を選んで住むってのはどうですか? どこの家でも生活は楽だと思いますし」

「まあ、そうねえ」


 提案に乗ってきたのはジジ様だ。普段、奥宮とはいえ王宮で暮らしている人だから、こういう街での滞在体験はないだろう。


 ある意味テーマパークみたいなものだと思って、一人暮らしなりなんなりを楽しんでもらってもいいんじゃないかなー。


 あ、銀髪さんが凄く興味ありそうな顔をしてる。王族って、プライベートはないようなものだもんね。


「勝手に選んでいいのかしら?」

「いいですよ。早い者勝ちって事で」


 言った途端、銀髪さんが走り出した。速いなあ。剣持ちさんが慌てて後をついていったよ。


「ふぉっふぉっふぉ、若いのう」

「本当に。ユーリカ、どの家にも温泉はあるのかしら?」

「ちょっと待ってね、ユゼおばあちゃん。……あるみたい。ただ、家庭のお風呂場なので、そんなに広くないようだけど」

「そう……じゃあ、この広場のあの家を借りてもいい?」

「どうぞー」

「私もこの広場の家にしようかしら。あなた達も、ここでは違う家で過ごしてみたら?」

「まあ、ジジ様。そのような」

「着替えも食事も一人で出来ますよ。一人が寂しいなら、誰かの家に集まってもいいのだし」


 ジジ様の提案に、侍女様方が心を動かされたらしい。一人でいるもの、誰かと一緒にいるのも自由って、いいよね。


 さーて、私はどこにしようかなー?




 銀髪さんが選んだのは、街の一番高台にあるちょっと大きめの家みたい。剣持ちさんも同居するって言ってきかず、銀髪さんが折れたそうな。


「こんな時くらい一人にさせろ。まったく、気が利かない奴だ」

「何とでも仰ってください。カイド様をお守りするのが私の仕事です」


 うん、まああの二人はもうそれでいいんじゃないかな。あの家はでかいだけあって、お風呂場も広いみたいだし。


 ジジ様と侍女様方、リーユ夫人、ユゼおばあちゃんは広場から近い家を選んでる。大きなお風呂に楽に入りにいけるように、だって。


 ユゼおばあちゃんに関しては、教会が近いからってのもあるかもね。


 じいちゃんは広場からちょっと下ったところにある、湖に向かって張り出したテラスがある家。このテラスが気に入ったらしい。


 私が入ったのは、多分この街で一番小さな家。なんとなく、日本人サイズな気がしたんだ。


 1LDKで、平屋建て。備え付けの家具も、小さなタンスとベッド、テーブルと椅子、それに狭いキッチンのみ。


 この狭さがいい。


「なんだ、こんな狭い家もあるのか?」


 何か文句でもあるんですか? 銀髪さん。いいんですよ、私にはこのくらいの狭さの方が。広いと空間を持て余すんだから。


 てか、わざわざ人が選んだ家を見にきたのか? 暇なのかな。……暇か。やる事なんて、温泉入るくらいしかないもんね。


 でも、リゾートってそういうもんだっていうし。日本人はつい観光しないと、って思うけど、本来は何にもしないでぼけーっと過ごすものなんだってさ。




 全員家も決まり、ここで過ごす簡単なルールも決まった。


 朝食と夕食は、なるべく一緒に取る事。場所は教会に付属している集会場に決まった。


 後は街から出ない事。ただし湖にボートを浮かべて遊ぶのはあり。最悪、山脈から出なければオーケーとなった。


 一応、こっから出ちゃダメってラインには護くんがいるから、間違って山の外に出るって事はないはず。


 どけんさんが頑張って遊歩道を作ってくれてるので、散歩はし放題だ。これから検索先生が復帰するまでの間、のんびり過ごそうっと。

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