第468話 大陸探査

 迷惑な邪神教の連中を、瘴気漬けになっていた街の保安部隊に任せ、船に戻ってきた。


 いや、正直あの連中、どうするか悩んだのよ。で、迷惑被った人達に、好きにしていいよって言って押しつけてきちゃった。


 その後、法で裁かれようが私刑になろうが、私は知らない。


「あら、お帰りなさい。どうだった?」

「ただいま、ユゼおばあちゃん。ちょっとね、変な事になってるよ」

「あら、まあ」


 丁度甲板に出て来たユゼおばあちゃんに出迎えられて、思わず愚痴が出る。


 まさか邪神の神子なんてもんが出てくるとはねえ。




 船室に入って、ジジ様達にもご報告。と言っても、街丸ごと浄化して悪い連中ふん縛ってきたよ、って程度だけど。


「それで、その者達はどうしたの?」

「街の保安部隊に任せてきました。あの街、とある領の地方都市だそうです」


 ここら一体を治める領主がいるそうで、あの街はその中でもちょっと外れにある地方都市なんだそうだ。


「それにしても、街を丸ごと瘴気漬けにするなんて、何を考えているのかしら」


 これ、彼等の行動理由くらいは話してもいいのかな。ちらりと銀髪さんを見ると、向こうもこちらを見ていた。


 えー? 判断の権限は私にはないよー?


「どうかしたの?」

「いえ、連中は、邪神崇拝をする邪教徒のようです」

「んまあ」

「街を瘴気漬けにしたのも、邪神の復活を待つ間に、地上に瘴気を蔓延させる為なんだとか」

「それで? 他にも仲間がいるのではなくて?」

「いるでしょうね。それと、あちらには邪神の神子という存在がいるそうです」

「ええ?」


 皆様、そこで私を見るのはやめていただきたい。そりゃ神子ですけどね! でも、邪神とは関係ない……とも言えないのか。


 完全浄化して、地上から消し去ったのは私だよ。


「その者達は、サーリの事を知ったら、何か仕掛けてくるのではないかしら……」

「心配ですわね」


 あー、そっちかー。今まで負けた事ないから、自分が「危ない」って意識、抜けてましたわ。


 ジジ様達の気持ちがちょっと嬉しい。


「まあ、サーリに傷を付けられるものなんぞ、そうおらんがのう」

「でも賢者様、万が一という事があるでしょう?」


 おっと、ジジ様がじいちゃんに食いついた。


「そうじゃのう。相手が邪神教徒という事で、攻撃手段が瘴気中心なら、まずサーリは負けんし、物理攻撃も通らん。魔法攻撃も、まずかすりもせんじゃろう。はて、どんな手段を使えば、攻撃出来るんかのう?」

「じいちゃん、それだと私が化け物のように聞こえるんだけど」

「ふぉっふぉっふぉ」


 笑って誤魔化すなー。




 とりあえず、リーユ夫人の提案で、領主様にも「こういう困った連中がいますよ」と報告しておく事になった。


 で、問題になったのは、誰が報告するかという事。


「ここはやはり銀髪さんでしょう」

「何で俺が……邪神関連は、神子の方がいいんじゃないのか?」

「いやいやー、私庶民だから、報告とか慣れてなくてー」

「神子は庶民とは言わない」

「領主様との付き合い、長いでしょ? よろしく!」

「あ! 逃げた!」


 逃げますよ。ジジ様達の笑い声を背に、ポイント間移動でささっと船から崖の温泉別荘へ。


 午前中は街にかかりきりだったから、午後からはここでのんびり過ごすのも手だよね。


『他の温泉には、行かないんですか?』


 えーと、また日を改めて、皆で行きましょう。ね?


『仕方ないので、諦めます……』


 すいません、検索先生。私はこの海で、やり残した事をやりたいんです。




 浮き輪でアイスクリーム、まだやってなーい!




 海だと波があるから難しいかなとも思うけど、崖下の海は波も穏やかだから大丈夫。多分。


 早速水着に着替えて海へ。浮き輪を取り出してアイスも……


「浮かんでからでいいか」


 でないと、海に落としそう。浮き輪に乗って、膝くらいの深さの場所まで。あー、海が青くて綺麗。下の砂が真っ白だから、余計に青く見えるんだろうね。


 ちょうどよく浮かんだので、亜空間収納からアイスクリームを出す。ワッフルコーンも、この日の為に作ったのだよ!


「ああ、幸せ……」


 青い空、青い海、白い砂浜、そして冷たく甘いアイスクリーム。最高だね。そしてこれを一人でやるという贅沢。


 いや、寂しいボッチじゃないから。




 海でアイスを堪能した後、温泉に入ってから船に戻った。領主様への報告は終わってるみたい。


「ただいまー」

「お前、どこに行って……海か?」


 ギク。何でわかるの銀髪さん。


「潮の匂いがするぞ」

「え? うそ。ちゃんと温泉入ったのに……」


 温泉という言葉に引っかかったジジ様が拗ねた。


「まあ、サーリ。温泉に行くのなら、どうして声をかけてくれないの」

「えーと、また新しい場所へ行く際に、一緒に行きたいと思いまして」

「あら、そうなの? そういえば、キルテモイアで頂いた温泉、たくさんあるって言っていたわね? 今から楽しみだわ」


 ふいー、何とか危険を回避出来た。もう、銀髪さんのせいだぞ。恨みを込めて睨んだら、鼻で笑われた。むきー。




 邪神教徒達に関しては、船団の方でも情報収集をしてくれる事になったらしい。


「捕まえた連中によれば、邪神教徒はこちらの大陸中に散らばっているそうだからな。我々だけでは探しきれないだろう」


 瘴気に関しては、検索先生の探査能力が阻害されるからなあ。


『瘴気が溜まっている箇所を探しますか?』


 出来るんですか?


『出来ます。神子が瘴気の浄化を最優先にしていなかったので、積極的に情報収集しなかっただけです』


 あれー? って事は、私のせい? そういや、スイーツ関連の事で頭がいっぱいだったわ……だって、バニラにカカオにメープル、それにフルーツ……


『広げられるだけ探査の網を広げると、しばらく全体の機能が落ちますが、よろしいですか?』


 えーと、具体的にどの程度落ちるんですか?


『今のような会話は全て出来なくなります。また、マップ機能にも支障が出るでしょう。通信、及び移動関連も機能しなくなります』


 大事おおごと! それ、どのくらいの期間落ちるか、予測出来ますか?


『こちらの大陸の全スキャンを行うので、短くても一週間程度はかかります。長ければ一月はかかるかと』


 大変! うーむ、気軽にお願いしますとは言えない……


「どうかしたか?」


 唸っていたらしく、銀髪さんに聞かれた。これ、相談した方がいいよなあ。


「いえ、邪神教徒の居場所を特定出来るかもしれないんですが……」

「本当か!?」


 おおっと、皆の視線がこっちに向いたよ。


「ただ、それをやると時間がかかる上に、特定にかかる間、色々な支障が出ます。具体的には、船の運航や領主様との通信、ヘタすると一箇所に留まってじっとする必要があるかも」

「まあ、随分と大変なのね」


 ジジ様が心配そうにこちらを見る。私自身に負担はないものの、検索先生の手助けがほぼなくなるのは、心細いんだよね。


 でも、邪神教徒を放っておくと、いらん事ばかりしそうだし。邪神の神子なんてものまで担ぎ出してきてるから。いや、ほぼ自称だろうけど。


 どうしたもんかと思っていたら、ユゼおばあちゃんからの質問がきた。


「ユーリカ、その特定はどのくらい時間がかかるの?」

「短くても七日、長いと三十日程度はかかるらしいの」

「ならその間、新しい温泉にお籠もりしているのはどうかしら?」


 全員がこの案に食らいついたので、しばらく温泉でお籠もりする事になりました。


『ぐぐぐ、温泉……』


 ごめんなさい、検索先生。復帰したら、必ず先生も連れて行きますから。

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