第467話 多分自称

 見つけた瘴気漬けの街を浄化したら、邪神の神子なんてワードが飛び出てきた。なんじゃこりゃ。


「神子同士で通じ合うものはないんかのう?」

「ないと思うよ。てか、その邪神の神子って、自称じゃないの?」


 もしくは、内輪でのただの呼び名か地位名とか。少なくとも、私のように神の力を受けて行使出来る存在ではないと思う。


 だって、力の源だろう邪神は、もういないんだから。


『瘴気の邪魔が入ってしっかり判別出来ませんが、勝手に名乗っているだけのようですね』


 やっぱりー。って事は、警戒する必要はないかな?


『油断は禁物です。人の思いは力になりますから』


 それは、祈りを捧げる対象が消えても、って事?


『そうです。この場合、邪神は消えても邪神の神子が祈りを束ねる存在になります』


 って事は、邪神の神子のそれなりに力を持っている?


『可能性はあります。また、彼等はどういう手段を使っているのか、瘴気を扱える訳ですから』


 瘴気が邪神の神子の力の源かー。私の力の源が神様ってのに、近いのか。


『いいえ、次元が違います。ですが、備えはしておいて損はありません』


 備えあれば憂いなし、ですね。


「邪神の神子が自称か……どうして、そう思うんだ?」

「どうしてって……」

「何か、思い当たる事でもあるのか?」


 う……既に邪神はいないって、言ってもいいものかなあ? こういう時は、じいちゃんに相談だ。


「じいちゃん……」

「お主……わしに聞いた時点で、何かあると言っているようなものじゃぞ」

「あれ?」


 じいちゃんだけでなく、剣持ちさんまで溜息吐いてるよ。


「お前はもう少し、情報の隠蔽方法を学んだ方がいいんじゃないのか?」

「聞いてきた銀髪さんが言わないでくださいよ!」

「それで? 何を知ってるんだ?」


 うーむ。これで言わなかったら、延々聞かれそうだし。ここにいるのはじいちゃんと銀髪さんと剣持ちさんだけ。


 なら、約束してもらえばいいか。さすがに元王様がした約束を、簡単に破ったりはしないでしょ。


「誰にも言わないって、約束しますか?」

「いいだろう」

「領主様やジジ様にも言っちゃダメですよ?」

「わかった」

「剣持ちさんもですからね!」

「その呼び名はどうにかならないのか?」

「なりません」


 こっちの人の名前って、憶えにくいんだもん。剣持ちさんは、また大きな溜息を吐いてから約束すると言ってくれた。


「あのですね、邪神の神子なんているはずないんですよ。だって、邪神自体がもういないんですから」

「いないって、再封印しただけなのだろう?」

「違います。完全浄化したので、この世界にはいないんです」

「はあ!?」


 おお、銀髪さんと剣持ちさんがハモった。




 神子って、神様との繋がりが強いから、もし本当に邪神の神子がいたとしたら、消えた事を感じ取れるはずなんだよね。


 あり得ないけど、今神様が消えたとしたら、私にはわかるそうだから。この辺りの情報は検索先生からのもの。


 邪神の消滅がわかっても、仲間には教えていないだけって可能性もあるけど、多分違うだろうな。


 邪神の消滅を教えたついでに、魔大陸であった事も全部話した。完全浄化により、あそこがどこよりも聖浄な場所になった事も。


「という事は、あの大陸には人が住めるのか?」

「そうですけど、人を送ったりしないでくださいね。荒らされたくありません」

「今の俺にそんな権限はない。しかし、これは確かにジンドには聞かせられないな……」

「ナバル陛下にもですね……」


 うん、その辺りには、言わないでもらえると大変助かります。


 別にさ、邪神が消えたって広まってもいいんじゃないかとは思うんだけど、そうするとどうしても神子の存在感が増しちゃうからね。


 放っておいてくれるならいいよ。でも、そうじゃない人の方が多いのは、もう知ってるからなあ。


 銀髪さん達は、何やら小声でやり取りをしてる。それが終わった途端、二人で顔を見合わせて、深い溜息を吐いた。


 まあ、世界に関わる事だから、秘密は重いよねー。


「とりあえず、邪神の神子とやらは、どうにかしておいた方がいいんじゃないのか?」

「そうですねえ。どのみち、瘴気を操る連中はまとめて浄化しておこうと思うので、そのついでに神子も浄化しておきますよ」

「お前が言うと、軽い事のように聞こえるな」


 失礼ですよ、銀髪さん。これでも、色々考えてるんだから。本当ですよ?




 先程邪神の神子云々言っていた人には、強めの浄化をかけたのでいつもなら強制改心もどきになるんだけど……


『悪意から瘴気を広めている訳ではないので、効きませんね。ですが、体内の瘴気は全て消したので、この先瘴気を操る事は出来ないでしょう』


 意識が戻っても、自白どころかこっちを睨んでだんまりだもんなあ。これ、気づかずにまた瘴気に近寄ったら、一発で意識失いそう。


 説明しても、信じないだろうけど。


「私を殺したところで、この大陸の大いなる浄化は止まらんぞ」


 なぬ? 浄化? こっちでは、まだあんまり使ってないんだけど。


「はっはっは、驚いて声も出せぬか。邪神様が復活なさる前に、我等で地上の浄化をせねばならぬ。我等の仲間が、他にも大勢動いているわ!」

「その、浄化とは、もしや瘴気をまき散らす事か?」

「まき散らすとは何事か!! 邪神様はこの世の全ての者に平等を与えてくださる。教会の崇める神など、差別を生み出すだけではないか! 邪神様こそ、正しい世界をお作りくださるのだ!」


 えー。でも、邪神はもう復活しませんよー。封印じゃなくて、完全浄化で消し飛んだからねー。


 それを感じ取れない以上、やっぱり邪神の神子は自称だよね。

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