第466話 何か変な事になってきた

 地下に下りると、広い空間。柱がいくつもあるだけで、がらんとしてる。


「真っ暗」

「随分広いな」


 確かに広い。上の神殿よりも広いかも。


『ここは以前、古代文明の建物が建っていた場所のようです。その上に、後から神殿を建てたのでしょう』


 おお、古代文明。こっちにもあるんだ。おっと、それはまた今度。今は瘴気を操る連中の方が先。


『この空間の一番奥に、連中が固まっています』


 もう浄化をしちゃっていいですかね?


『とりあえず、物理攻撃で捕まえましょう』


 魔法は使用禁止ですか。護くんを出そうかな。


『すぐ側に有用な人間がいるので、そちらに頼んでは?』


 銀髪さんかー。そういえば、剣の腕はいいんだっけ。剣持ちさんとの稽古くらいしか見た事ないけど。


『神子はバックアップに務めましょう。その方が楽です』


 ……とうとう検索先生にまで楽をする方法を推奨されるとは。すいませんねえ、ものぐさで。


「銀髪さん、銀髪さん」

「何だ?」

「この奥に、元凶の連中がいるようです。捕まえてもらってもいいですか?」

「……魔法は使わないのか?」

「その方がいいようです」

「……何故それが魔法でわかるのに、捕まえるのに魔法を使ってはいけないのかわからんが」


 う! 反論出来ない。


「まあいい。明かりだけ、頼めるか?」

「了解でーす」


 面倒だから、地下空間全体を明るく照らした。あ、本当に向こうの奥に集団がいるよ。


 どうしてああいう連中って、黒い布きれをかぶってるんだろうね? ここにいる連中も、頭からすっぽり黒い布をかぶってるよ。


「あれか」


 銀髪さんが走り出したので、私も続く。おお、速い速い。走りながら鞘ごと腰のベルトから外した剣で、手近なやつからぶったたいていく。


 何か、鈍い音がしたけど大丈夫かね? 骨くらいは折れてるかな?


 向こうもただ襲撃されるのを待っていた訳ではなく、杖のようなもので応戦してるけど、銀髪さんのスピードの方が上だった。


 乱戦に慣れてませんか? あなたちょっと前まで、王様だったよね?


 幸い、敵側は魔法攻撃を使ってこなかったので、銀髪さん一人で制圧完了。私はちょっと離れたところで、完全見物客と化していた。


「ふう。これで全部か?」

「わー、すごーい」

「……そう思っているようには見えないが?」


 失礼ですね。ちゃんと凄いって思ってますよ。たたき伏せられた連中は、亜空間収納から出したロープで逃げられないようにしておく。


 彼等がいた場所は、地下空間の一番奥にある祭壇の前だった。


「これ……」

『そこにあるのが、瘴気の元凶です。浄化してください』


 了解。祭壇に置かれている、装飾が施された箱を丸ごと結界で包んで、その中に強めの浄化を施す。


 一瞬結界内が強く光った後、瘴気は消えた。これでもう平気かな。後は街に残っている分を浄化すればいいか。


『捕まえた連中には、微量の浄化を持続する結界を張ってください』


 了解でーす。この人達も瘴気を抜かないとね。縛り上げた連中をひとまとめにして、結界を張りごくごく弱い浄化を施すよう設定。


 お、結界の中で暴れています。でも、縛られているので、ろくに動けない。


 これ、このままここに放置していったら……ダメだよね?




 神殿の地下の瘴気を片付けたので、上に戻る。あ、街中の瘴気も大分薄くなってるね。


「最初の時とはまったく違うな」

「綺麗になりましたね」


 瘴気に関しては。いや、普通に通りにゴミとかあるからさ。


 縛り上げた連中の結界に手を加えて、連中の瘴気が完全に抜けたら結界解除するようにした。


 それまでは、結界自体を気づかれないようにして、神殿の端に放置。検索先生の計算だと、丸二日もあれば抜けるでしょうとの事。


 あ、銀髪さんがへし折った骨は治しておいたよ。あのまま固まっちゃったら、大変だから。


 さて、丘の方はどうなってるかな?




 街から出て、絨毯で丘に向かう。お、じいちゃんの方も既に片が付いてるらしい。


「じいちゃーん」

「おお、そっちも終わったようじゃの」

「うん」


 丘に下りると、神殿の連中同様縛り上げられた黒布の連中がいる。


「フェリファー、よくやった」

「もったいないお言葉にございます」


 銀髪さん主従は放っておいて、縛られた連中に向かう。あ、こっちも骨が折れてるわ。


 向こう同様、結界で覆って浄化するかね。


『待ってください。このうちの一人には、強めの浄化を施してください』


 お? もしかして、情報持ってる感じですか?


『次に繋がるものが、確実にあるようです』


 強めの浄化をする相手は、検索先生がピカーっと光らせてくれた。端にいるこいつだな。


 光った男と他を分けて、それぞれに結界を張る。あ、浄化の前に治療しておこう。


 後は強いのとごくごく弱いのとに分けて、浄化開始。あ、強い方は一回凄いけいれんした後、ばったり倒れちゃった。


 弱い方は苦しみにのたうち回ってる。


「……凄い光景ですね」

「……そうだな」


 何で二人して遠い目をしてるんですかね? 私悪くないよ?


 強い浄化をかけた方は、そのまま一時間以上目を覚まさなかった。途中で待つのに飽きたから、丘の上にテントを出してコーヒーとお菓子を出す。


 今日のお菓子はソルトバタークッキー。ジジ様達がいればもっと甘いのを出すんだけど、男性陣だからね。


 塩味の中にほのかな甘みが感じられる出来。うん、いい感じ。


「……うまいな」

「そうですね」

「うむ。コーヒーにも合うわい」


 ソルトバタークッキーは男性陣にも好評でした。


 このクッキー、ゴーバルのバターを使ってるんだよねー。あのバター、本当においしいよ。


 そんな感じでまったり過ごしていたら、強い浄化の結界からうめき声が聞こえてきた。


「う……こ、ここは……」

「目覚めたようだな」


 銀髪さんと剣持ちさんの顔つきが変わる。いやいや、そんな怖い顔しないように。


「き、貴様らは……」

「あなたたちがあの街でやってた事は、ぜーんぶ潰したよ」

「な、何だと?」


 お、こっちの言う事、信じるんだ。


「丘の上から、街の瘴気が消えるところを、こやつらも見ておったからのう」


 あ、そうなんだ。そういえば、移動しながらゆっくり浄化していたっけ。あそこから見られたみたい。


「こ、このような事をして、我等が神子様が黙ってはおらんぞ!」


 ん? 神子? いやいや、そこで皆私を見るのはやめていただきたい。


「我等が邪神の神子様が、貴様らを滅ぼすだろう。その時を怯えて待つがいい。はははははは!」


 縛り上げられて拘束されているのに、でかい態度だなあ。


『神子、もう一回、強い浄化を』


 オーイエー!


「ぐああああああ!」


 悲鳴を上げて、また気絶した。それにしても、新たなワードが出て来てびっくりですよ。


「邪神の神子とはのう……」

「邪神に、神子なぞいたのか?」

「いや、私に聞かれましても」


 知らないってば。銀髪さんが変な事聞くから、剣持ちさんが疑わしい目でこっちを見てるじゃない。

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