第462話 海だー
結局話し合いの後、船団は出航する事になった。キルテモイアの港でずっと待ってるより、その分先に進んだ方がいいって判断。
で、出航直前に、マノンダ卿がやってきた。
「ああ、間に合った。良かった……」
何がどうしたのかと思ったら、なんとこの先でキルテモイアと交流のある国々宛てに、紹介状のようなものを女王様が書いてくれたんだって。
「陛下がとんだ失礼をしてしまいましたからな。これは、ほんのお詫びの気持ちです」
マノンダ卿が進言して、書かせたらしいよ。でも、これがあるのとないのとでは、この先の国々との交渉が大分違ってくるらしい。
なので、紹介状を一番喜んだのは、領主様。
「いやあ、助かります。これで交渉が楽になる」
「ははは、諸々の詫びも含めてますよ……」
あー……女王様、やらかしちゃったからなあ。マノンダ卿の言葉が尻すぼみになるのも、しょうがないか。
紹介状を手に、船団は出航していく。うん、私はちょっと姿を隠して港からお見送り。
だって、内陸組は三日間、崖の上の温泉別荘に滞在だからさー。ダガードで叔父さん陛下が一生懸命交易品をかき集めている最中、私らはのんびり過ごすのだ!
で、折角浜辺があるし、海綺麗だし、これは入らなきゃでしょ! って事で、水着を作る事になった。
この世界、水着ってないのよ。泳ぐのは猟師さんだけで、子供も遊びで泳ぐけど、全裸だそうな。で、猟師さんは下着一丁。ふんどし……な訳ないか。
なければ作る。素材に関しては、我等が検索先生が教えてくれるし。
『ミズグモの糸を使うと、地球世界の水着に似たものが作れます』
待って。何やらその名称に不穏なものを感じるんだけど。
『水辺にいる蜘蛛です』
いやああああああああ! ぬるっとしたのもつるっとしたのも嫌いだけど、足が多かったり飛んだりはねたりカサカサするのは更に嫌い!!
ほ、他にないんですか?
『ありません』
ああ、非情なこの返答よ……
仕方ないので、ミズグモとやらを狩りに行く事が決定。といっても、狩るのはとーるくんにお任せ。
いや、とーるくんに任せるなら、私は行く必要なくね?
『監督は必要です』
嘘だ。絶体嘘だ。
『水着の素材と一緒に、浮き輪素材も採取しませんか?』
話を逸らしましたね? 検索先生。でも浮き輪は欲しい。あと、あれだ。バナナボート的な奴も作りたい。
パラセーリングにも憧れたけど、海の上を飛ぶだけならほうきで十分なので、バナナボートを希望します。
『頑丈な浮き輪が出来れば、推進力は魔法でどうとでも出来ます』
丸っととーるくんに任せましょうよ。後は亜空間収納内で解体して、水着と浮き輪とバナナ型フロートを作ればいいんだから。
『残念です』
検索先生、たまに意地悪な事言い出すよね。とりあえず、私は現場には行かないからね!
ミズグモというのは、沼地に棲息する蜘蛛で、アメンボのように水上を自在に移動する事が出来るらしい。
で、水上や水中に糸を張り巡らせ、獲物を捕るそうな。だから、糸が水に強いんだって。
浮き輪とバナナ型フロートの素材は、これも水辺に出没する潜り鹿の皮がいいらしい。鹿と名が付いている通り、鹿型の魔獣で、水に潜って魚を捕るそうだ。肉食の鹿か……魔獣だし、何でもありか。
その二種類を、とーるくんを放って狩ってきてもらう。本当、その場に行く事にならなくて良かったわー。
ミズグモ、検索先生の話だと胴体だけで一メートルくらいの大きさなんだって。デカすぎでしょ、蜘蛛なのに。
そのミズグモを、とーるくん達はお得意の網ですくい上げていく。その後すぐに首を切り落として、胴体のみを亜空間収納へ入れていった。
収納に入ってしまえば、後は解体、糸成分抽出、製糸と自動で行われるので、デカい蜘蛛を見る事はない。良かった良かった。
同じように、潜り鹿もしっかり狩り、皮も素材として用意された。あ、潜り鹿は肉も美味しいらしいよ。今夜は肉のバーベキューといきますか。
糸はそのままだと、青みがかった白でこれはこれで綺麗。とりあえず、水着の形にしましょうか。
『布にするより、最初から水着に編み上げた方がロスが少なくなります』
という事で、水着デザインを選んでる。普通にワンピースでいいんじゃないかね?
『若いのだから、ビキニという手もあります』
いやいやいや、もっとスタイル良ければいいけどさ。デブではないけどこう、出るところがもっと出ていた方が……
『若いのだから、ビキニという手もあります』
なんでそんなにビキニ推しなの!
でもまあ、泳ぐのは私だけだから、ビキニでもいっか。んじゃあ、スタンダードなやつで……
『派手な奴にしましょう!』
待ってええええええ!
結局、検索先生に押し切られて、紐なビキニになりました……何でだ。でも、一応泳ぐ目的のデザインにはなったよ。色はそのまま、青みがかった白で。
最初見せられた画像、どう見てもそれ、目的違うよね? ってのばっかりだったんですが。
検索先生、何であんな画像ばっかり拾ってきたんだろう? ああいうのは、もっとこう、ボンキュッボンな人が着ないと。
それはともかく、浮き輪もバナナ型フロートも完成したので、明日が楽しみー。
ウキウキしていたら、リーユ夫人に見つかった。
「あら、何だか楽しそうね。何かあったの?」
「実は明日、下の浜辺で泳ごうかと思って」
「泳ぐ? サーリが? え? 海で? ダメよそんなの。危ないじゃない」
あれ? 反対されるとは思わなかったぞ? しかもリーユ夫人、ジジ様達にまで言いに行っちゃったよ。
「海で泳ぐですって。気は確かなの?」
え? 酷くない? 泳ぐっていっただけで、何故この反応?
「サーリよ、お主の国では、海で泳ぐのは当たり前の事なのかのう?」
「うん、夏とか普通に。学校でもプールで泳ぐし」
「ぷうる?」
そこからか。えーと、何て説明すればいいんだ?
悩んだ末、検索先生に頼んで、日本のプールの画像をいくつか選んで、護くんに映写してもらった。で、何とか納得してもらったよ。
それを見た、ジジ様の一言。
「んまあ。こんな破廉恥なものを着て」
ハレンチって。そういや、おばあちゃんもテレビで女優さんの水着が映る度に、そんな事言ってたなあ。
「これは水着といって、濡れても大丈夫な服……服? なんですよ」
「でも、こんなに肌を見せるなんて……」
「えーと、外国なんかだと、年配の人も普通に水着着て海に浸かってたりしますよ」
あれ、泳ぐというよりは、海に浸かってるって表現の方があってるんだよなあ。
あれこれ画像を見せていたら、結局全員が泳いでみたいとなり、皆の分の水着を急遽作成する事になりました。何でだ?
「カイド達のも作ってちょうだい」
「はーい」
もうなんか、ここまで来たら何でもありかな。銀髪さん、今は庭の方で剣持ちさんと剣の稽古中らしい。ジジ様からのサプライズプレゼントって事ですね。
あ、じいちゃんにはアニメで見た古いタイプのやつを作ってあげよう。上下繋がってるやつ。お腹冷やさないように。
銀髪さん達のは、普通に短パンタイプ。ラッシュガードも付けてあげようかな。いきなり肌を露出するのは、抵抗あるだろうし。足は……我慢してくれ。
ジジ様達のはどうしよう。人数多いので、護くん映写で好きなデザインを選んでもらうか。
侍女様方とユゼおばあちゃんは、シンプルなワンピース、ジジ様とリーユ夫人はなんと大胆にもビキニを選択。
皆同じ色というのも味気ないので、色柄も変えてみた。侍女様方は大きめの花柄を選択、ユゼおばあちゃんは白と青のペンシルストライプ。
ジジ様は黒一色で、リーユ夫人は赤地に白のドット柄。じいちゃんのは白と赤のボーダーで、銀髪さんと剣持ちさんは紺一色。
気づけば、じいちゃんは部屋の隅で小さくなってる。まあ、女性陣がはしゃいでたから、パワーに負けたのかも。
さて、これで支度は出来た。明日は久しぶりの海だー!
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