第461話 おかわり
明けて翌日、既に船団は準備を整えていて、いつでも出航出来る状態だ。それはいいんだけど、一つ問題が。
「予定では、この辺りで切り上げて一度帰国するという事だったんだが……」
キルテモイアまでは、くびれの国々からもわずかながら船が出ていて、その伝手を頼って去年のうちに軽く根回しを済ませていたそうな。
で、問題はここから。
「実は陛下に連絡が取れてね。行けるところまで行ってきてくれと言われてしまったよ」
「それって、この大陸をさらに東に向かって進むって事ですよね?」
「そうなるね」
ほほう。キルテモイアでの滞在は思っていた以上に長引いたから、その間船の補修や食料の補充なんかをしてたんだって。
だから、こっからさらに東へは行けるんだけど、根回しが済んでる国はキルテモイアまでだそうな。
「つまり、この先の国には、飛び込み営業みたいな形で行く訳ですかー」
「何だい? そのとびこみえいぎょう、というのは」
聞かれても、うまく答えられないや。おばあちゃんの話や、ドラマなんかで見た知識だから。
でも、根回しが済んでない国にいきなり行って、交易の条約とか取れるものなのかな?
「問題はそこでね。ダガードから持ってきた交易品が、そろそろ底をつきかけているんだよ。一旦帰国して、また船団を組んでとなると、時間がかかるんだが……」
それらも含めて、領主様が現在悩んでいます。結果は今日中に出さないといけないようだけど。
でも、何も持たずにこの先の国に行くのは、厳しくない? せめてサンプルだけでも持っていった方がいいと思う。
うーん、私の船からなら、ポイント間移動で簡単にキッカニアまで戻れるけど……それ、言っていいのかな。
こういう事で迷ったら、じいちゃんに相談だ!
「と言う訳で、私が戻って交易品を積んで帰ってくるって手は、ありかなしか?」
「なしじゃ。一発でポイント間移動がバレるぞい」
ですよねー。バレたら最後って気もするし、どうせ神子だってバレてるんだから、今のメンツまでならいっかーとも思う。
「まあ、砦を船に入れる事が出来たんじゃ、面倒ごとがあれば、船でダガードを逃げ出すのも手じゃろ」
「そう……だね……」
それも何だか、嫌なんだよなあ。一年ちょっとしかいない国だけど、私の中ではもうあそこは「帰る」場所になってる。
過ごした年月で言えば、ローデンの方が長いのにね。何だか不思議。
じいちゃんとそんなやり取りをしていたら、スーラさんから着信音が。誰だ? と画面を見ると、ミシアから。
「もしもーし」
『……ねえ、そのかけ声? って何?』
「私の国で通話の際に、最初に言う言葉」
『そうなんだ……あのね、サーリにお願いがあって』
このタイミングで、ミシアからのお願い。やな予感。
『ポイント間移動の事、お父様に話しちゃダメ?』
やっぱりー。
「ちょっと待ってて……じいちゃん、ミシアから」
「聞いておったよ。ううむ。ナバル王か……」
まあ、ミシアに話しちゃった以上、いつかは叔父さん陛下の耳に入るとは思っていたけどね。このタイミングかー。
これはもう、交易手伝えという神様の思し召しでしょうか。
『神は今回の件に関して、干渉しません』
あ、そうですか……って事は、俗世間にいる人間で片付けろって事ですねー。
この先もダガードに住むなら、あの国の利益も少しは考えた方がいいと思うんだ。
まあ、金銀ダイヤの鉱脈が見つかってるから、そういう意味では既に利益が出てるのかもしれないけど。
『船団が帰国するにしても、神子はこの先まで行くべきです』
そうですねー。まだメープルも見つけてないし。温泉も他にたくさんあるんでしたっけ?
『それもありますが、瘴気を操る一団の事です』
そういえば、そんな話があったような……
『狙って浄化をせずとも、今の神子の力なら、近くに行くだけで効果があります。ですから、連中がいる場所だけでも突き止める事を推奨します』
私の力って、また強くなってるんですか? 例のアップデート? いつの間に……
『それだけ、神子が幸せになっているという事でもあります』
そうなんだ……そういえば、私がハッピーなら周囲もハッピーなんだっけ? 自覚ないなあ。
『交易に関する事も、神子の望むままに。その結果は、きっと神子の望む形になるでしょう』
私が望む形……今のまま、ダガードに所属していられるって事?
『コーキアン辺境伯や、ナバル王、ジゼディーラ王太后にカイド前王は、神子の力を利用するだけの存在ではありません』
そっか……そうだよね。領主様は仕事としてあれこれ依頼してくれるし、叔父さん陛下はどっちかって言ったらミシアのお父さんとして接してる。
ジジ様は温泉に傾倒してるし、銀髪さんは……銀髪さんは、何だろうね?
むかっとする事も言ってくるけど、守ってくれる事もある。そういうところは、ヘデックとは全然違うや。
いや、比較対象があれってのは、銀髪さんも不本意だろうとは思うけど。一番身近にいた年の近い異性って、ヘデックくらいなんだよね……
「あ、何かわかったかも」
銀髪さんは、私の事を普通扱いするんだ。散々神子の力を目の前で見てるくせにね。
貴婦人として扱う訳じゃなく、庶民だからと見下すでもない。女扱いしてないだけって気もするけど、だからといって男扱いするでもないしなあ。
ちょっと不思議。でも、いっか。
「よし、決めた! ミシア、待たせてごめんね。おじ……君のお父さんに、話していいよ。こっちでも、領主様に話しておく」
『ありがとう! サーリ大好き!!』
ははは、大好きかー。さーて、私も領主様に話してこなきゃ。また呆れられるかもしれないけど、今更だよねー。
で、領主様夫妻にジジ様、侍女様方、銀髪さんに剣持ちさんも交えて、ポイント間移動について説明しました。
「という事は、今ここからでも、ダガードに瞬時に戻る事が出来る、と?」
「そうです。なので、必要なら帰って、交易品を持ってくる事が出来ます。あ、今回に限り、今まで購入した品も持っていきますよ」
あっという間に国に帰れるっていうのを、当たり前にするのはよろしくない気がしたので、今回だけの特別って事にしておく。
ポイント間移動の事を説明したら、色々反応があると思ったんだけど、ちょっと驚かれた程度だったね。
信じてもらえないか、恐れられるか、気味悪がられるか。マイナスな反応を覚悟してたんだけど、なかった。
あ、銀髪さんには呆れたような目で見られたよ。何でだー。
考え込んでいた領主様の懐から、スーラさんの着信音。ミシアから話を聞いた、叔父さん陛下からだな。
「ちょっと失礼」
そう言って、部屋から出て通話する領主様。その背中を見送っていると、隣に座る銀髪さんから声がかかった。
「これまでもでたらめな奴だと思っていたが、これまで以上だな」
「どういう意味ですか? それ」
「お前に関しては、何でもありだと思っただけだ」
その割には、声に呆れが滲んでますけどー?
「とはいえ、叔父上に代わって礼を言う。正直、今回の事は助かるんだ」
「そうなんですか?」
「カイドの言う通りよ。交易が進めば、ダガードは豊かになるでしょう。それは我が国だけでなく、北ラウェニア全体に広がるわ。それもこれも、あなたのおかげよ」
ジジ様から、褒められちゃった。嬉しいな。
通話を終えた領主様が戻ってきた。
「陛下と話がついたよ。サーリ、交易品の運搬を頼む」
「任されましたー」
と言っても、すぐに移動するんじゃなくて、キッカニアに品が集まってから、だってさ。
ダガードでも超特急で品をかき集めているそうで、三日で全て揃えると叔父さん陛下が豪語したらしい。本当だな?
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