第458話 無茶ゆーな
本日は岩礁作り。ささっと行って参りまーす。
「大丈夫かい? 大変なら、一度国に帰った後でもいいんだよ?」
「問題ないですよ。私にはあの船がありますから!」
ええ、検索先生が亜空間収納内でこっそり作ってくれていた、空も飛べる船が。これ、普通に言ったらアニメの見すぎって怒られそうだよね。
でも、本当に空を飛ぶのだ。まあ、ほうきやら絨毯やらを飛ばしてた身としては、今更言うなって感じだけど。
で、この船で行って、各地に中継器をセットしてくると領主様には伝えてある。
銀髪さんも行きたがったけど、作業の邪魔なのでジジ様にお願いして引き留めてもらった。
だって、本当は船でなく、ほうきを使うからねー。中継器を置く岩礁、結構間隔が短めにしないといけないらしいのよ。
なので、小回りの利くほうきにしました。そして、お供はもういるのだ。
ブランシュとノワール、それにマクリア。彼等は大きい方の船にずっと残っていて、今回久しぶりに一緒に外の空を飛ぶんだ。
いや、あっちの船にもちょいちょいポイント間移動で戻ってたんだけど、一応皆には内緒だからさ。
「ピイピイ」
「気持チイイネエ」
「プイプーイ」
三匹とも、キルテモイアの海が気に入ったみたい。これから北へも向かうから、海の違いも楽しむといいよ。
さて、どうやって岩礁を作るかというと、海底から隆起させるか、上から埋め立てるかのどちらか。今回は、隆起を選んでみた。
小島にするなら、亜空間収納に入れてある土砂を使うんだけど、今回は岩礁だからね。
いらない土砂は、三つのトンネルを掘った際に出たもの。これもいつか何かに使えるのかも。
っと、それはともかく、岩礁岩礁。よし、うまく隆起出来た。その上に、用意して置いた中継器をセットして、動かないように固定する。
岩礁に埋もれるように固定したから、波程度じゃ流されないよ。あ、岩礁も浸食されないよう、魔法で補強しておこう。
補強も固定も、中継器の魔力を使うから、半永久的に維持出来る。この辺りはじいちゃんの知恵。ありがと、じいちゃん。
三匹も空を飛んだり波と遊んだりするのが楽しいらしい。調子に乗って、波に呑まれたりしないようにね。
さて、じゃあ次のポイントに行くか。検索先生! マップ表示よろしくです!
『了解しました。これが終わったら、新しい温泉で疲れを取りましょう』
もう出来たんだ……そして、完成の連絡が私じゃなく、検索先生に行くんだ……まーいっかー。
さくっと岩礁を作って、中継器をセット、テストも順調に終わったので、これにて通信システムのお仕事は終了~。
「いやあ、これだけ離れたところから、国に連絡が取れるのはいいねえ」
領主様、大変嬉しそうです。じいちゃんもいい仕事が出来たという事でにっこにこ。
私はたくさんの温泉を手に入れられたので、これまたにっこにこ。検索先生曰く、別荘建築は順調だそうな。
特にあの、崖の上の別荘は出来上がるのがとても楽しみ。海が見える温泉って、今までなかったから。あっても湖止まりだったもんね。
やっぱり、海っていいよね。見るだけでテンション上がるのは、近場に海がなかったからかなあ。
日本でもそうだったし、ローデンも内陸の国だったから。山や川、湖はあっても、海は身近になかったんだー。
ダガードはすぐ北が海だけど、泳ぐような海じゃないし。どっちかっていうと、漁に出る場所かな? あと、魔大陸の影響で波が荒い。
キルテモイアや旧ジテガンの海はこれぞ南国! って感じの青い海だからね。日差しも強いし気温も高い。いいビーチリゾートだと思う。
崖の下の浜辺で、海水浴……いいなあ。あれ、プライベートビーチだよね。凄い贅沢。
妄想に浸っていたら、隣から何やら不穏な視線。
「……何ですか? 銀髪さん」
「一体何を考えて、そんなだらしない顔をしていたのかと思ってな」
「だらしないって何ですか! だらしないって」
「よだれが出てるぞ」
「え? マジで?」
やば。妄想のしすぎ? いや、大きな浮き輪でぷかぷか浮きながら、アイス食べる想像していたからかな……
でもさあ、いいよねえ、暑い日差しの下、海に浮かびつつ食べるアイス。バニラとストロベリーのダブルでいこうかな。
キルテモイアでやる事は全部終わったから、いよいよ出国となりました。領主様は船団を代表して、朝から王宮へ出立のご挨拶に向かってる。
その領主様が、昼過ぎにようやく戻ってきたんだけど、何だか浮かないご様子。何か、トラブル?
「マノンダ卿の様子もおかしいな」
「あ、本当だ」
銀髪さんの言うとおり、二人して何やらお通夜状態。どうしたんだろう?
結局、銀髪さんが確かめる事になって、聞きに行ったんだけど、何やら話した後に、三人してこっちを見てるのは、何故? あ、手招きしてる。
「……何ですか?」
「この二人の悩みには、お前が関わってるらしい」
「へ?」
どういう事? 首を傾げていたら、マノンダ卿がとんでもない事を言い出した。
「実は、我が国の陛下が、あなたを欲しいと」
「はい!?」
どうやら、女王様が私にこの国に残って欲しいと、領主様に無理言ったそうな。
えー? 何でそうなるのー?
「やり過ぎたな」
へ?
「カイド様の言う通り。君の力を見せすぎたようなんだ」
何ですと!?
「陛下からは、王配殿下のお命を救った恩人を、このまま帰す訳にはいかない、我が国でゆっくりもてなそうと思う、とのお言葉でして……」
いやいやいや、それは困るって。何でこっちの意思を無視して、決めちゃうかな。
まったく、これだから王侯貴族ってのは。
「……何だ? いきなり睨んで」
「何でもないですう」
「何でもなくないだろう。話せ」
「嫌ですう」
これだから、王侯貴族なんて!
結局、翌日には私本人が嫌だと言いに王宮に行く羽目になりましたとさ。納得いかなーい。
むくれながら車に乗り込むと、領主様とマノンダ卿の他に、銀髪さんと剣持ちさん、それにじいちゃんがいる。
他はまだしも、じいちゃんは私のストッパーとして来てるな……
キルテモイアは、これからダガードと交易をする大事な国。とはいえ、許せる事と許せない事はあるのですよ。
王宮に着くと、すぐに女王様達の私室へと案内された。謁見の間じゃないのは、これから行う話し合いが公式のものではないって事。
そりゃ公式の場で、一国の王様が他国の名もない魔法士に「申し出は断る」とか言われたら、メンツが丸つぶれになるもんね。
というか、その前にそんな無茶、言い出すなって話だけど。
「おお、よく来たな」
にこやかな女王様。相変わらず美人です。隣で微笑む王配殿下もイケメンだから、お似合いの二人なんだよね。
それはいいけど、無理を通そうとするのはいかんよ。
「いきなり本題に入らせていただきます、女王陛下。問題の本人を連れてきましたよ」
「ああ、ご苦労。サーリよ、話は聞いたと思うが、ぜひ我が国に留まってほしい」
「嫌です」
「え?」
女王様が、ぽかんとした顔をしてる。いや、本当はもうちょっと穏便に言おうと思ったんだけど、何だか腹が立って。
てか王配殿下! あなたの奥さんでしょ! 暴走を止めてくださいよ!
「何か、待遇で気に入らない事でもあったかな? ならばすぐに改善させるよ。彼女の願いを叶えてやってほしい」
あんたもかああああ!
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