第457話 丸投げって素敵
その日の夕食後、早速領主様に報告した。じいちゃんが。
「ほう、という事は、誰でも使用可能という事かな?」
「そうなりますのう。その為にも、ダガードにて早急に魔法士を多く雇い入れていただきたい」
「魔法士か……我が国はこちらの大陸との交易も始まるし、我が領に限っては色々と潤っている最中だからなあ。これを機に、いい人材を見つけたいね」
「その際には、ナシアンから多く雇い入れるがよろしかろう」
じいちゃん、よりにもよって、あの国? 領主様も、怪訝な顔をしてるよ。
「……理由を聞いても?」
「サーリによれば、あの国は丸ごと神罰が下ったそうですのう。となれば、あの国の人間はまず不正はやりますまい」
「そうか、不正などすれば、神への冒涜になるという事だな」
「左様。それに、ナシアンには腕のいい魔法士が多くいるのじゃ。狙わない手はありますまいて」
「ふっふっふ、賢者殿はさすがにわかっている」
「何の、領主殿こそ」
あれえ? おかしいなあ。領主様とじいちゃんが、時代劇の悪代官と越後屋に見えてきたよ……あれ? 越後はちりめん問屋だっけ? まーいっか。
今回作る通信システムは、作ってしまえば後は他の魔法士でも簡単に運用出来る形にするらしいよ。
実際通信する時には、魔法士いらないしね。ただ、魔力で動くものだから、定期的に補充する必要がある。
ここでなんと、護くん達に採用した魔力バッテリーの存在がクローズアップ。通信システムにも使うんだってさ。
「そうすれば、ダガード国内にて魔力の充填が可能じゃし、一カ所で集中して行えば、省ける手間が多いんじゃ」
そっかー。じいちゃん、色々考えてるんだね。あ、でもバッテリーって、人造とは言えダイヤだよ?
「盗む人とか、出ないかな?」
「その為のナシアン人の魔法士じゃよ」
「あー、なるほどー」
不正はしない、というか出来なくなってるナシアン人なら、ダイヤをくすねるなんて事もせずに、真面目にお仕事をするだろうって事か。
本当、じいちゃんってば色々考えてるう。
「どちらかというと、お主が考えなしなんじゃよ」
「ひでー」
じいちゃんはときたま辛口だよね。
たてるくんやもぐら、どけんさん達の量産も完了し、いよいよ多数の別荘を同時建築する事になった。
『亜空間収納内にある素材を使いますので、神子は何もしなくていいですよ。素材が足りなくなりましたら、お報せします』
はーい、その時は狩りなり採取なりに行けばいいんですねー。何と言う楽さ。丸投げって、やっぱりいいですね。
ウィカラビアとキルテモイア、それに旧ジテガンの別荘は、それぞれ少しずつテイストを変えたアジアンリゾート風にしてもらう。
他にも色々リゾート地はあるけど、なんとなくね。位置的にはこっちの大陸の西側だから、アジアとは全く違うのがなんとも。
『この大陸には、他にも温泉が湧く場所がありますから、そこは別のリゾート風にすればいいと思います』
待って、検索先生。今私が持っている温泉地、いくつあるとお思いで? これ以上まだ増やすと?
『神子、温泉はあればあるだけいいのです。未だ手つかずの温泉が、この世界にはたくさんあります。その全てを、開発しましょう!』
いやいやいや、今回建築する別荘だけで、四十七でしょ!? それ全部入り終わるのって、一日一カ所回っても一月半ちょいかかるんですよ!?
『それが何か?』
「ダメだこりゃ」
温泉に関しては、検索先生は一部ポンコツになる模様。
スイーツ特化型ほっとくん……もうそろそろ名前をすいーつくんにでも変更しようかな。そのすいーつくんのリース状況は上々だ。
何でも、女王様が王宮の晩餐で、遠い国から来た客人――私達の事だね――からもらった機械で作った菓子だと言って、振る舞ったそうな。
シャーベットとフルーツアイスクリームの二種類だけだったらしいけど、女性陣に大人気だったんだって。だろうねー。
で、奥様やお嬢様にせっつかれたご当主が、女王様のところに押しかけたという訳。機械で作れるのなら、その機械を我が家でも購入出来ないか、とね。
領主様は私達と一緒にマノンダ卿の屋敷に滞在しているから、必然的に国内の窓口がマノンダ卿になってる。
それはそれで、卿の利益になるからいいんだってさ。貴族って、よくわかんない。
で、女王様のところに押しかけた貴族達が、窓口はマノンダ卿ですってアナウンスされて、速攻こっちのお屋敷に押しかけてる。
で、もれなく皆様リース契約を結んでいくそうだよ。もちろん、スイーツの材料となるミルクや生クリーム、バターの購入も忘れずに。
仲には先走って「材料が切れた場合は、どれくらい待てば購入出来るんだ?」と聞いて来た人もいたらしい。
これ、リース内容にじいちゃん特製食料棚も入れておいた方がいいんじゃない?
「最初から入っておるわい」
「そうなの?」
「お主が気づく程度の事、領主殿が気づかんとでも?」
それもそうか。いや、何かバカにされた気がするんだけど? これは流しちゃダメなやつだと思うんだ!
そう思ってじいちゃんに文句言ったんだけど、スルーされた。酷くね?
じいちゃんの通信システムが出来上がった。じいちゃんにしては時間かかったね。
「さすがに理解するのが大変じゃったわい。お主の先生の解説があっても、苦労したぞい」
「えー、その辺りはぜひとも領主様に伝えるといいと思うよ」
「そうじゃな。今度酒でも酌み交わしながら、とっくりと語るとするかの」
じいちゃん、悪い顔になってるよ。まあ、大変だったのは本当なんだろうけど。
技術的には問題なくとも、通信そのものの概念を理解するのが大変だったしい。
「うーん、仕組みはわかってるのにねえ」
「仕組みというか、使う技術じゃな。まあ、完成したし、試験も無事完了したから良しとしておくわい」
「だねー」
後は私が岩礁を作って中継器を置けばいいんだね。この中継器、メンテナンスフリーを目指して色々こだわって作ってみた。
素材はやはり耐久性が高いドラゴン素材。しかも上位ドラゴンの素材だ!
爪を主な素材にして本体を作り、周囲の魔力を吸収して補充不要にしてみました。バッテリーも、一台につき大きなダイヤを四つ組み込んでいる。
計算では一千年くらいもつらしいから、何とかなるはず。そのくらい経てば、新しい技術で大陸間通信が行われてるでしょ。
キルテモイアには、ダガードの大使館とは別に、コーキアン領専用の商会が置かれる事になってるそうだよ。領主様、いつの間にそんなもの作ったんですか。
やっぱりアドバンテージはじいちゃんの食料棚。今回はそれに加えて同じ機能の運搬箱も作ってリースするらしい。じいちゃん、大忙しだね。
例の通信システムは、大使館とこの商会にのみ設置するんだってさ。その分、国庫からの報酬とは別口に、コーキアン領からの使用料も入るらしい。
んで、その通信の使用に関して、船団で来ている商人達からの問い合わせが来てる状態だって。
一回固定の金額での使用を検討しているそうだけど、商人達からは高額でも使わせてほしいって要望が来てるみたい。
そりゃそうか。船で行って帰ってってしたら、軽く半年一年は経っちゃうもんね。直行便を出すようになっても、数ヶ月はかかる。
それなら、お高くても瞬時に連絡が取れる通信を使いたくなるでしょうよ。キルテモイアとの交易は、金になるだろうし。
まー、その辺りは領主様に丸投げなので、私もじいちゃんも実務には関わらないからどうでもいいや。
丸投げって、本当に素敵ね。
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