第456話 通信システム

 スイーツ特化型ほっとくんのリース関係で、領主様のキルテモイア滞在が延びました。まあ、他に対応出来る人、いないからね。


「しかし困ったな。私以外にも、対応出来る人材はいるにはいるんだが……」


 そこで何故こちらを見るんですかねえ?


「……何ですか?」

「あのスーラ……だったか? もう少し、融通してもらう訳にはいかんか?」


 スーラさんをかあ……確かに、キルテモイアってダガードからは遠く離れてるから、船なりなんなりで連絡を取ろうとしても、時間がかかるんだよね。


「……ちょっと、じいちゃんに相談してきていいですか?」

「もちろんだよ。いい返事を期待している」


 期待されてもなー。




「ふうむ。連絡をなあ」


 じいちゃん、考え込んじゃった。スーラさんを大量生産するのは、さすがにヤバいって私でもわかる。


 あれ、結局は検索先生を間に挟むから、先生の負担が増えるし、それに私がいなくなった後は使えないからね。


 私だって永久の命を持ってる訳じゃなし、いつかは死ぬんだしさ。その後使えないって言われても、それはそれで困るのよ。


 いっそ発電設備と一緒に、電信技術でも教えようか。そっちの方がヤバいかな。


 うーん、そういうシステム、魔法で何とか構築出来ないもんかな。


『出来ますよ』

「出来るの!?」

「何じゃ? 急に。……もしや、検索先生とやらかの?」

「あ、うん。あのね」


 じいちゃんに、簡単な電信のシステムを伝えた。といっても、検索先生が教えてくれた事を、そのまま話しただけなんだけど。


「でね、これを魔法で構築可能だって言われたんだけど」

「ふむ。確かにやってやれない事はなさそうじゃな。技術、という意味では出来るじゃろう。発想する者がいなかっただけじゃからのう」


 なるほど、思いつく人がいなかったって訳か。確かに、遠く離れた場所と連絡を取りたい人なんて、そういないもんな。


 国の偉い人達なら、使者を立てないと失礼になるから魔法や他の技術には頼らないし。


 そんな訳で、大陸間での魔法を使った通信を開発しようなんて物好きは、今でいなかったそうな。もったいなーい。


「んじゃあ、領主様にはスーラさんに変わる連絡方法を、じいちゃんが考えてくれたって言っていい?」

「構わんぞい」


 よっし。これでミッションクリア。




 魔法で連絡を取る際、一番のネックは距離だという。遠いところへ伝えようとすれば、それだけ高出力の魔力が必要になるそうな。


「という事は、短い距離ならそこまで強い魔力でなくとも届くと?」

「そうなるのう。ただ、ダガードからここまでとなると、さすがに遠すぎるんじゃよ……確かに出来るは出来るんじゃが、それだけの魔力持った魔法士は少ないからのう」


 思いも寄らぬ落とし穴。いや、電信系の魔法が発達しなかった理由の一つに、これがあるんじゃないの?


 労力をかけて問題をクリアしてまで、魔法で伝える必要なくね? って事だね。


 んー、でも距離かあ。陸地なら、最悪人が来ない場所にこそっと中継器を置いてくるんだけど。


『余所様の土地に、勝手に置いてはいけません。きちんと権利者に話を通しましょう』


 はい、すみません……


『ですが、海の上なら何も問題ありません』


 はえ? どういう事?


『一般的な出力で通じる距離に、中継器を置くための小島を作ればいいのです』


 小島って、作るっていうっけ?


『何も大きなものでなくて構いません。一般的には岩礁と呼ばれるものでいいのです。その上に中継器をおけば、現状海はどこの国のものとも定められていませんから、問題ありません』


 あ、こっちって排他的経済水域とか、領海って考えがまだないのか。


『さすがに他国の軍艦が近寄ってくれば問題にもなるでしょうが、岩礁が現れたところで誰も何も言いません』


 なるほど。でも、いきなり岩礁を作っちゃったら、他の船の航行に支障が出ないかな?


『さすがに間隔を開けますから、支障が出る程ではないでしょう』


 そっか。ならいいや。じゃ、早速じいちゃんに報告報告。




 岩礁云々を伝えたところ、じいちゃんには盛大な溜息を吐かれました。


「……普通はの、岩礁も作るとは言わんのじゃよ」

「あ、そっか」


 島より小さいから、失念してたわ。いやほら、島より規模が小さいから、それならいいかって。


「まあ、これで距離の問題が解決するのであれば、それに超した事はないの」

「だよね!」


 これでダガードとキルテモイアの間で、簡単に連絡を取り合う事が出来るようになる。


 少なくとも、ダガードの新しい港街キッカニアまで届けば、後は陸路でどうとでも出来る距離だからねー。


 後はじいちゃんに頑張ってもらおう。そして領主様には、じいちゃんが作ってくれるって報告しておこう。


「それにしても」

「何?」

「これだけ規模の大きな事をやらかすと、後が厄介になるのう」

「え」

「今回のこの仕組み、いくらで領主殿に売る気じゃ?」

「えー」


 考えてなかった。でも、これって二国間とはいえ、結構重要なシステムだよねえ。


「……いくらくらいが、相場かな?」

「さて、億か兆か」

「そんなに!?」

「本来なら、多くの人間が関わって、何年もかけて作り上げるものじゃぞ? それをお主は……」


 いや、そんな人を非常識の塊みたいに……はい、非常識ですね。


 でもなあ、いっぺんにそんなにもらったって、使い道ないし。それに、税金で結構もってかれそうなんだけど。その辺り、どうなんだろ?


「ふうむ。よし、それならキルテモイアとの交易で得た利益のうち、一割を受け取るという形にしてはどうじゃ?」

「ああ、それいい!」


 領主様が誤魔化すとも思えないし、いいアイデア。さすがじいちゃん。


「いうてみれば、年金報酬のようなものじゃな」

「年金? こっちにもそんな制度あるの?」

「お主の国のそれとは、ちと違うと思うぞい。国に貢献した者が、その命がある限り国から毎年決まった額の報酬をもらえるんじゃよ」


 あー、それだと日本の年金とは違うね。

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