第451話 ケーブルカー

 あっという間に砂浜が完成した。検索先生が良い感じに砂を均してくれたので、今すぐにでもビーチとして使えそう。


 キルテモイアは暑いから、海水浴が楽しめそうだよ。


 ショックで固まっているらしき銀髪さん達は放っておいて、次は温泉別荘の場所を確保しましょうか。


『いよいよですね!』


 そーですね。折角ビーチを作ったんだから、ここまで簡単に来られる道が欲しいな。階段……だと上り下りが大変そう。


『ケーブルカーを作ればいいのでは? 手持ちの素材ででっち上げられますよ』


 でっち上げるって……。んじゃあ、ここを使う時は私がいる時だから、魔力バッテリーなしの小型ケーブルカーを作ろうか。


 ここには崖の上に別荘を作りたいしね。見晴らしのいいオーシャンビューなんて、贅沢じゃない?


 という訳で、亜空間収納内で本体を作成してもらっている間、ケーブルカーを通す線路を敷こう。


 となると、もうちょっと崖を削った方がいいかな?


『最高でも四十度を目指しましょう』


 普通のケーブルカーって、どのくらいの傾斜なのかな……日本で最大が三十一度ちょっとなんだ。


 数字で見ると大した事ないって思うけど、実際見てみると三十度とか凄い傾斜だったりするよね。


 それより、十度も傾くのか……まーいっかー。


『ケーブルカー用に、崖を細くくり抜きましょう』

「そうなの? 崖全体でなくていいんだ?」

『崖全体を削ると、崩れる危険性が高まります』


 おお、そりゃいかん。崖崩れとか、マジ勘弁。土砂じゃなく岩だから、雨で崩れるって事はないらしいけど、地震とかで崩れる危険性があるって。


 砂浜に向かって右端の崖下から上に向かって、細く奥へとくり抜いていく。抜いた石は後で石材として使うんだー。


 くり抜いた後、線路を敷く場所にはドラゴンコンクリートで補強をしておく。念には念をってね。


 枕木もドラゴンコンクリートを使う。その場で成形して、どんどんと敷いていった。


「これは、何をしているんだ?」

「あ、正気に戻りました? 下の浜と上とを繋ぐケーブルカーの為の線路を敷くんです」

「けーぶるかー? せんろ? 何だ、それは」

「見てのお楽しみでーす」


 説明が面倒臭いとも言う。作業しながらなんて、出来ないし。手を止める訳にもいかないし。


 なので、見ればわかる、という事で。


 枕木をガンガン敷いていった後は、線路を敷いていく。幅は検索先生から指示された通りに。


 ここで使ってるレールは、実は金属にあらず。これもドラゴン素材なのだよ。メンテナンスフリー素材はドラゴンが一番。


 下位ドラゴンの骨と皮を細かく刻んで血と混ぜ合わせ、一千七百度で六十時間焼くと出来上がり。


 金属というより、金属のように曲げたり伸ばしたり出来るセラミック、と言った方がいいのかな。不思議素材なり。


 使いやすさはスライム素材が上な気がするけど、耐久性はドラゴンが一等賞だね。


 同じ素材で、ケーブルも作る。ケーブルカーだからさ、引っ張り上げたり下ろしたりするのに必要なのだ。


 作ったケーブルを、線路の中央に仕込んでいく。滑車も一緒にね。上に浮かないようにして終わり。


 後は上と下に駅を作ってこっちは終了かな? 駅もドラゴンコンクリートで作って、屋根とか駅舎は船に使ったバビソンの木を使おうかな。


 あれは水に強いから、防水加工がいらなくて便利。


 素材が決まったら、後は検索先生にお任せ。私は魔力を渡すだけで、あっという間に駅舎が完成した。


「もう、何を言う気にもなりませんね……」

「そうだな……」


 なら黙ってればいいと思いますよ、剣持ちさん。銀髪さんも。まあ、聞かなかった事にしておくけどねー。


 亜空間収納で作った車体を、下の駅に置く。ケーブルカーだから、ホームが階段状になっているのだ。


 いきなり空中に現れた車体に、二人がびっくりしてる。今更今更。そっと線路に置いて、ケーブルを繋いで出来上がり。


 このケーブルカー、実は引っ張り上げられたり下ろされたりするんじゃなく、自力でケーブルを巻き取って上っていくのだ。


 直線で単線、一台で往復する車体だから、大がかりな巻き上げ室とかは作らなかった。


 車体もこぢんまりしていて可愛い。木製でちょっとレトロな感じの車体には、座席が六つしかない。本当に小さいや。


『定員は十二名です』


 座席の倍、運べるって事か。身近な人だけしか使わないから、十二名でも十分だよね。


 銀髪さん達は、しげしげとケーブルカーを見て回っている。


「それで、これはどういうものなんだ?」

「試乗してみますか?」

「は?」


 百聞は一見にしかず。乗ってみればその便利さがわかるでしょう。




「おお!」


 三人でケーブルカーに乗ってみる。しまったー、景色が見られるよう、もうちょっと配慮すれば良かった。


 右向いても左向いても岩肌だよ……


 まあ、銀髪さん達は楽しんでるみたいだから、いっか。そのうち別の山で登山列車でも作ろうかな。景観を楽しむ為だけに作ったら、凄い贅沢だよな。


 あっという間に崖の上の駅に到着。駅から出て、崖の上を少し歩く。


「いい眺めだな」

「本当に」

「ですよねー」


 ああ、やっぱり別荘作るならここだよ。温泉は……引いてくればいいか。


「それにしても、先程のけーぶるかー……だったか? 上と下の行き来だけなら、お前の絨毯でいいと思うんだが」


 情緒のない人は嫌いですよ! いや、乗車中に景色が見られないあれでは、情緒も何もないか……


 いいんだよ、あれば便利なんだから。

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