第448話 先生の意地悪ー!!

 その後も、キルテモイアにはしばらく滞在する事が決定。いや、ジテガンから、教会関連でユゼおばあちゃんが頼られたんだよね。


「こういう案件なら大歓迎よ」


 珍しくやる気なおばあちゃんだ。元教皇聖下ですから、伝手なら山のように持ってるもんなあ。


 実際に動くのは、スーラさんで連絡を受けたジデジルな訳ですが。


「生きてろよー」

「何じゃ? 急に」

「うん、ダガードの空の下にいるジデジルにエールを送ってみた」


 届くかどうかは、わからないけどね。


 そうそう、ジテガンの問題が解決したから、あっちの国にあるいくつかの山をもらったんだ。タダで。


 その辺りの交渉は、領主様がやってくれたから助かるー。


「いや、君が欲しがった山は、魔獣ばかりいて使い物にならない場所ばかりらしいから、女王陛下も快く譲ってくれたよ」


 ほほう、そういう太っ腹な人、好きですよ。あ、そうだ。


「じゃあ、その代わりに山を簡単に越せる道、作りますよ」

「……いいのかい?」

「大丈夫です! だって、地図見たらこの辺りとか、かなり遠回りになりますから」


 もらった山は全部でなんと十三。そのうち三つは結構な幅と長さで、山のこちら側と向こう側が断絶状態になってる。


 これ、道があれば行き来が楽になるよね。


「ふうむ。旧ジテガンは一応自治権は認められているが、実質キルテモイアの属国になるそうだから、話はそのまま女王陛下に持っていこう」


 いやあ、何度も交渉に行かせて、すんません。




 で、領主様が難しくて面倒な交渉事をしている間に、私はおいしいものを作るのだ。


 やっと、やっと! バニラが完成したのだよ!!


「あー、これだよこれ。この頭にガツンと来る甘い香りだよ」


 しかも贅沢にも、バニラビーンズを使えるんだよ。日本にいた頃は、簡単に手に入らなかったからいつもエッセンスかオイルを使ってたっけ。


 バニラが手に入って、しかも暑い国にいるという事は? 作るものは決まってるよね。


「バニラアイスだー!」


 ミルクに卵黄、砂糖、生クリーム。そして香り付けのバニラビーンズ。


 バニラビーンズは鞘を切り開いて中身をしごく。このつぶつぶが香りの元って聞いたなあ。そして、鞘も一緒にミルクにドボン。


 鍋の周りがふつふつとするまで温める。その後蓋をしてちょっと放置。


 その間に黄身を混ぜて、砂糖を入れてさらに混ぜる。そこに温めたミルクを少しずつ入れていく。一気に入れると黄身が固まるからアウト。


 全体が混ぜ合わさったら、こしながら鍋に戻す。ここで鞘とはお別れだ。


 こっから全体が八十三度になるまで温める。温度計はないけど、検索先生がしっかり測ってくれるので問題なし。


 八十三度になったら火から下ろし、熱伝導のいいボウルに移して氷水を当てて温度を下げる。でも、面倒だから魔法でちょちょいと、ね。


 温度が下がったら、生クリームをしっかり泡立てて、そこに卵液を少し入れてしっかり混ぜる。


 それを卵液の方へ入れて、これもしっかり混ぜる。後は冷やしながら、しっかり攪拌すれば出来上がり。


 ここまで作れば、後は亜空間収納内で魔法を使うだけ。検索先生、よろしくお願いします。


『承りました』


 はー、これでバニラアイスが食べられるー。あ、チョコソースも作っておこうっと。


 これは作り方が簡単だからいいよね。チョコとミルクを温めて混ぜるだけ。おしまい。


 これ、後で出来上がったバニラアイスにかけて食べようっと。今回のソースはビターチョコを使ったから、甘いアイスとの相性は抜群だ。


 明日はカスタードプリンを作ろうかなー。あれもミルクと卵と砂糖で簡単に作れるんだよね。




 マノンダ卿のお屋敷に厄介になっているので、出来上がったバニラアイスはマノンダ卿の奥方、ジミネ夫人にもお裾分け。


「まあ、こんなにおいしいもの、初めて食べるわ」


 ジミネ夫人、顔がとろけそう。そんな夫人を見て、マノンダ卿も嬉しそうだ。仲のいいご夫婦なんだね。


 もちろん、ジジ様や領主夫人、侍女様方にユゼおばあちゃんにも振る舞う。プレーンのバニラと、チョコソースがけの二種類。


「あら、このソースがかかっている方は、また少し違う味になるのね」

「これなら殿方にも喜ばれそうですわ」

「ああ、おいしい」


 バニラアイスは好評のよう。男性陣も、黙々と食べてるから不味くはないんでしょう。ただ、酒飲みは甘い物、あまり好きじゃないって言うよね。


 後、キルテモイアくらい暑いと、アイスクリームよりかき氷かなあと思う。


 で、キルテモイアにはかき氷っぽいものがあったよ。氷を砕いてフルーツで作ったソースをかけて食べるんだって。


 ただ、氷は高いので、貴族専用のお菓子みたい。魔法士がいれば、割と簡単に作れるのになあ、氷。


 脳裏にちらっとほっとくんがよぎったけど、ダメダメ。メンテナンス出来るのが私だけだし、魔力の充填が出来るのも私だけ。


 第一、亜空間収納と繋がってるんだから、簡単に余所の国に渡す訳にはいかないよね。


『仕様変更したほっとくんを、キルテモイア王宮に送るのは有りです』


 え? そうなの? てっきり、検索先生には一番に反対されるものだと……


『この国は、こちらの大陸での足場になるでしょう。その国の上層部には、少し蜜を与えておいた方がいいかと』


 うーむ、キルテモイアって、こっちの大陸全体から言うと、南西にある国なんだよね。こっからさらに東に大陸は続いているんだ。


 で、北にも続いている。メープルがあるのは北だっていうしなあ。


『ウィカラビアより、キルテモイアの方が話のわかる人間が多いですし、何より旧ジテガンは強制改心済みの国ですから、神子にとって危険が少ないのです』


 そ、そっすね……ジテガンのあの様子、違う意味で怖いんだよなあ。何故か私が神子だってわかっているらしく、口にはしないけどもの凄くきらきらした目でこっちを見てくるし。


 検索先生、強制改心のついでに、変なもの注入してませんか?


『その辺りは神のみが知る事です』


 うーむ、神様、いらない事はしなくていいんですよ、本当。




 領主様のおかげで、三つの山に向こう側へと通じる道を作ってもいい事になった。


 道というか、トンネルなんだけどね。女王様には、ちょっと渋られたらしい。別の意味で。


「作ってくれるというのはありがたいのだが、道を作るとなると大工事になるぞ? 金もかかる。そこまでして、貴公らに負担をかけさせるわけにはいかん。あの山々はもう譲渡したから、彼女の許可さえもらえれば、我が国が作るぞ」

「いえいえ、彼女ならきっと簡単に作るでしょう。それよりは、他者に山に入られる事を嫌うと思います」

「そうなのか? いや、しかし――」

「ご心配なさらず。彼女は大変優秀な魔法士です」

「ま、魔法士だと!? ああ、そういえば、貴公らはラウェニア大陸から来ているのだったな……」

「左様にございます」

「……わかった。費用は我が国が負担する。道を作ってほしい」

「お許し頂き、ありがたき幸せ」


 なんてやり取りをしたらしいよ。費用は持つって言われても、お金はかからないからなー。温泉の出る山以外に、今のところ欲しいものは……


『神子、ジテガン地方のフルーツ』


 それだああああ!




 結局、トンネル掘る手間賃? 代わりに、旧ジテガンにある果樹園をいくつか譲り受けた。


 ここで収穫されるフルーツは、全て特別便としてダガードに送ってくれるそうな。維持管理費は、女王様が出してくれるって。


「夫の命を救ってくれたのに、こちらにとっては邪魔な山を押しつけただけとあっては、我が名に傷がつきかねん」


 って事らしい。ありがたいので、お願いしておく。よーし、これでフルーツ食べ放題が出来るぞー!


『フルーツは食べ過ぎると太ります』


 検索先生の意地悪ー!!

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