第447話 ジテガンの最後
ベーゴ卿達が捕まってから、きっちり五日後。国境線にジテガンの軍が攻め入ってきた。
それを、空から見ている私とじいちゃん。領主様と銀髪さんも一緒に行きたがったけど、ジジ様に頼んで説教してもらってる。
べったり貼り付かれたら、使える手が減るから嫌なんだ。じいちゃんは、私の手の内を殆ど知っているので、問題なし。
「それにしても、攻め入る前に手を打てたんじゃないかのう?」
「うーん、検索先生から、待ったがかかったんだよねえ」
そう、向こうが動く前に、ジテガンの上層部に超強力浄化をかけてはどうかと思ったんだけど……
『浄化は今回使わないように。相手に攻め込ませて、言い逃れ出来ない状況を作ります』
検索先生がそう言うんだよねえ。それに逆らう程の思いはないから、まーいっかーで従っている。
今まで、検索先生の言う通りにして良くなかった事なんて、一度もないから。信頼と実績の先生です。
さて、上から見ているジテガンの軍は、すでに 国境を越えている。これで武力を持って他国に攻め入ったという証拠が手に入った。
ちなみに、この映像は護くんを使って多角的に録画中。後で証拠動画として提出するんだー。
国境沿いにある村や街は、住民の避難が完了している。ついでに、村や街ごと亜空間収納に入れて、ジテガン軍に荒らされないようにしておいた。
この辺りは依頼されてないけど、こっちの都合で負担をかけさせるから、サービスでやっておいたんだー。
女王様達の為というよりは、国の上に振り回される一般の人達の為だね。後で補償されるんだろうけど、住み慣れた場所が踏み荒らされるのは辛いから。
さて、国境線を越えて結構な場所まで進軍していたジテガン軍ですが、開けた場所まで来たところで足が止まった。
どうやら、ここで野営するらしい。まだ日は高いのにね。
「キルテモイアの軍が来るのを、待っているんじゃろ」
「絶対に勝てるって自信があるのかな?」
「そこはほれ、ベーゴがうまく動いていると信じておるのよ」
実は、ベーゴやら裏切り者を使って、ジテガンには偽の情報が流されている。
王配殿下が病で亡くなり、女王様が気落ちして王宮の奥に閉じこもってしまったというものだ。
しかもマノンダ卿も王都の屋敷が襲われて重体、カムゼス卿は自分の領地に戻って自衛に勤しんでいる、というのも付け加えている。
ヤルなら今だ! とジテガン軍が攻め入ってきたのには、こういう裏がある訳ですよ。
で、この開けた場所で寄せ集めのキルテモイア軍を下せば、王都まで一気に攻め上れる、と思っているらしい。
ふっふっふ。そうは問屋が卸さないのだよ。
「じゃあそろそろかな。食らえ! 神の鉄槌!」
いや、そんな術式はないけどね。今回使うのは、浄化の別バージョン。対象者に悪夢を見させて、精神的衰弱を招くというもの。
これのどこが浄化か、と言われそうだけど、罪を犯した者に己の罪を自覚させる為に使うんだってさ。
ちなみに、この辺りの術を開発したのは聖地です。神様由来じゃないんだよ。さすが聖地、やり口が汚い。
いや、今の聖地は大分綺麗になってるけど。今回の別バージョンは、ちょど良かったから使わせてもらったってだけ。
まだ昼過ぎくらいの時間帯なのに、野営地のあちらこちらから悲鳴が上がっている。
これ、対象者が寝ていなくても悪夢を見せられるからね。便利便利。
「相変わらずえげつないのう」
「ねー。これを聖地が開発したってんだから、どうしようもない」
「まったくじゃ」
聖地がこの術式を何に使っていたかは知らないけど、多分ろくな事じゃなかったと思うよ、本当。
『神子、そろそろ次の行動を起こします』
はーい。次は何をすればいいんですか?
『神罰申請を行ってください』
あれ? 神罰申請? もしかして、ジテガンを、ですか? でも、神罰受けるような事、したっけ?
『神子が滞在している国に侵攻した事は、十分神罰対象です』
マジでー? でも、ジテガンは私が神子だとは知らないし、この国に神子がいるって事も知らないんじゃ? それでも、神罰対象なの?
『今回は特別措置になります。この地域は土地神を信仰する神殿が強く、神への信仰心が足りません。これを機に、教会の設立と神への信仰を広めます』
……えーと、それって、やっていい事なの? ちょっと、神様を疑いたい気分なんですが。
『この地方の為でもあります。土地神は年々力をなくし、もうじき消え去る存在です。その土地神からの申請もあり、今回神が全てを引き受け、この地への長い繁栄をもたらす為の神罰になります。神子の存在と申請は、あくまで体裁を整える為のものです』
神子の存在軽。いや、いいんだけど。検索先生の話を聞いていると、土地神様より神様の方が上の立場なのかな?
『そうですね。人間の世界で言うなら、土地神は地方領主、神は国王のような存在です。地方領主が己の領地を治めきれなくなったので、国王に返上する、と思って間違いありません』
神様の世界も、結構大変なんだね。
『土地神の力が残っていれば、ジテガンの横暴は起こらなかったでしょう。その件からも、土地神の力の喪失は明らかです』
そうなんだ……そういえば、神様も力がなくなると、争いだったりなんだったりが起こりやすくなるんだっけ。
その辺りは、神様による瘴気の浄化がうまく行えないからだって、以前聞いたなあ。教会の浄化も、効果が薄かったんだって。
何にしても、土地神様がそれを望んで、神様が了承したのなら、私があれこれ言う事でもないか。
よし、神罰申請、お願いします!
『神子からの神罰申請を行いました……申請が受理されました。ジテガンに対する神罰が執行されます』
国丸ごととなると、今下で大騒ぎしている軍にも、神罰が下るんだよね……
今回の神罰は、何になるんだろう?
ジテガンへの神罰は、強制的信仰心の植え付け……ではあったんだけど、これまでとはまた少し違うらしい。
「さあ! 我等が神の為、教会を建てよう!!」
「これまでの神殿も、残していいそうだ!」
「土地神様と共に、我等が神を崇めよう!!」
「「「神は偉大なり!!」」」
今まで軍事にかけていた予算を、一気に教会へと振ったみたい。国中がこんな感じで、教会建設に浮かれてる。
ある意味、大変怖い神罰です……
『神の恩恵がこの土地にも現れますから、ジテガンも余所の領地を狙う必要はなくなるでしょう』
あー、それならまあ、平和的解決、になるのかな? 旧上層部の中身だけ総取り替えって感じか。
ジテガンという国名も変更する動きがあるらしい。何でも、国名には「一帯を統べるもの」という意味があるらしく、神の前でその名はおこがましい、となったそうな。
これら全部、護くんに録画させた映像からの情報でした。
「なんとまあ……」
呆れる領主様の隣で、銀髪さんがジト目でこちらを見てくる。いや、今回は私がやらかした訳じゃないから。神様だから。
しかも大本は、土地神様からの申請だし。神様同士のあれこれなんて、いくら神子でも関知しないって。
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