第443話 いつからそんな関係に?

 王宮へは、先にマノンダ卿一人で向かう事になった。なんかね、女王様と色々打ち合わせしないといけないんだってさ。


 その代わりのように、何とキーバンからマノンダ卿の奥方が来た。


「はあ、やれやれ。空を行くのは楽だけど、やはり王都は遠いわねえ」


 長耳象から下りてきたのは、ぽっちゃりとした人の好さそうなおばちゃん。


 この人が、マノンダ卿の奥方らしい。


「詳しい事は、迎えの者から聞いてますよ。では、早速ズイニール様に会いましょうか。今どちらに?」


 奥方の問いに、使用人が「こちらです」と先導に立つ。


「ここから先、あちらの家族の事は彼女に任せておこう」

「そうですね。まだ目を覚ましていないだろうし、気がついたら知らない家でしたっていうのは怖いだろうし」


 どういう状況で夫人達が攫われたのか、わからないからねー。


『王都の屋敷で当主不在の隙を突き、盗賊達に攫われました。家人の一人が手引きしています』


 おおっと、新情報が来ました。


「領主様、ちょっと……」

「ん?」

「カムゼス卿の屋敷にいる人が、裏切ってます」

「そうか……」


 この様子だと、領主様は最初からその辺りを疑っていたっぽいね。さすが領主様。腹黒でも有能だわあ。


 あ、腹黒だから有能、なのかな?


「サーリ、何やらよくない事を考えてはいないかね?」

「何でもないですううう」


 本当、読心術を使ってたり、しないですよね? 領主様。




 王宮に行っていたマノンダ卿が帰ってきたり、領主様達と打ち合わせしたり、カムゼス卿の家族が少し落ち着いたり。


 そんなこんなで今日はもう日が暮れた。皆で王宮へ行くのは、明日だってさ。


「サーリも行くんだよ?」

「へ? 何でですか?」


 夕飯食べてまったりタイムに、領主様から爆弾落とされた。何でー? どーしてー? 面倒だからやだー。


「どうしてって、カムゼス卿の家族を救い出したのは、君じゃないか」

「ある意味、救世主だな。ああ、神子だから救世主なのは間違いないか」


 ちょっと銀髪さん! 嫌な言い方すんな! 神子だって、なりたくてなったんじゃないやい。


 まあ、確かに今回あの家族を助けたのは私だけど。でも、王宮って面倒だから行きたくないー。


 ぐずぐず言っていたら、銀髪さんがジト目で見てきた。


「お前、少し前までローデンの王宮にいたんだろう? なのに、面倒なのか?」

「いたから面倒なんですよ。ローデンの王宮も、ダガードに負けず劣らずドロドロしてますからねー」


 思い出したくもないくらいだよ。王宮なんて、どこもドロッドロだもんねえ。ウィカラビアも陰謀渦巻いていたし。


「キルテモイアだって、貴族が派閥作って競い合ってるんでしょ? ドロッドロですよ」

「別に、その中に入れと言ってる訳じゃないだろうが」

「行くだけで嫌なんですうー。ドロドロが移りそうなんだから」

「確かにな。行かずに済むなら俺でも遠慮する」


 おりょ? こんな言い方、銀髪さんにしちゃ珍しい。隣の領主様が、心配そうに見ている。


「カイド様、それ以上は……」

「他国にいる間くらい、目こぼししろ」

「そうも行きません。ナバル陛下からも、くれぐれも頼むと言われているんですから」

「叔父上……」


 げんなりしてそうに見せかけて、案外嬉しそうにしてる銀髪さん。叔父さん大公……じゃなかった、陛下に心配されて、まんざらでもない様子。


 グフグフ笑っていたら、銀髪さんと一緒に領主様にまで引かれた。酷くない?




 翌朝は、ちょっと早めに王宮へ。本当は、貴族が王宮に行ける時間って決まってるそうだけど、今回は女王様の許可があるので特別に早いんだって。


 馬車ならぬ象車に乗っていく。こっちの象は耳が小さい小耳象って言うんだって。体型も小柄で、主に車を引くのに使われてるそうな。


 大きさはポニーくらいなのに、大人が二十人も乗れる大きな車を平気で引っ張れるくらい力持ちなんだって。


 王宮に行くのは、マノンダ卿夫妻とカムゼス卿の家族全員、領主様と銀髪さんと剣持ちさんとじいちゃんと私。


 残りのジジ様達は、マノンダ卿のお屋敷に留守番。そのお屋敷は、領主様に頼まれて護くんととーるくんが警備する事になった。


 私達がこの国にいる間の臨時措置。何せカムゼス卿の家族は屋敷で攫われているからね。同じ事が、マノンダ卿のお屋敷で起こらないとも限らない。


 象車は人が歩くより少し早い速度で大通りを進み、王宮に到着した。根回しは済んでいるようで、人目に付かない配慮がなされている。


 王宮にはいくつもの出入り口があって、今回一番使用頻度が低い出入り口から入ってる。おかげで周囲に誰もいないよ。


 見張りの兵士もいないのは、根回しの一環かな?


 王宮の中も、人が少ない。まだ貴族達が来る時間帯じゃないからかも。


 やがて、見覚えのある部屋に到着した。女王様に会った、謁見の間だ。さすがにここには兵士がいるけど、こちらを見ても何の反応もしない。


 ただ無言で、部屋の扉を開けてくれた。あ、女王様がもういる。隣にいるのは、誰だろう?


「ニヴェミナ様! ジェザバル様も!」


 あの男性は、ジェザバル様っていうのか。ん? どっかで聞いた名前じゃね?


「マノンダ卿、色々と心配をかけた」

「いいえ、いいえ! お元気な姿を再び見ることが叶い、このマノンダ、歓喜に堪えません」


 あ! 思い出した! 確か、女王様が想いを寄せる相手だっったっけ。


 そういえば、検索先生が「マノンダ卿は『彼』を救いたい」って言っていたけど……もしかして、その「彼」がジェザバル様?


 んで、あの位置って事は、彼は王配殿下かな?


 なおも喜びを言い表そうとするマノンダ卿を止めたのは、女王様だ。


「マノンダ。ジェザバル生還を喜ぶのは後にしろ。何やら。カムゼス卿の件で面白い事があったと聞いているぞ?」

「ニヴェミナ様、そのような」

「わかっている。ズイニール、そなたの夫であるカムゼスが妾とは度々対立している事は、知っていよう?」

「は、はい、陛下」


 いきなり名を呼ばれた夫人は、ちょっとおどおどしている。こっちって、女性はあまり公的な場には出ないらしい。女王様の国なのにね。


 その代わり、男達が表の宴会で楽しんでいる間、女性は女性で裏の宴会を楽しむって聞いたよ。それが女性の社交の場なんだって。


「そなたを窮地に追い込んだのは、その夫の仲間だそうだ。そして、そなたを救ったのは妾が懇意にしている者。この意味は、わかるな?」

「存じております」

「では、そなたが為すべき事は、わかっていよう。これより、カムゼス卿がここに来る。見苦しい真似はするなよ?」


 最後に脅しを一つ。女王様も十分お腹真っ黒ですね。それよりも、私ってばいつ女王様と懇意になったんだろうね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る