第442話 黒い人達

 マノンダ卿により、盗賊に囚われていた人達がカムゼス卿の家族だと証明された。


「それにしても、カムゼス卿はそんな様子を少しも見せていなかったが……」

「それはそうだろう。話を聞いた限り、カムゼス卿はこの国の貴族の中でも重鎮なんだろう? そんな人物が、家族を攫われたなどと公に出来るものか。しかも、攫った盗賊達から口止めをされていたら?」

「……家族が人質に取られていては、カムゼス卿でも従わざるを得ないでしょうね。あの方は、傍目からはわかりにくいですが、家族をとても大事にされていますから」


 マノンダ卿、いつの間にか領主様と仲良くなっていないかね? てか、マノンダ卿の方が下手に出てる気が……


 まあ、国の規模は置いておいても、身分的に領主様の方が上っぽいし、いいのか。




 カムゼス卿の家族は、一旦マノンダ卿が預かるそうで、屋敷に丁重に運ばれていった。一緒に、私達も中へ入る。


 盗賊? こいつらはこのままですよ。すぐに兵士が引き取りに来るんじゃないかなー?


 とーるくんと一緒に置いておくので、逃げられはしないのさ。


「さて、ではもう一度説明してもらえるかな?」


 部屋に入ったら、当たり前のように領主様が仕切り始める。いいのかな。ここ、マノンダ卿の屋敷なのに。


 持ち主が何も言わないから、いっかー。


「えーと、スーラさんでも伝えましたが、カムゼス卿のご家族を盗賊に攫わせたのは、ベーゴ卿という人物です」


 人物名に心当たりがあるマノンダ卿が、驚いてる。


「何と! 彼はカムゼス卿と同じ派閥で、家族ぐるみの付き合いがあるのですぞ!?」

「だからこそ、カムゼス卿の家族思いにつけ込む作戦を、思いついたのではないかな?」

「な、なるほど……」


 マノンダ卿、本当に領主様に丸め込まれてないですかね? 大丈夫?


「サーリ、そのベーゴ卿という人物、自分一人の考えでこの計画を立てたと思うかい?」


 う……スーラさんでは隣国の件まで伝えなかったのに、本当領主様って鋭いよなあ。


「えーとですね、どうやら隣の国が関わっているそうで――」

「ジテガンか! おのれ、クオソーンめ!!」


 おおう、穏やかなマノンダ卿が、激怒しちゃったよ。てか、隣の国って言っただけで、そこまでわかるんだね。


「マノンダ卿、そのジテガンというのは?」

「我が国の西に位置する国で、領土問題で何代にもわたって因縁のある国です。クオソーンは現在の国王で、彼は過去にニヴェミナ様に求婚した事もございます」

「ほう」

「ですが! ニヴェミナ様には幼い頃より言い交わしたジェザバル殿下がいらっしゃいました。ですから早々に断りを入れたのですが、あの男、いつまでもネチネチとその事を持ち出しては嫌味を言ってくるのですよ」

「そ、そうか」


 領主様はもちろん、銀髪さんや剣持ちさんまでうんざりした顔をしている。男性陣ですらこうなる粘着質とは。


「……マノンダ卿、言いづらい事ではあるでしょうが、ここまで関わってしまった以上、確かめたい事があるのだが」

「何でしょう?」

「キルテモイアの王宮でも、派閥による闘争が激化しているのではないかな?」

「な、何故それを……」


 マノンダ卿、多分いい人。隠し事とか、出来ない性格だよね。それでよく港湾都市をまとめられるもんだと思わないでもないけど、人柄がいいから周囲が助けてくれるんじゃないかなー。


 腹黒ばっかりじゃ、誰でも疲れちゃうもんね。


「サーリ、今何か言ったかね?」

「え!? な、何も!?」


 領主様、ミシアみたいに心が読めるとか、ないですよね?




 マノンダ卿によれば、確かにキルテモイア王宮は大きく分けて三つに分かれて争っているらしい。


 一つは女王派。今の政権を維持していこうという人達。一つは大臣派。この大臣って人は女王のお父さんの従兄弟に当たる人なんだそうだ。


 キルテモイアでは女性でも王位を継げるけど、出来るなら男性の方がいいって国。


「ニヴェミナ様が即位なさる時も、いくつかの有力貴族が大反対しましてなあ。その筆頭がカムゼス卿なのですよ」

「ほう。という事は、カムゼス卿は女王陛下とは対立しているという事かな?」

「あからさまではありませんが、大きな政策を決める際には、その……」


 喧嘩状態になる訳だ。大人げないなあ。


 で、最後の一つが貴族派。ここはまあ、その時々で女王派だったり大臣派だったりにすり寄る人達の集まりなんだって。


 節操なしと言うなかれ。これも貴族の処世術なのだ。いや、私は貴族じゃないけど。そう聞いたからさ。


「……カムゼス卿は、国内でも大きな武力を持っているかね?」

「ええ、私兵の数は多いでしょう。彼の領地は広大ですし」

「内乱狙いか」


 領主様、凄え。これだけの情報だけで、お隣の陰謀を暴くとは。マノンダ卿が目を丸くしていますよ。


「ジンド、隣国がこの国に内乱を起こす利益は何だ?」


 お、銀髪さんからの質問だ。てか、これ質問? 雰囲気としては確認のように聞こえるけど。


「内乱で国が疲弊すれば、楽に落とす事が可能でしょう。長らく領土問題でもめているようですし、それなら弱体化させて丸ごと飲み込んでしまえ、と思ったのではないでしょうか」


 ええ、まさしくその通りです。検索先生が言うんだから、間違いはないし。


 可哀想に、いきなりこんな話を聞かされたマノンダ卿はオロオロしてるよ。


「さて。では敵の動きもある程度見えた事ですし、まずはカムゼス卿のご家族を連れて王宮へ参りましょうか」

「女王も巻き込むのか?」

「巻き込まれたのはこちらですよ。せいぜい、高くふっかけてやりましょう」


 だから、その黒い笑みは怖いですよ領主様。銀髪さんまで一緒に黒い笑いを浮かべてるし。


 もう、本当この人達やだわ。

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