第441話 黒幕は隣

 捕まっていた人達も、眠りの魔法で眠らせてから、とーるくんに運んでもらった。


 こっちは網で一絡げではなく、ちゃんと複数体のとーるくんで網を広げてハンモック状態にし、一人ずつ搬送です。


「ん? 何か、身なりが結構いいっぽい?」


 こっちの衣装って庶民も偉い人も等しく露出高めなんだけど、使ってる布地の色柄や刺繍、あと帯の装飾なんかで上下関係がわかるらしいよ。


 で、運ばれてきた女性一人に少女二人、少年二人が身につけている衣装は、どう見てもお高そうな品。少年の帯はまた、凝った柄が織り込まれてるよ。


「これ、どう見ても偉いさんの子女って感じだよね?」

『この国の重鎮であるカムゼス卿の奥方と子息、息女ですね』


 わーお、本当に偉いさんの家族だった。って事は、この人達は誘拐されていたって事かな?


『そのようです。裏で糸を引いていたのは、カムゼス卿の仲間であるベーゴ卿ですが、その裏にはさらに西の隣国ジテガンが関わっているようです』


 待って待って待って。情報多過ぎ。何でこう、いっぺんに出てくるかなあ。


 とりあえず、この人達は王宮に連れて行ってもいいかなあ? 領主様に確認しておこうっと。


「もしもーし、領主様ですかー?」

『サーリかい? 山の方はどうかな? 魔獣はたくさんいるかい?』

「魔獣もいますけど、盗賊もいました」

『またか……』


 いや、またかって。別に私が盗賊をこの山に放置した訳じゃないんだけど。そりゃ、ウィカラビアでもいましたよ? 山にも野にも盗賊が。


『それで? 盗賊の引き渡しの連絡かい?』

「違うんです。実は……」


 領主様に捕まっていた人達の素性とか、盗賊を使って彼女達を攫わせていた人物の事を話した。


『……盗賊ごと、攫われていた方々を連れてこられるかな? 場所はマノンダ卿と相談して決めるから。決まったらこちらから連絡するよ。それまで、何とか出来るかい?』

「大丈夫です。全員眠ってもらってるので。あ、盗賊は麻痺してます。復活したら、また麻痺させるのでご心配なく」

『わかった。では、こちらから連絡するまで待っていてくれ』


 うーん、捕まっていた人達は起こして水分だけでも取らせた方がいいかもしれないけど……


 あ、一応、怪我とか病気とか衰弱とかしていないか、調べておこう。うん、どこも異常はないね。強いて言うなら精神的ショックが残ってるくらいかな。


 精神治療を少しだけ施して、このまま眠ってもらおう。時間的に、今は昼時だけどお菓子食べたからなあ。


 でも、多分夕方近くになったらお腹空きそうだなあ……よし、今からナッツチョコを用意しておこう。


 作り方はとても簡単。溶かしたクーベルチュールチョコを、ナッツにかけるだけ。


 こっちにもアーモンドやクルミに似たナッツがあるから、好きでよく買ってたんだ。そろそろ在庫が怪しいから、またくびれの辺りで買ってこよう。


 今回はアーモンドを使う。オーブンでから焼きしておいたアーモンドに、溶かしたチョコをかける。おしまい。後は冷やして固めるだけ。簡単。


 これ、ちょっと小腹が空いたなあって時に、大変便利なんだよ。一粒食べておくだけで、結構お腹がもつから。


 コーヒーに少しの砂糖とミルクをたっぷり。ちょっと甘いカフェオレにして飲む。あー、山が綺麗だなあ。


 途中で盗賊達の麻痺が切れたから、追加で麻痺毒を入れておいた。騒がれても面倒だし。


 周囲に人がいないから、遮音結界を張った中に放り込んでおいてもいいんだけどね。とりあえず、麻痺や眠りは有効な手段だってわかったから、いいや。


 二杯目のコーヒーを飲み終わる頃、領主様から連絡が入った。


『決まったよ。王都のマノンダ卿の屋敷だ。場所は――』

「多分、わかると思いますから、大丈夫です」

『そうか? なら頼む』

「はーい」


 んじゃ、全員運びますか。あ、検索先生、王都のマノンダ卿の屋敷の位置情報、よろしくです。


『了解しました。マップに情報を転送、いつでも表示出来ます』


 相変わらず仕事が早くて助かるう。優秀なんだけど、温泉への深すぎる愛はどうかと思う今日この頃ですよ。


『温泉は至高なので、致し方ないのです』


 微妙に反論しづらいんだよなあ。確かに温泉、気持ちいいからね。




 王都のマノンダ卿の屋敷は、王宮からちょっと離れたところにある。王宮の周辺って、大貴族の屋敷で固められてるから。


 とはいえ、そこから少し外れた場所に屋敷があるって事は、マノンダ卿も結構力のある貴族って事だよね。港湾都市を任されてるくらいだし。


『ちなみに、王宮の側にある屋敷の一つが、カムゼス卿の屋敷です。裏切り者のベーゴ卿の屋敷は、マノンダ卿のものよりさらに王宮から離れています』


 うーむ、カムゼス卿の仲間と言っても、家格とか王宮での地位とかには大分差があるんだね。


『その辺りのコンプレックスを、隣国ジテガンの王につけ込まれたのです』


 ……そういえば、裏切り者の裏には隣国がいるって話だったっけ。でも、なんで隣の国が、そんな面倒な事をするんだろう?


『ジテガンの最終目的は、キルテモイアの征服です。ベーゴ卿を操って内乱を起こさせ、疲弊したところに攻め入る計画でした』


 セコ! いや、正々堂々と戦えとは言えないけど、それにしてもセコい。そんなに領土を増やしたいのかね?


『ジテガンのクオソーン王は、ニヴェミナ女王に求婚した過去があります。フラれてますが。政略での求婚とはいえ、フラれた事を今の今まで恨み、その腹いせに征服をもくろんだようです』


 何と言う、器のちいちぇえ男だ。そりゃフラれもするだろ。ニヴェミナ女王、美人だったもんね。


 盗賊は網ごと、攫われていたカムゼス卿の家族はハンモック状態で空を移動してきた。全体にステルスの術式を使っているので、下からは見えないよ。


 で、目的の屋敷が見えてきた。お、領主様もいるし、じいちゃん達もいるね。


 屋敷の上でホバリング。屋敷のどこに下りればいいか、聞くの忘れてたわ。


「もしもし領主様?」

『サーリ、到着したのかね?』

「はい。どこに下りればいいですか?」

『ちょっと待ちたまえ……屋敷の脇に木が一本あるのが見えるかな?』

「脇……あー、ありますね」

『そこの下に頼むよ。我々も、そちらに移動する』

「了解でーす」


 なるほど、結構な大きさの木だね。そこの下……っと。あ、領主様達が来た。おっと、ステルス解除っと。


 あ、マノンダ卿が凄く驚いてる。いや、いきなり現れた訳じゃありませんから、落ち着いて。

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