第440話 交換条件
「お待ちください! 陛下!」
「何だ、マノンダ。邪魔をするでない」
「いえ、その『清流の滴』は、まだこちらの少女の物なのです」
「何?」
そーですよー。誰にも売ったり譲ったりしてませんからねー。だから、勝手に持って行かれちゃ困りますー。
「こちらの娘が『清流の滴』を所持していると聞き、急ぎ陛下の元まで連れて参った次第です」
「そうか……よし、言い値で買い取ろう。それなら問題あるまい?」
「お待ちください、女王陛下。この者は私の国の者。事と次第によっては、そのまま陛下にお譲りする事もやぶさかではありません」
おっと、ここで領主様が口を挟んだ。そうだよねー。こんなおいしい交渉の場で、黙ってるはずないよねー。
うまくすれば、ダガードに有利な交易の条約を結べるもん。
『ついでに、国の東にある山をもらいましょう』
山? ……もしや。
『いい温泉が湧きます』
やっぱりー。検索先生、一番の目的はそれですね?
『当然です。ですが、そのおかげで女王は救いたい相手を救う事が出来、コーキアン辺境伯はいい条件の条約を結ぶ事が出来ます。八方丸く収まるとはこの事かと』
うーん、確かに誰もが得をするような……あれ? 私、検索先生に欺されてる?
『失礼な。私が神子を欺した事など、ありませんよ』
そうだっけ? ……黙秘される事は、あるよね?
『黙秘する事と欺す事は全く違います』
そーですね。おっと、検索先生と脳内会話をしている間にも、女王様と領主様の交渉バトルが進んでおりました。
「ほう、その程度の事で、この貴重な素材を妾に譲る……と?」
「我々にとっては、大変価値のある事なのですよ」
なんかね、キルテモイアの特産品である香辛料と砂糖を中心に交易したいと伝えたらしいよ。他にも、この国では宝石もよく取れるらしい。だから、女王様も、てっきりそっちの交易だと思ってたみたい。
でも、宝石はダガードでも結構取れるんだよね。旧ウーズベル領には、ダイヤモンドの鉱山も見つかったし。
だから、石よりは北の雪国であるダガードでは絶対栽培出来ない砂糖と香辛料の方が魅力的な品なんだ。
女王様、考えてる考えてる。多分、領主様の言葉の裏の意味を読み取ろうとしてるんだと思う。
でも、一応今の言葉に裏はないんだよね。今回の航海も、交易の相手を多く見つけるってのが主目的だし。交易商品も、無理のない範囲で探そうって事になってる。
『女王が焦っています。早めに交渉を切り上げ、山を譲ってもらいましょう』
それは確定なんですね。まあいいや。
「領主様」
小声で領主様に話しかける。
「女王様が、大分焦っているようです。早めに交渉を切り上げるか、先延ばしにした方がいいですよ。ここでしくじれば、女王様の怒りと恨みを買います。それと、王都から東にいった所にある山が欲しいです」
「山? ……よもや、また温泉かい?」
「正解です」
さすが領主様、いい読みですね。
「女王陛下、交渉については後日また改めて、という事でどうでしょう?」
「何?」
「清流の滴はお譲りするそうです。その代わり、代金としてここから東にいったところにある山をお譲り願えませんか?」
「東の山? あそこは魔獣だらけで何もないところだぞ?」
「魔獣ならば問題ありませんよ」
領主様が、こっちを見てにやりと笑う。そーですね。たかが魔獣ごとき、護くんととーるくんのタッグの前には、赤子同然ですとも。
「……本当に、山と引き換えに清流の滴を譲るのだな?」
「二言はございません。こちらの交渉は、薬を作り終えた後という事で」
「いいだろう。あの山は王領、誰にも文句は言わせん。ロコガン!」
「は、はい。おお、足が動く。では、御前失礼いたします」
白髭のおじいちゃんが、足早にこの部屋を去って行った。ふー、これでミッションコンプリートかな。
『まだです。早速山へ行って、誰も入れないように仕掛けを施さなくては!』
いや、さっきも女王様が魔獣だらけで何もないところだって言っていたでしょ? 誰も好き好んで魔獣だらけの山になんて入りませんよ。
『盗賊のアジトがあります』
何だってー!?
女王様と領主様の許可を得て、やってきました東の山。山ってか、連山? 一つ大きな山がある訳ではなく、大小十いくつの山が連なってるね。
そういや、ウィカラビアで手に入れた山脈も、こんな感じだね。規模は向こうの方が大きいけど。
『ここには温泉が湧くポイントが二つあります。鬱陶しい盗賊をとっとと片付けて、温泉を開発しましょう』
検索先生、片付けるって……まあ、そうなんだけど。温泉を前にして、先生が本音で言ってきてる。
まずは護くんととーるくんを亜空間収納から取り出す。あとは連山に放つだけ。簡単なお仕事ですね。
とーるくんが盗賊を捕まえてくる間、テントを出してお茶でも飲んでよう。そうだ、ウィカラビアで大量に仕入れたフルーツを使ったケーキ、何か作ろう。
やっぱりフルーツパフェかフルーツタルトかな。いっぺんに食べなければいいんだから、両方作っちゃえ。
パフェを作る前に、余ってるドラゴンの鱗で器作り。やっぱりあのガラスの器がないと、パフェって感じがしないよね。
あ、バニラアイス作ってないや。バニラの発酵は、まだ少しかかるかな?
そして、カカオは既にチョコレートになっているのだ。はっはっは。やったぜ!
クーベルチュールにしてあるので、いつでもお菓子に使えるぞ。でも、まだアイスにはしていなかった……チョコアイス、おいしいよね。
今回はフルーツパフェなので、アイスもフルーツで。ストロベリーアイスクリームと、桃のアイスクリームの二種類。どっちも単体でもおいしいよ。
南国らしく、甘酸っぱい味のフルーツが多いので、甘いアイスと生クリームとの相性は抜群。甘さもくどくなくてさっぱりしてるしね。
フルーツをカットして、器に生クリーム、アイス、フルーツ、生クリーム、アイス、最後に飾りとして綺麗にカットしたフルーツをこれでもかと盛り付ける。うん、綺麗綺麗。
タルトの方は、クレームダマンドを入れて焼いたタルト台に、バニラ抜きのカスタードクリーム。その上から、これまたフルーツをたくさん盛る。
フルーツの香りがいいから、バニラがなくてもなんとかなる。うん、おいしそう。
でも、やっぱり作ったら味見したいよね? タルト、小さめに切ればパフェと一緒に食べても、大丈夫だよね?
『十分カロリーオーバーです』
うるさいですよ! いーんだもん! 後で温泉掘るのに動くから!
『それなら、問題ありません』
まあ、検索先生だもんね。
パフェを食べてタルトを食べて、一服した頃にとーるくんが帰ってきた。護くんは、そのまま山の中のパトロール。
網に入っている盗賊達は、全員ぐったりしてる。多分、とーるくんに新しく搭載した弱めの麻痺毒のせいだな。
大丈夫、そのままなら三日ぐらいで麻痺は抜けるから。今回も盗賊のアジトにはお宝があったようで、それはとーるくん経由で亜空間収納へ。
ただ、ここには他にもあったようで。
「あちゃー」
女性と子供、複数人が捕らえられていたんだって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます