第427話 裏事情

 盗賊退治をすれば、温泉が湧く山脈をくれるんだって。しかもタダで! いやー、この国の人達ってば太っ腹ー。


『何やら、陰謀めいた話が聞こえてきますが』


 え? どういう事?


『ちょうど、現在ウィカラビア国王と側近達が、山脈と盗賊達の事に関して話しています。聞いてみましょう』


 聞いてみましょうって、それ盗聴じゃね? わたわたしていたら、じいちゃんに見られてた。


「何をしておるんじゃ?」

「いやあの、検索先生が、この国の王様達が山脈の事で話してるから聞いてみようって」

「ほう。それは、わしも聞けるんかのう?」


 え? どうなんだろう?


『護くんを一台出してください。それをスピーカーとして使用します』


 あ、なるほど。亜空間収納に入れてある予備の護くんを一台出すと、いきなり声が聞こえてきた。


『――すから、あの約束は行きすぎだと申しておるのです』

『さすがに他国の者に、あの山脈を明け渡すというのは、少し行きすぎだと私も思います』

『まあ待て。陛下とて、お考えなしにあのような申し出を受け入れた訳ではあるまい。そのお考えを、今ここで伺おうではないか』


 おお、ジャストタイミング。気づいたら、領主様と銀髪さん、ジジ様もこちらに来て護くんから聞こえてくる声を聞いている。


「これは何だ? 誰が話しているんだ?」

「この国の王様と、その側近達だそうです」

「何故、その声がこの丸い――」

「カイド様、お静かに。声が聞こえません」

「むう」


 銀髪さんが、領主様に怒られた。ジジ様も頷いてるって事は、静かにしろって言いたいんですね。


 結局、夫人までこちらに来て、護くんから聞こえる声に耳を傾けた。


『あの山脈は魔獣の巣窟で、我々にはどうしようもない山だというのは知っていよう? 裾野には盗賊共が隠れ住み、手を焼いている』

『確かにそうですが……』

『そなた達の意見ももっともだ。南と北を分断するような位置にある山脈に、他国の者達が棲み着いては、国を乱す元になりかねん。本当に、あの者達が棲み着くとしたら……な』

『それは、一体どういう……』

『山脈をやるとは言ったが、住む事まで許した覚えはない。何、あそこまで通じる街道も水路も全て、奴らだけは通れなくすればいいのだ』

『おお』

『なるほど』

『山脈に通じる全ての道という道を監視するのは骨が折れようが、連中は海からしか来ることは出来ない。ならば、各港に監視員を置いておけば、奴らが来た時点でそれぞれの道を通さないようにすればいいだけよ』


 えー? 何それー。太っ腹とか思ってたのにー。何だか一挙にセコく感じるー。


 山はやるけど、そこまでいく道は通さないぜーって事かよー。子供じゃないんだから、まったく。でもまあ、彼等の思惑通りにはいかないけどねー。


 一件落着とばかりに笑い合うのを最後に、盗聴を終えると銀髪さんが呟く。


「考えが浅いな」

「まあ、彼等はサーリを知りませんから」


 うん、そーだね。今回ばかりは頷くわ。


「陸も水上も封鎖されても、さすがに空までは封じられまいて」


 じいちゃんの一言に、全員が頷いた。そう、彼等は私が空を飛べる事を知らない。だから、山脈なんて重要で広大なものを簡単に「やる」って言ったんだ。


 別に地上の全ての道を封じられても問題ないもーん。空を行くし、何ならポイント間移動で瞬時に行き来するから。


「領主殿、盗賊退治に出る前に、山脈を譲渡する条件等をまとめた公文書を作成してもらいたいもんじゃのう」

「もちろんですな、賢者殿。言った言わないの口論になっては困りますからねえ」


 じいちゃんと領主様の背後に、黒いものが見える。折角前回、国の膿を出す手助けをしてあげたのにね。


 まあ、あの時は名乗ってなかったけど。いっそ名乗っておいた方が良かったのかなあ? 悩む。




 翌日には、捕縛するべき盗賊の手配書という名のリストが届けられた。


「これは我が国の各所に散らばっている全ての盗賊の手配書だ。せいぜい頑張るんだな」


 持ってきた兵士が、ニヤニヤ顔で言ってくる。一応、この国に来た船団の一員扱いなんだけどなあ、私。


 そんな顔していていいの? 君達。


「いつまで下卑た顔をぶら下げて突っ立っている。仕事が終わったのならとっとと失せろ」


 私の背後から銀髪さんに言われて、兵士達が不満そうな顔で小走りに立ち去った。


「兵士の躾がなってないな、この国は」

「でも、おいしい果物がたくさんありますよ?」


 ついでにバニラも自生してました。私にとってはお宝満載です。銀髪さんは、何だか疲れた顔で溜息を吐いた。


「お前は平和だな」


 何ですか、その言葉。馬鹿にしてると神罰申請しちゃうぞ。睨んでいたら、鼻先を指で弾かれた。痛い。


「ともかく、あまりやり過ぎるなよ。下手をすると、国に捕まって永久に外に出られなくなるぞ」

「そうなったら国そのものに神罰を下してもらうから大丈夫ですよー」


 何でそこでギョッとするのさ。私が神子だって、バレてるじゃん。王都にも、超強力な浄化をして改心者続出したでしょ?


 あ、ここで浄化を使えば、あの王様達も少しはまともになるかな?


『浄化がもったないので、やめておいた方がいいと思います』


 そうなんだ……検索先生にもったいないと言われる国って。

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