第426話 太っ腹
離宮に帰ってきても、ご機嫌が続いてる。ふっふっふ、まずは何を作ろうかな?
この国にいる間なら、バニラアイスだな。暑いし。あ、でも温泉上がりに食べるなら、アイスもいいんじゃない?
それに、アイスを使ったサンデーやパフェもいいなあ。いや、前にもどきは作った事があるけどさ。
ここのフルーツ山盛りにして、フルーツパフェなんかどうだろう? 生クリーム……在庫あったかな?
「先程から薄ら笑いを続けて……気持ち悪いぞ」
「失礼ですね!」
本当にもう、銀髪さんときたら。でも、そんなにしまりのない顔をしてたのかな……ちょっと気を付けよう。
その後、交易の話し合いは進んでいるのかどうなのか、しばらくは離宮に留まる事になったそうな。
「土地買う話は、どこの誰にすればいいんでしょうか?」
「買う場所は決まってるのかい?」
まだでしたー。検索先生! 温泉出そうな場所って、どこですか!?
『ここから北に行った山脈に三カ所あります。出来れば、山脈ごと買いたいところです』
山脈かあ……売ってくれるかな?
とりあえず、領主様に相談してみた。やっぱり、苦い顔。
「山脈ねえ……北ならまあ、余所との国境は接していないだろうが」
「そうなんですか?」
「隣国との境は、南と東だそうだよ。北は山脈を越えてさらに広がる平原の向こうに海があるそうだ」
なるほどー。私達が到着した港は西側だから、ウィカラビアは北と西に海がある国なんだね。大陸の北西に位置するのかな。
地球でいう緯度はダガードより大分南よりだから、国全体が暑いけど、北の海沿いはもうちょっと気温が低いかも。
『海流の関係で、通年気温が高いようです』
そうなんだ。まあ、山脈の中なら標高も高いだろうし、涼しいんじゃないかな。暑い場所での温泉はちょっと。
『気温にかかわらず、温泉は尊いものなのです!』
あ、はい。暑い場所なら、それこそ湯上がりに冷たいスイーツもおいしく感じるだろうしね。
あー、早く作りたい。
『その前に土地です』
そうでした。山脈の方は、領主様が探りを入れてくれるそうな。個人で買える代物かどうかは謎だけど、いい結果が出るといいなあ。
離宮はなかなかの快適さなんだけど、やっぱり水回りに不満が。
「やはり船の方がいいわねえ」
「そうですね……あれを知ってしまうと、もう元の生活は戻れない気がします……」
夫人、不穏な言葉を吐くの、やめてください。多分、お風呂じゃなくてトイレの事だな。
ダガードの場合はポット式。おまるでして、中身を外に捨てるってタイプ。ウィカラビアはぼっとんタイプ。
さすがに離宮のは臭いが上がってこないよう、工夫がされてるみたいだけど。なんかねー、生活の知恵ってやつで、トイレに入れておくと臭いが軽くなる草があるんだって。
『草についている微生物で、分解を促進しているのでしょう』
臭いも分解出来るのかな? まあ、でも水洗に比べると、やっぱりちょっと、ってのがあるらしい。
うーん、もしかして、便器も売れる? でもあれ、魔力が必要だからなあ。その辺りは、じいちゃんに相談かも。
領主様から、山脈の件に関しての回答が来たのは、相談してから三日後の事。
「山脈丸ごと、買えるめどが立ったよ」
「本当ですか!?」
信じられない。だって、結構な広さだよ? あれを個人で、しかも国外の人間に売るんだ……いや、嬉しいし助かるけど。
「ただ、条件をつけられた」
「ああ」
でしょうねー。さすがに値段も高いだろうけど、無条件でって言われるよりは何か安心する。
「この条件は、サーリ向きじゃないかな?」
「どういう事ですか?」
「実はね」
領主様が説明してくれた条件を聞いて、確かにねとその場にいた全員で頷く。そりゃー、私向きでしょう。
だって、山脈に根付いている盗賊団と、他にも各地域に散らばっている賊共を全部退治出来たら、っていうんだから。
「あ、でも全部と言っても、こっちが捕まえてきてもまだ足りないーとか言われると困るので、捕縛する連中の名簿……とかもらえないと、困ります」
「その辺りは手を打ってあるよ。手配書が出回っている連中全てという事だったから、その手配書を届けてもらう手筈になっている」
さすが領主様。仕事が出来る人はいいなあ。
そして、一人渋面を作ってるのが銀髪さん。何ですか? 文句でもあるんですかねえ?
「どうしました? カイド様。不機嫌そうですが」
「国中の賊退治など、本来は国がやるべき事だろうが。何故それを、こいつが肩代わりせねばならん?」
「その代わり、全部終われば山脈丸ごとくれるというんですよ。太っ腹じゃないですか」
あれ? 今領主様、変な事言いませんでした?
「え? くれるんですか? 買う権利がもらえるんじゃなくて?」
「当たり前だよ。カイド様が仰った通り、本来これは国がやるべき事だ。それを代わりにやるんだから、山脈くらいもらってしまえ」
おおー。タダで山がもらえるそうです。そりゃ確かに太っ腹。よし、やる気が出て来たぞー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます