第425話 みーつけた

 土地の購入やら何やらあるので、王宮には同行する事になった。でも、王宮って事は、正装しないとダメなんじゃないの? ドレスとか、ないよ?


「構わないよ。船団の一員として同行してもらうから」


 それだって、王侯貴族の前に出るには、それなりの格好しないといけないんじゃ……まあ、領主様がいいって言うんだから、いいか。


 私とじいちゃんはいつもの格好で。私はフードをしっかり被り、認識阻害効果を発揮する。


 いや、髪の色であれこれ言われるかもしれないからさー。こっちは明るい色の髪の人が多いみたいだし。


 そういや、もっと東の方では神子の話も広まっていたみたいだけど、ここだとどうなんだろう?




 船着き場から王宮までは、車でいく。馬車じゃなく車となるのは、引いてるのが馬じゃないから。


 でかい、トカゲ。これ、嫌いな人が見たら悲鳴上げるんじゃね? 私は思わず狩りそうになりました。


『走りトカゲはウィカラビアの交通に欠かせない生き物です。また、狩ってもたいした素材は採れません。肉は固くて独特の臭いがある為、食用には向きません』


 さいでござますか。


 ガタゴトと音を立てて進む車は、座席にかなり衝撃が来る。もうダイレクトに。分厚い綿入りの布地を敷いてるけど、これはきつい。


 女性陣の分だけでも、と思い、こっそりお尻の下に空気の層を作る。あ、ジジ様達が早速気づいた。こっそりこっちを見るけれど、そっぽを向く。


 ちなみに、同行している女性陣はジジ様と夫人のみ。侍女様方とユゼおばあちゃんは船でお留守番してるってさ。王都までは一緒に来たのにね。


 車に揺られる事しばし。王宮に到着したらしい。


「なかなか大変な道のりだったな……」


 領主様、こっそり腰を叩いている辺り、かなり響いてるな。まだ若い銀髪さんや剣持ちさんも、やや顔色が悪い。皆様、お尻に痛みがきているようで。


 対照的に、ジジ様達の顔の晴れやかな事。あ、じいちゃんは自前で空気の層を出せるので、問題なし。


 他の車に乗っていた船団の人達と一緒に、いざ王宮の中へ。こっちはダガードと気候が違うからか、王宮の造りも全く違う。


 なんというか、開放的な感じ? 壁が少なくて、柱のみってところが多い。回廊も、柱と屋根だけで、壁がない。


 私の外套は温度調節付きだからいいけど、他の人達は暑そうだ。ダガードを出発したのは春だったけど、航海中に大分気温が上がっていたので、それなり薄着になっていたのにね。


 そういや、こっちの人の服装って、基本ノースリーブだし、割と露出多め。それだけ気温が高いって事なんだろうな。


 案内されるままに王宮内を歩いて行くと、見覚えのある辺りに出た。あ、前回この国に来た時に、姿を消して飛び回っていた辺りかも。


 大きな広間に入ると、一番奥には玉座があって、そこにこの国の王様が座っている。


 確か、あの人が王様だったよなあ。


「遠いところをようこそ、客人達よ」


 お、北ラウェニアの言葉で挨拶してくれる。こっちの大陸って、言葉が違うんだよね。私の場合は、召喚特典なのかどこの言葉や文字もわかるけど。


『私が同時通訳しているからです』


 あ、そうだったんだ。失礼しました。


 領主様が代表する形で挨拶を返したんだけど、ちゃんとこっちにも通訳さんがいました。


 あれこれ言葉が交わされてるけど、興味ないので聞く気なし。何やら手土産的なものも渡し、向こうからどよめきが起こる。


 そんなにいい物、持ってきたのか。後で何を渡したのか、聞いてみようっと。


 これ、謁見だったんだね。それも終わって、これからは実務者レベルのお話し合いになるそうな。


「ここから先は私達でやるから、君達は船に戻るもよし、王都を見て回るもよし、好きにしていいよ。あ、離宮に滞在する事になったからね」


 それは私も離宮にいろという事なのかな? 船の方が居心地がいいんだけど。




 一応王宮にも挨拶したし、船団の一員としての体裁も整えた。後は好きにしていいって領主様も言ってたから、好きにしよう。


「じいちゃん、ちょっと出てくるね」

「どこに行くんじゃ?」

「バニラを探しに!」

「ばにら? とは何じゃ? ……って、もういないわい」


 いや、姿隠してほうきで飛んだだけだよ。じいちゃんなら追えるでしょ?


 検索先生に、バニラが自生している場所を教えてもらう。


『まだ花の状態ですね。受粉していれば、今後六週間程度で細長い鞘になります』


 あのバニラビーンズの鞘だな。でも、その状態だと採取しても無駄かあ。


『株ごと採取すれば、そのまま亜空間収納内で仮の栽培が出来ます。本栽培は砦の温室か、こちらに建設予定の温泉地にすればいいかと』


 温泉別荘建てるのは、もう決定なんですね。では、バニラ採取といきましょう。


 王都から南に少し行ったところにある森、その奥にバニラの自生地がある。


「おお、これが」

『花は八時間程しか咲いていないそうです』


 花の周囲には蜂。受粉していると思っていいのかな? とりあえず、蜂が去るまでじっと我慢。


 蜂が飛び去った後、バニラを株ごと採取。後は亜空間収納内で鞘になるのを待つだけ。


 六週間かあ……短縮って、出来ないんですか? 検索先生。


『出来るとは思いますが、最初なので時間をかけた方が安全です』


 そっかー。これで種が取れれば、そこからまた栽培って手もあるし。いや、種も鞘も香り付けには大事なんだけどさ。


 でもこれで、カスタードプリンもカスタードクリームもバニラアイスも作れる! 本当、夢が広がりまくるね!!

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