第424話 商談?

 王都に到着ー。船に乗ってるだけで着いたから、あんまり実感が湧かないけど。


 現在、水路の船着き場にて、領主様と銀髪さん、剣持ちさんがこちらの船に来ている。


 三人とも、船内を見回した後に、深い溜息を吐くの、やめてもらえませんかね。


「さて、我々はこれから王宮に行かなくてはならないんだが――」

「船で待ってまーす」

「付いてくる気はないのかね?」

「ないですよ」


 やだなあ、何で王宮なんかに行かなきゃいけないんですかねえ。堅苦しい場所は嫌だよ。ローデンでの生活で、骨身に染みましたとも。


「あら、王宮では珍しいお菓子が出るかもしれないわよ?」

「え?」


 ジジ様の一言に、ちょっと心が揺らぐ。でも、この国での珍しいお菓子っていってもなあ。


『この辺りでも砂糖が取れますから、甘い物は発展しやすいかと』


 むむむ。検索先生までそんな事を……


『それと、この国にも温泉が湧く箇所があります』


 ああ、土地を買えって事ですね。でも、いきなり王宮でそんな話なんて、出来るのかな……


「領主様、王宮に着いていったら、この国の土地、買えますかね?」

「またいきなり何の話かね?」

「実は、この国でも温泉が湧く場所があるらしくて、買いたいんです」

「まあ! それは本当なの? サーリ!」


 食いついてきたのは、領主様じゃなくてジジ様だった。はまってますね、温泉。


「最近、肌の張り艶が以前と違うのよ。お化粧ののりも、もうまったく違うんですから」

「それ、本当なんですか? ジジ様」


 おっと、夫人まで食いついてきましたよ。

「本当の事ですよ。見なさい、今の私を!」

「そういえば、以前よりも若々しくおなりだと思っていましたが、てっきり新しい化粧品のせいかと」

「ほっほっほ、肌が違うのですよ、肌が」


 あ、夫人がぐぬぬという顔をしてるよ。年齢が上のジジ様に、肌の色艶張りで負けてるのが悔しいんだな。


「サーリ、うちの領内にも温泉はあるのよね!?」

「ありますけど、あの別荘は私個人の持ち物なんですが」

「そこを、何とかならない?」


 うーん、ジジ様にはご本人の領地内にある二番湯、三番湯、それから王領になった旧ザクセード伯爵領の四番湯と五番湯も自由に使えるよう設定してある。何せ二番湯、三番湯の開発にも、快く了承してもらえたから。


 夫人の場合、旦那様である領主様に世話になってる部分もあるからなあ。でも、一番湯を解放するのは、行き来のしづらさでいかがなものか。


 あそこ、思いっきり山の中だし。


「領主様と一緒か、ジジ様と一緒なら旧ザクセード伯爵領に二カ所、温泉がありますよ。あと、西の別の領に六番から八番まで三カ所あります」

「……夫は忙しくて、なかなか捕まらないのよ」


 あー、確かにねえ。今も交易の為に他国どころか他の大陸まで来てますし。


「それに、王太后であるジジ様を、そう頻繁に誘うわけにも……」


 それもわかるなあ。うーん、どうしたものか。


 各温泉施設には、あれこれ置いてあるから、それがネックになってるかも。ほっとくんやらあらいさんやらスペンサーさんやら。


 夫人、びっくりしないかな?


 悩んでいたら、ジジ様が解決策を出してきた。


「シルリーユ、あなた、何かサーリに融通出来るものはなくて?」

「融通出来るもの……ですか?」

「あなた個人でも、この際ジンドの力を使ってもいいわ。それを対価に、温泉に入る権利を手に入れなさい」

「まあ」


 なるほどー。領主様には世話になってる、ジジ様にも奥宮の中庭使用の許可をもらってる、銀髪さんはまあ、元国王で国内にいる権利をくれたし、剣持ちさんは銀髪さんのおまけ。


 おじさん大公一家については、あれこれ依頼で儲けさせてもらったのと、ミシアとマクリアの一件があるからねー。


 そういや、領主様とは散々顔を合わせるけど、夫人とは繋がりが薄かったわ。その夫人、悩んでおります。


「領内の事に関しては、既に夫が便宜を図っているでしょうし、私個人となると……」

「領内でも、いくつか馴染みの商会があるでしょう? そこで食品を使っているところはあるかしら?」

「ええ、もちろん。我が家に納品させている商会がいくつかありますわ」

「そこで、家畜の乳を扱っていれば、それを融通するのも手よ」

「え? そんなもので?」

「あと、卵もいるのよねえ?」


 ジジ様がこちらに確認してきたので、頷いておく。ミルクも卵もお菓子作りに欠かせませんよ。あとバターもね。


 でも、バターはゴーバル産のをたくさん手に入れられたから、しばらくは大丈夫。


 夫人はしばらく考えてから、真剣な表情でこちらに向き直った。


「最上級の乳と卵を用意させるわ。どちらも魔獣のもので、飼い慣らすのは大変なの。我が領内では、いくつかの農家がそれを成功させて、やがては領地の特産品にと考えているのよ」


 それって、ゴーバルのチーズやバターみたいなもの? でも、魔獣のミルクや卵となると、味が濃そう。


「ぜひとも、ください! その代わり、四番から八番までの温泉へのフリーパスを出します!」

「その、ふりーぱす、というのが何なのかよくわからないのだけれど……」

「いつでも、夫人一人で温泉に入りにいけるって事です! あ、お付きの小間使いの人達も入れますよ」

「本当に!? 嬉しいわ!!」


 私も嬉しいですう。これでまたおいしいお菓子が作れるよー。


 その為にも、この国で土地を買って、温泉開発してバニラも栽培しなくては! あ、その前に採取か。


「……それで? 結局王宮には同行してくれるのかな?」


 あ、領主様の事、すっかり忘れてた。

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