第423話 こんな事もあろうかと
バニラの所在がわかったので、いっちょ採取に行ってこよう! と意気込んだのに、領主様から連絡が来た。
『王太后陛下達と一緒に、王都まで行くよ』
「行ってらっしゃいませー」
『……君も行くんだよ』
何で? 答えは船団の一員として登録しているから。いつの間に!?
『港に入る時の手続き、こっちに任せただろう? 君個人としてではなく、船団の一員として手続きしたから滞りなく入国出来たんだよ』
しまった、丸投げの裏にはそんな事情があったのか。なんでも、王都までは水路を使って行けるらしい。あったっけ?
『前回は空路を行きましたから、水路は使っていません。ちなみに、存在します』
そ、そうなんだ……天然の川と運河をつなぎ合わせた水路が、ゼフから王都まで延びているんだって。
で、船団の船でそのまま王都へ向かうそうだけど……うちの船、入らないんじゃね?
「領主様、うちの船、大きすぎて水路に入らないんじゃないかと」
『だろうね。こちらの船に乗り換えてもらおうと思うんだが……』
それは嫌。別に船団の人達が悪い訳でも、船団の船が悪い訳でもない。でも、衛生上砦と同程度の設備がない船には乗りたくないんだよおお。
『こんな事もあろうかと、小型の船を作成しておきました』
マジでええええ!? え、これは本当にびっくりなんだけど? 検索先生。
『船の素材が余ったので、空水両用の船を作ってみました』
待って。今なんか変なワードが出なかった? くうすい?
『水の上だけでなく、空も飛びます』
マジかああああ!
出してもらった船は……小型のクルーザー?
『船内は空間を広げて居住性を向上させています。水回りも砦に準拠して完備、波の影響もほとんど受けません。推進力は魔力を動力源としたスクリューを二機搭載』
「検索先生、一体何作ってんですか」
『お気に召しませんか?』
いや、そういう事じゃなくてですね。でも、これなら大きさ的に船団の船と一緒に行けそう。
というか、船団に埋もれそう。大きい方との落差が激しすぎ。でも、とりあえず女性陣やじいちゃん達に、乗り換えてもらおうか。
「ほう、こりゃまたちっさいのを作ったのう」
「あらまあ」
「サーリを信用しているけれど、沈んだりはしないのでしょうね?」
「まあ、これはかわいらしい船だこと」
じいちゃん、ユゼおばあちゃん、ジジ様、夫人とそれぞれの感想を述べる。侍女様方は、あえて何も言わない事を選択したっぽい。
スーラさんで領主様には自前の小型の船を出すって伝えたから、このまま行けばいいか。船団の船は既に水路の方へ移動し始めているそうなので、領主様が乗る船の近くまで行く。
「サーリ、それが君の船かい?」
甲板から、領主様が身を乗り出した。危ないですよー。落ちても魔法で受け止めるけど。
「そうですよー。皆様も乗ってますのでご安心くださーい」
「そうか……」
なんとなく、残念そうな顔の領主様は、背後から誰かに呼ばれて甲板の向こう側に消えていった。
ここからだと、船の高さに差がありすぎて、向こうの甲板は端しか見えないんだよね。
さて、航行は自動で検索先生が請け負ってくれるから、私も船室に籠もってようかなー。
水路からの景色は見たことないけど、周囲を船団の船が囲んじゃってるから、どのみち見えないしね。
見たくなったら、また個人で来ればいいや。
ゼフから王都まで、水路を使っても三日くらいかかるらしい。ゆっくりだなあ。そこまで幅のある川や運河じゃないから、スピードは出せないんだって。
確かに、ちらっと見えた限りだと、ちょっと速いジョギングくらいの速さだ。馬の早駆けには負けそう。
ゆっくりな分、馬や馬車に比べると輸送量が段違いだもんなー。そりゃ水路も作りますって。
船内の部屋は、飛行船に似た造りになっている。検索先生、あれで色々学習したんだな……
窓には外の景色を写しているので、これで十分外を楽しめそうだ。しかも船団の船がない状態を見られるから、なおいい。
ジジ様は、夫人やユゼおばあちゃんとおしゃべりを楽しんでいる。ちらっと耳に入ってきた内容が、貴族のあれこれだったので聞かなかった事にした。
どこの家が没落しそうだとか、あそこが小さい不正をしているとかって話、ジジ様はどこから仕入れているのやら。
そしてそれをにこやかに聞くユゼおばあちゃんと、あらまあとか言いながら受け流す夫人。何だか、あそこだけバックが黒いよ。
侍女様方は、三人一緒に何やら縫い物の真っ最中。集中しているようだから、声をかけるのはやめておこうっと。
で、じいちゃんは?
「……何やってるの?」
さっきまでジジ様達がいたのは、船のサロン。で、じいちゃんがいるのはそこから一番遠い遊戯室。
遊戯室といっても、何かが置いてある訳じゃなくて、テーブルと椅子、それに棚にはお酒。いつぞや、ゼフの海賊が貯め込んでいたやつだ。
じいちゃんは、そこの一番奥のテーブルで飲んでいた。
「おお、サーリか。いやな、向こうは女ばかりじゃろ? 肩身が狭くてのう」
ああ、確かにねえ。領主様がいれば、それなりじいちゃんの話し相手になってくれるだろうけど。
「領主様に、こっちに移ってくれるようお願いする?」
「いやいや、そこまではせんでいい」
じいちゃん、まさかと思うけど、領主様にお酒飲まれるのが嫌、とかじゃないよね?
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