第422話 フルーツ天国再び

 ゼフに到着してから丸三日。毎日船から港へ行って街を見て回っている。もうね! 置いてある商品がダガードでは見ないものばかりで楽しい!


「あ! これおいしい。おばさーん、これちょうだーい」

「はいよー。毎度ありー」

「あ、こっちもおいしい! すいませーん、これくださーい」


 うん、食べ物買ってばっかだね。でも、ダガードに比べると暖かい場所だからか、果物が豊富でおいしい!


 しかも、見つけたよパイン! あったんだねパイン! 見た目も中身もちゃんとパイナップルだよ! これだよこれ!


 砦の温室でこっそり育ててるけど、この世界産のがあるなら、苗を買っていきたい。


 実はイチゴも発見。ただ、ちょっと小ぶりな感じ。ジャムに向いてそう。試食したら味は甘くて最高でした。これも、温室で育てたいなあ。


 他にもキウイフルーツっぽいのやマンゴーっぽいのやグレープフルーツくらいの大きさの柑橘類だったり。




 こ こ は 天 国 か、再 び。




 ゼフがこんなにフルーツ天国だと知っていたら、以前来た時に買い占めていたのに! すっかり海賊退治にうつつを抜かしてしまったよ。もったいない。


 以前行った街、カスートでも大量の果物を買って、まだ亜空間収納に入っているけど、これはこれ。


 あそこにはなかったフルーツを買いまくるぞー。




 船団の人達からは放置されていたので買い物三昧だったけど、よく考えたら私は個人でここに来ているんだから、勝手にあれこれ動いてもいいんじゃね?


「そりゃダメじゃろ」

「ダメー?」

「船団の一部として手続きしとるんじゃから、個人で動くのならその手続きが必要なんじゃないかのう」

「前の時はいらなかったのに……」

「そりゃ、前は空を飛んで移動しておったからのう。港も国境も関係ないわい」


 それもそうか。これで移動した先でお金を稼ぐ必要があったら、ちゃんとした身分証なりなんなりが必要だけど、通りすがるだけなら意外といらないもんね。


 でも、今回は船団の一部として、正規の身分証を発行してもらえる訳だ。ダガードの、じゃなくてウィカラビア国内で使えるやつね。


 それ持っていれば、問題なく国内は移動出来るって事かな?

「そうなるのう」


 でも、それって私に何かメリットはあるのかなあ? 船はいつでも亜空間収納に入れられるし、陸地に来ちゃえば空を行けばいいし。


 あれ? 身分証のメリット、なくない?


 それをじいちゃんに説明したけれど、やっぱり船団と一緒に来た以上は一緒に行動しておいた方がいい、という結果になった。


 まーいっかー。街中だけでもフルーツ天国なんだしー。


『ちなみに、カカオはもう少し南、バニラはこの国の平地、森の奥に自生しています。メープルはもっと北です』


 よし! この国内でバニラだけでも入手可能だ!


『ちなみに、バニラは種子鞘を発酵、乾燥を繰り返す事で甘い香りを発します』


 発酵と乾燥は亜空間収納内で出来そうかな? 発酵させる菌は特定のものなんだよね、多分。


『いいえ、菌は必要ありません。全てバニラ自身の酵素を使う為です』


 マジでー? 知らなかった。でも、それなら亜空間収納内での発酵、乾燥はオーケーって事ですね!?


『お任せください。異世界の知識を元に、完璧に仕上げてみせます』


 ……今何か、気になるワードがあった気がするけれど、いつもの事だよね? 気にしない気にしない。


 ともかく、目当ての一つであるバニラは入手が目の前に迫った。後はこのまま、無事に手に入れられる事を祈っておこうっと。




 ゼフに来て五日目。ようやくスーラさんで領主様から連絡が入る。


『放りっぱなしで悪かったね。やっと道筋が見えてきたよ』

「おめでとうございます?」

『ああ、サーリからの事前情報は役に立った。ありがとう』

「どういたしまして?」


 いまいち、領主様がやってる事がわからないのでこんな返答。いや、交易を始める為のあれこれをやってるんだろうけど、具体的な内容まではちょっとわからないしさ。


 そういえば、ここの領主が悪さしそうって情報が、何の役に立ったんだろう? まあ、とりあえずいい方向に向かっているみたいだから、いっか。


 そんな連絡のすぐ後、銀髪さんが剣持ちさんと一緒に来た。


「お婆さまのご機嫌伺いだ」


 そういえば、ジジ様達女性陣はずっと砦に居続けだなあ。街中を見に行きますか? って聞いたら、今はいいって言われちゃった。


 それと、いつの間にか以前ジジ様達に融通したスカートとブラウス、夫人が似たようなものを着てるんだけど。どこで手に入れたんだろう?


 軽くて着替えやすくていいって言ってたっけ。そりゃあ、ドレスよりは簡単だろうけど。


 でも、貴婦人があれを着て外を歩くのはちょっと難しいかも。恥ずかしいらしいんだ。


 あ、ジジ様達が外に出ないのって、そのせいもあるの?


 とりあえず、銀髪さん達を中に入れて、砦へ戻る。今の時間帯、女性陣は第一区域の庭のテーブルで、おしゃべりしながら刺繍とかしてるはず。


 ちなみに、このテーブルは皆さんの要望で急遽置きました。船の中は雨も降らないし、妖霊樹の家具はしっかり加工すれば水とか汚れに凄く強いっていうしね。


「おやカイド。そちらの方は片付いたの?」

「ええ、それで、近日中に王都へ向かう事になりそうです」

「わかりました。それまで、私達はここで過ごしますから」

「……どうあっても、外にはお出にならないんですね?」

「王都には同行しますよ、もちろん」

「……わかりました」


 二人が何を言ってるのか、わかってないのはこの場で私だけみたい。でも、わかる訳ないよねえ?

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