第421話 港街ゼフ
港街ゼフの領主は、前領主同様怪しい動きを見せているらしい。
「領主様に伝えた方がいいのかね」
「私が何だって?」
「おうわああ!」
いきなり背後に立たないでくださいよ! 領主様。心臓が止まるかと思ったじゃないですか!
「はっはっは。そんなに驚くとは思わなかった」
「いいですけどー」
「で? 何を伝えた方がいいと思ったんだい?」
「……えーとですね。情報の出所は言えませんが」
そう前置きをして、どうも目前に迫る港街を含む近隣の領主が悪い事をしようとしているようだ、と伝えた。
「……まだ行った事のない街の情報を、入手したと?」
「一度行った事はありますよ。前の前の冬に」
「ああ、砦を留守にした時か。その時に、伝手を得たと?」
「ご、ご想像にお任せしますう」
まさか検索先生に聞いた、とは言えないしなあ。あ、じいちゃんには言っておこうっと。
港には、割とすんなりと入れた。船団の船はね……
私の船は大きすぎて港に入らないらしく、巡視船に停められちゃったよ。なので、ちょっと沖の方で停泊中。
船団の船は順調に港に入っていった。これから事務局で手続きなんだって。その辺りは全員分、船団の人がやってくれるそうなので、丸投げ。
「大きいにも考えものだね……」
「そうじゃのう」
待ってる間、甲板に出て街の方を見る。望遠の魔法を使えば、離れた街の様子も簡単に見られるのだ。
「おおー、何か人が凄く多くて賑わってるー」
「ほう、港街らしい活気じゃな」
「へー。ゼフって、本来はこういう街なんだー」
あの時は魔物……の振りした海賊の騒ぎで街全体がどんよりしていた印象しかないよ。何にしても、いい方向に向かっているようで良かった。
この街の領主、本当に悪い事を考えてるのかな?
『いっそ、ここから浄化を行いますか?』
うーん、それもなあ。これから交易を行う相手になるかも? ってだけの街だし、勝手にやるのも気が引ける。
もっとがっつり関わる場所なら、とっとと浄化しちゃうんだけど。
『港街というだけで、特に瘴気が強い訳ではないですしね』
そうなんだ。じゃあ、今回浄化はなしで。もし領主が悪さをしていたら、こっそり締め上げちゃえばいいや。
手続きが終わって、やっと船から下りられる。小さな船を用意して、それに乗り換えて港に入るんだって。
小さいといっても、それなりの大きさだ。
「船はこのままにしておいていいのか?」
銀髪さん、そこが気になるらしい。
「大丈夫ですよー。防犯はしっかりしているので」
護くんが培ったデータを元に、あれこれ改良した警備システムを導入しているので、船全体が護くん最新バージョンみたいな感じ。不審者は近寄れないようになっているのだ。ぬかりなし。
それを説明したら、銀髪さんだけでなく剣持ちさんも何だか顔色が悪くなってるんだけど、船酔い?
港に入ると、船団の船に乗り換えて先に上陸していた領主様が待っていてくれた。
「待たせたね」
「いえいえ、手続き丸投げでやってもらったので、文句はないです」
「まるなげ? サーリは時折変わった表現を使うね」
それ、ミシアにも言われた気がする。丸投げって、こっちじゃ使わないのかな……
港街は船で来た人達用に、大きな宿屋もたくさんある。前回はどうしたんだっけ……
「飛行船にそのまま泊まったんだっけかな……」
あれ? おかしいな。ゼフの街を回った記憶がないよ。
「以前来た時は、海賊退治だの悪徳貴族への懲らしめだのばかりやっとって、港街はろくに見ておらんかったじゃろうが」
あーそっかー。街に到着してすぐ、海の魔物のせいで船が出せないーって話を聞いて、それおかしいんじゃね? となり、調べ始めたんだった。
そりゃ街に泊まった憶えも街中回った憶えもないはずだわ。
船団の人達は、船乗りでも下っ端の人達は安い宿に、船長とかの偉い人や商人達は高級な宿に泊まるそうだ。
私達は、どうしようね?
「宿に泊まるより、船で寝泊まりした方が楽じゃぞ」
「だよねー」
「そうねえ。主に水回りで不満が出そうだわ」
別にこの街が悪いという訳じゃなく、砦がかなり特殊な場所だからねー。ユゼおばあちゃんも、すっかり砦の魅力にはまってるな。
何よりトイレとお風呂がねー。入浴習慣のない国もあるそうだし、ここのように暑い地方だとお風呂じゃなくて水浴びかな?
何にしても、お風呂に入れる宿はそう多くないと予想。
「サーリ、私達はここの領主館に世話になるが、君達はどうする?」
領主様に聞かれて、じいちゃんとユゼおばあちゃんと顔を合わせる。
「船で寝泊まりしますう」
結局、快適さには勝てなかった。何か銀髪さんが「ずるい!」って言ってるみたいだけど、ずるくないやい。こういう事を見越して、船の中に砦を入れてきたんだから。
まあ、やってみるまで自分でも砦を持ち運べるとは思わなかったけどねー。
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