第420話 航海

 航海は順調だ。何より、揺れがないのがいい。


「海の上にいるとは思えないわね」

「本当ですわね、太王太后陛下」

「あら、また孫が退位してまた息子が即位したから、今の私は王太后ですよ」

「まあ、そうですわね」

「我が事ながら、ややこしいわ」


 ジジ様と夫人が和やかにおしゃべりしているけど、内容は……ねえ。銀髪さんが退位しておじさん大公改めおじさん陛下が即位したから、そうなるのか。本当、ややこしいや。


 現在、船団は北ラウェニアを離れて、他大陸との間の大洋、地球で考えると大西洋に当たる海を航海中。


 こんだけ何もない海なら海賊なんて出ないかと思ったんだけど、いたよ。もっと北ラウェニアに近い場所で、出没したけど。


 面倒だから船ごと捕まえて、領主様からおじさん陛下に連絡を入れてもらった。スーラさん大活躍。


 王宮にいるであろうおじさん大公は、驚いていたみたい。とりあえず、私達が出航した港街、キッカニアに兵を送ってもらった。そこに捕らえた海賊達は送ったから。


 大きなシャボン玉に入れて、海の上を滑るように送り出したんだけど、海賊達からよりも、こっちの船団の方から変な声が上がっていた気がする。


 おかしいなあ、あなた達の事も護ったんだけど。あ、あのシャボン玉は外側からつつけば簡単に解除されるようになってるよ。ちゃんとその辺りも、スーラさんで連絡済み。本当、便利だよねえ、スーラさん。


 送った海賊は都合四組。多いか少ないかはわからないけど、この先邪魔が入らない事を祈るよ。


 そろそろ北ラウェニアからも離れてきてるから、キッカニアまで送りつけるのに時間がかかりそうだし。




 長い航海、一番の敵は栄養不足と退屈だと思う。栄養不足については、じいちゃんが作った食料棚と、私が作ったほっとくんのおかげで船団では心配する必要がない。


 では、退屈の方はどうか。他の船は仕事がたくさんあるから退屈してる暇がないかもね。


 うちの方はといえば、女性陣はおしゃべりや刺繍、編み物や読書など、自分の趣味にあったものを持ち込んでいた。


 男性陣は、何やら第三区域でやっている様子。ちらっと見たら、剣の稽古かな?


 領主様、銀髪さん、剣持ちさんでそれぞれ組み合わせを変えて対戦形式の稽古をしているらしい。


 領主様、剣、使えたんだ。知らなかったー。銀髪さんが剣を振っている姿も、初めて見るわ。


 そりゃそうか。元国王と宰相みたいな地位に就いている人達が、自分で剣を取って戦うような事になったら、国の最後だよ。


 普通はあの人達のうんと手前で、敵を押さえなきゃいけないんだから。


 第二区域との境にある壁の上から、その様子を眺める。やっぱり、一番「慣れている」と感じるのは剣持ちさんかなあ?


 意外にも……というかやっぱりというか、変わった動きで相手を翻弄するのが領主様。


 癖もなくまっすぐな感じが銀髪さんかなあ。剣はよくわかんないから、対戦している様子からそんな風に感じる。


「……何を見ているんだ?」

「あ、バレた」


 壁の下まで来たのは、銀髪さんだ。ただいま領主様と剣持ちさんで何回目かの対戦中。


「皆が何をやっているのか、ちょっと気になって見てまわってました」

「お婆さま達はどうしている?」

「ジジ様でしたら、ユゼおばあちゃんと何やら話し込んでましたよ」


 あの二人、本当に気があうようで、しょっちゅうおしゃべりしてる。でも、ユゼおばあちゃんが遮音の結界を張っているので、何を話しているかまではわからない。


 わざわざ結界まで張るって……何やってんだかね。ただ、かたや元教皇、かたや元太王太后で現役王太后。


 国の重要機密を話し合ってても不思議じゃないから、あまり突っ込んで何話してるかは聞けないんだよなあ。


 そんな感じで、割合平和に航海の日々は過ぎて行った。




 長い航海の果て、ようやく陸地が見えてきた。ここまで、大体二ヶ月弱かな。


 甲板から遠くに見える陸地を見つつ呟くと、後ろから領主様が呆れた声を出した。


「いや、十分早いから。それに、海賊の被害にも遭わなかったし」

「あー、そういえば、あの海賊達、ちゃんとキッカニアで捕まえてもらえました?」

「ああ、ゼヘトが待ち構えていて、土人形で全員捕縛した後、王都から来た兵士達に引き渡したそうだ」


 おおー、ゼヘトさん、もうキッカニアの護りは完璧ですな! 建設だけでなく、そのまま土人形を使った自警団もやっちゃえばいいと思う。


 港街って、余所者も多く来るから治安が悪くなりがちって聞いた事あるし。


 さて、最初に上陸する国は、どこかなー……って、何か見覚えある港なんだけど?


『こちらの大陸で最後に訪問した国ですね。名はウィカラビア。あの港街はゼフです』


 んー、何か、うっすら記憶にあるぞー?


『ゼフのある一帯の領主ギジゼイド伯爵が上役コアトーラ侯爵と共に、海賊ヒギンダ一家と手を結んで私腹を肥やしていた一件に関わりました』


 あれかー! 確か、海賊が出たんで船が出せないって話じゃなかったっけ? で、その海賊が領主とグルで、その領主は王都の偉い貴族と繋がっていたってやつだ。


 結局、そのコアなんとか侯爵も失脚したんだっけか?


『爵位と領地、財産を没収の上極刑が下ったようです。一族も刑罰を受け、ギジゼイド伯爵家も没落しています』


 お、おう。悪者の末路はそんなもんだよね。


『ですが、ゼフはうま味のある土地故、次の領主もおかしな動きをしているようです』


 何ですとー!?

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