第419話 出航
たかが八人、されど八人。王侯貴族な人達がそれだけ揃えば、荷物の量も凄い事になるんだね……
甲板には、タラップを使って次から次へと運び込まれる荷物の数々。革張りの、蓋が上に開くタイプの箱で、中身は殆ど衣類だそうな。
その箱が、どーんと甲板に積み上げられている。これ、まだ増えるの?
「領主様……」
「中まで、運ばせるから」
「いや、それはいいんですけど」
なるべく中は他の人に見られたくないので、後で亜空間収納を使ってぱぱっと運んじゃいます。
「女性陣のドレスが多くてね……」
「あー……」
ジジ様と侍女様方、それに夫人ですもんね。そりゃーたくさんになるよねえ。
今せっせと甲板に運び上げているのは、船団の水夫さん達だそうな。お疲れ様です。言ってくれれば、下から上に上げるのもやったのに。
「サーリよ、収納を使う場合、出航してからにした方がええぞ」
「了解」
確かに、あんまり多くの人に見られるのは、よくない気がする。
とりあえず、出航までは甲板にいる事になった。あ、ゼヘトさんだ。
「ゼヘトさーん!」
「おー……って、あんたも行くのか!?」
「行くよー。言い出しっぺは私だしー」
「そ……そうなのか……とりあえず、無事に帰ってこいよー」
「ありがとー」
他にも、船大工さん達とか、水夫さん達の家族とか同行する商人達の家族や親類とかが見送りに来ている。
あんなにたくさんの人、どこから来たの? 疑問に思っていたら、領主様が教えてくれた。
「昨日、街の中を見て回った時、もう建物が出来ている区画があっただろう?」
「丸い広場のある場所ですか?」
「あそこには役所も入っているが、国内の大きな商会の支店がいくつか入っているんだ。居住空間を作ってあるので、そこに泊まっていたんだろう」
なるほどー。今回の航海は、向こうの大陸の各国と交易出来るように整えるのもそうだけど、ついでに珍しい品があったら輸入しちゃえって事らしい。
その為、大きめの商会に話を通し、希望したところから人員を募ろうとしたそうだけど、なんと会頭自ら来る商会ばかりだったそうな。
「こんな大きな商機は逃せない、という事らしいよ」
商人達の根性凄ー。
船団は無事に出航し、私達も船の中に入る。
「まあ」
「これは……」
「なるほど、砦を入れる……ねえ」
ジジ様、銀髪さん、領主様の三種三様の反応でした。ちなみに、夫人と侍女様方、剣持ちさんは口をぽかんと開けて無言で驚いております。
まあ、船に入って階段下りて扉を開けたら、その先に砦があるなんて普通は誰も思わないから。
でも、後悔はしない。だって、長い航海の間もいつものように暮らしたかったから。
それに、普通の船って揺れるよね。船酔いが怖いし。大きくて重い船だと、大きな波にも負けないみたいなんだけど、さすがにこっちでそれを再現は出来ないだろうから……
出来ないよね?
『素材を集めれば、可能です』
出来るの!? ……でも、いいや。大きな木造帆船の中に砦を入れられたから。
第三区域にある門を潜り、全員を中に招き入れる。じいちゃんやユゼおばあちゃん以外は、おそるおそるって感じ。
大丈夫だよ、入った途端景色ががらっと変わったりとかしないから。……やってみたら、面白いかな?
『バルムキートに窘められる結果が見えます』
ダメかー。
そのまま歩いて来客棟へ。じいちゃんとユゼおばあちゃん、私以外の人達は、ここで寝泊まりしてもらう。食事はどうしようね?
「この棟にも食堂はあるんだけど……」
「お前達は、普段角塔で食事しているんだろう?」
そういや、銀髪さんは向こうでお茶もしていたっけね。
「そうですけど。あっちにこの人数は入りませんよ?」
「む……」
明らかに不満そうな銀髪さん。そこに助け船を出したのは、意外にも剣持ちさんだ。
「カイド様、無理を通すのはよろしくないかと」
「……わかった」
おおー、何か、今までとちょっと違う感じ。どこが? って聞かれると、困るけど。
「そうだ、航海の長い間、世話になる。カイド様共々、よろしく頼む」
「あ、はい。頼まれました」
剣持ちさんが、頭を下げた。びっくりして、変な答え方をしちゃったよ。でも、向こうが気にしていないようだから、いっか。
それぞれの部屋に荷物を出して、荷ほどきはお任せ。ジジ様達はいいとして、夫人は一人で大丈夫なのかな?
「ああ、問題ないよ。あの人も修道院で教育を受けたからね。身の回りの事は、一通り自分で出来るんだ」
へー。何でも、貴族の女子は一定期間修道院での教育を受ける事が多いんだって。
そこでは教典を使った宗教的な教育の他、パンを焼いたりお菓子を焼いたり料理を作ったりするそうな。他にも刺繍だの薬草や植物の育成だの、変わったところでは薬作りにも挑戦する修道院もあるんだって。
そして、修道院では基本自分の事は自分でやる。でも、ドレスの着付けは大変だから、侍女様方とお互いに助け合うという事で話し合いが済んでいるんだとか。
貴族女性も、色々だなあ。
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