第418話 心配ごと

 出航は翌日の朝早く。まだ夜が明けきらない頃。港には、既に大型船が揃っている。全部で十二。多いねえ。


「おおー」


 思わず声が出た。したら、後ろから領主様の笑い声。


「あれの半分以上は護衛艦だよ」

「そうなんですか?」


 びっくり。でも、考えてみたら、向こうの大陸でも海賊退治、やったね……


「今回行く航路は我々も初めてだから、何もないかもしれないけれど、備えは大事だからね」

「そーですね」


 今回の航海は私やじいちゃんがいるから、多分護衛艦の出番はそうないと思う。でも、毎回の航海に付き合える訳じゃないもんね。護衛大事。


「それで、サーリの船はどこだい?」


 あ、出すの忘れてた。


「えーと、多分もうじき来るかと」

「そうなのか」


 検索先生! ちょっと離れたところに亜空間収納から船を出して、こっちに持ってくるって事、出来ますか!?


『問題ありません』


 良かったー。一家に一人検索先生。いや、いつも助かってます。


 お、早速山の向こう側からうちの船が……って、でか! そういえば、ずっと亜空間収納の中に入れてたから、実際の大きさ見るの、これが初めてかも?


 そういえば、水に浮かべるのもこれが初めてだよ……


「……あれが、サーリの船なのかな?」

「えっと、そうです」

「何という巨大さだ……」


 いつの間にか来ていた剣持ちさんが、ぽつりと呟く、銀髪陛下……じゃなかった、銀髪さんは口をぽかんと開けたまま、目も丸くして見ていた。


 他の船と比べると、その巨大さがわかるね。一回りどころか二回りは大きいもん。


 港の方でどやどやと騒いでいるのは、船大工さん達かな? あ、他の船に乗ってる水夫達も、こっちの船を見て何か叫んでる。


 いや、魔物じゃないから。てかもう魔物はいないから。船の形をした魔物って、どんなよ?


 その注目の船に乗り込むのは、目立つわー。


「まあ、本当に大きいのねえ」

「ユーリカ、頑張ったわねえ」


 ジジ様とユゼおばあちゃんが、二人して船を見上げて呟く。うん、そうだね、頑張ったよ。主に検索先生が。


『あちらの大陸にも、温泉がある可能性があります。夢が広がりますね!』


 えー、向こうの大陸でも温泉別荘を作れという事ですねわかります。頑張りましょー。




 こっちの船に乗るのは、領主様夫妻に加えてジジ様、侍女様方のヤーニ様、レナ様、シーナ様の三人、銀髪陛下改め銀髪さんと剣持ちさん、それとじいちゃんとユゼおばあちゃんに私。


 船の大きさに比べて、乗る人数が少ないわー。


 他の船は、乗り込むのに縄ばしごとかで乗ってるんだけど、こっちは折りたたみ式のタラップを付けてある。


 それを伸ばすと、ちょうどつづら折りのスロープのような感じになるから、そこを上る。


「あら、上りやすいわ」

「本当に。これなら人の手を介さずに済みますねえ」


 ジジ様とヤーニ様の会話が聞こえた。


「領主様、他の船だと、女性はどうやって乗るんですか? やっぱり、あの縄ばしごを使うんですか?」

「いや、大きな籠に乗せて、何人かで引っ張り上げるんだよ。でも、この船はいいね。設計図を買わせてくれないかな?」


 あー、人力のエレベーターみたいにするんだ。そりゃ大変だ。それと、設計図については後で検討してから返事しまーす。


 何せ、じいちゃんと検索先生に確認してからでないと、後が怖い。ってか、もうじいちゃんの反応が気になる。


「じいちゃん……」

「まあ、船がこれだけ大きいからの。この上り板くらいなら、いいんじゃないかのう」


 よし、じいちゃんチェックは通った。検索先生、領主様にこのスロープの作り方、売っていいですか?


『ぜひとも高値で売りつけましょう』


 え? そうなの?


『その売り上げで、向こうの大陸の温泉が湧き出る土地を買うのです!!』


 あー、向こうだと領主様の権力が効かないもんね。そうなると、共通で力を発揮するのはお金だわな。


 全員が甲板に上がると、ジジ様がこちらに向き直る。


「航海の間、世話になりますね」

「はい、お任せください」


 ジジ様が乗るのは大歓迎だよ。ただ、この船、中には砦が入れてあるから、他の船室とか全然整えていないんだよね。


 砦の来客棟でもいいかな? 銀髪さんも泊まった事があるから、問題ないと思うんだけど。


 こそっと、その銀髪さんに聞いてみよう。


「ちょっとお尋ねしたい事が……」

「何だ? 改まって」

「この船、中に砦が入ってるんですけど」

「そういえば、前にそんな事を言っていたな……相変わらずでたらめな奴だ」

「それはいいんですよそれは! で、他の船室を全然整えていないんですね」

「砦に以前、俺が泊まった棟があるだろう? あれで問題ない」

「本当に? ジジ様や領主様ご夫妻を泊めても、大丈夫?」

「お前……言っておくが、お婆さまはまだしも、ジンドより俺の方が身分は上なんだぞ?」

「えー」

「えー、じゃない! ……その俺が大丈夫だと言うんだから、問題ない。ジンドが文句を言うのなら、俺に言うように伝えておけ」

「わかりました!」


 よし、これで言質は取った。じゃあ、皆さんを中に案内しましょうかね。そろそろ出発みたいだし

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