第417話 また増えましたけど
そりゃ砦を丸ごと入れてる船なので、五人や六人平気で増やせるけどさ。でも、何でそんな事に?
「それについては、今夜にはわかると思うよ……」
ちょ! 領主様、何でそんな死んだ魚の目のようになってんのー!?
何を聞いても「今夜わかる」としか言ってもらえず、そのまま私達は街中を見て回った。
最初の広場とは違う、四角い広場に出る。向こうと違って、中央には大きな噴水があるせいかなんか和むー。
「ここは?」
「教会を建ててもらおうと思ってね。さすがにあれはこちらで勝手に建てられないし」
あー、手続きだのなんだの面倒臭いっていう話だよねー。聖地まで話を持っていかなくても、大司教座がある大聖堂があれば楽だって聞いた。
大聖堂、まだ建ててる最中だよね? となると、やっぱり話は聖地に持っていかなきゃならないのかー。
面倒そう、と思っていたら、ユゼおばあちゃんが懐からスーラさんを取り出した。
「ああ、ジデジル? 忙しいところ悪いわね。ちょっとお願いがあるのだけれど」
どうでもいいけど、ユゼおばあちゃんってばスーラさんを使いこなしてるよねー。
通話相手はジデジルらしい。そうか、大聖堂は建設中だけど、大司教区のあれこれはもうジデジルの管轄なんだ。
って事は、彼女に話を通せばオーケーって事?
「教会建設は、私達が船に乗っている間に進むでしょう」
「ありがとうございます、ユゼ様」
「どういたしまして」
本当、こういう仕事は速いよね、ユゼおばあちゃん。そして実務は他の人に割り振る……と。
街を見て回っても、まだ建物はまばらにしか建っていないから、ちょっと見応えはないよね。
でも広さはあるから、歩いているだけでお腹が空いてきた。時間もちょうど夕飯時。
領主様、今夜わかるってずっと言ってたけど、これからわかるのかな?
街の北の奥には、大きなお屋敷がある。代官の屋敷でもあり、賓客をもてなす為の屋敷でもあるんだって。
向こうの大陸から、王侯貴族が来る事もあるだろうから、まずここでもてなして、それから王都へ迎えるらしい。
ふうむ。いっそ豪華なホテルでも建てて、国内の貴族や富裕層も来られるようにしておくのも、手じゃない?
その辺りも、後で領主様に提案してみよう。まあ、貴族のあれこれはわからない事が多いから、金出して宿屋に泊まるなんて下品な事は出来ない、とか言われたらそれまでだね。
お金持ってる商人をターゲットにすればいいんじゃないかなー。
そんな事を考えつつ辿り着いた代官のお屋敷で、答えが待っていた。
「遅かったな」
……私の見間違いですかね? ここにいるべきじゃない人が目の前にいるんですけど。
「何だ? ボケッとして」
「いや、いやいやいやいや、何でここにいるんですか銀髪陛下!!」
まさかと思ったけど、一国の王様が航海で向こうの大陸に行こうとか思ってるんじゃないでしょうね!?
なのに、銀髪陛下は悪戯が成功したような顔で、にやりと笑う。
「その呼び方はもう間違いだ。王位は叔父上に押しつけてきたからな」
何ですとー!? あ! だからおじさん大公が王宮に呼び出されたのか!
顎が外れそうな程驚いていると、さらに奥から答えが出て来た。
「何事です? 騒々しい。あらサーリ、ようやく到着したのね」
ジジ様ああああああ!? しかも背後には侍女様方も!? そりゃジジ様が行くんなら、お世話する人が必要だもんね。何せやんごとないご身分の方だから。
あ、ジジ様+侍女様方三人+銀髪陛下……元陛下、で、五人……
領主様を見ると、死んだ魚の目で遠いところを見ている。
「お止めしたんだけどね……誰も聞いてはくださらなくてね……」
ああ、領主様の心労がちょっと察せられる。そりゃ誰もジジ様を止められないよね。銀髪陛下……面倒だから銀髪さんに戻しちゃえ。
銀髪さんはまだしもね。王様だったんだから、おとなしく王都にいやがれでってんですよ!
しかも、さらに奥から人が出てきた。今度はあんたか剣持ちさん。領主様が溜息を吐いている。
「陛下、フェリファーまで連れてきたんですか?」
「もう陛下じゃない。フェリファーについては、勝手についてきたんだ」
「私はカイド様の護衛ですから。どこまでもお供いたします」
じゃあ、マジで剣持ちさんも増えるのか。
「サーリ、頼めるかな?」
「まあ、いいですよ。確かにジジ様や侍女様方を普通の船に乗せる訳にはいきませんし、奥様も同様です。後は野郎三人が増えた程度、どうって事ないですって」
食料だの水だのは、今回の航海の為にあちこちで買い足していたから、あと二十人くらい増えても問題ないし。なんなら、航海中に戻ってどこかの街に買いに行ってもいいんだから。
こっちもじいちゃんやユゼおばあちゃんがいるからね。それに、ユゼおばあちゃんとジジ様って、何だか馬が合うようだから、長い航海の間のいい話し相手になるんじゃなかろうか。
「本当に済まない。船賃は弾むよ。それと、お詫びとしてゴーバルのバター三十樽でどうだろう?」
「やったー!!」
バターはいくらあってもいいものです!
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