第416話 臭いのはダメ

 ジデジルの方は何とかなった。私達がむこうの大陸に行ってる間、大聖堂建設地に建てた仮の宿泊所があるそうだけど、そちらで寝泊まりするらしい。


 なので、期間限定で例の温泉直行ゲートをそっちの部屋に設置しておいた。


「作業をする人達って、男性ばかりでしょ? 大丈夫?」

「問題ありませんよ。神聖魔法は防御でこそ、実力を発揮するのですから」


 そっか。神聖魔法って、筋力を上げたり速度を上げたり、治癒したりする術式が多いけど、最大は防御用の術式だったわ。


 しかも、ジデジルが得意としているのはいわゆるカウンターに当たる反射結界。


 これ、展開している間中、自分に加えられた攻撃を全て相手に反射するという怖いやつ。相手が強ければ強い程、反射した攻撃も強くなるというね。


 別名、強者殺し。誰だよそんな別名付けたの。


 でも、そんな結界があるおかげで、ジデジルの身の安全は保証される訳だ。


 ……反射の場合、女性を襲おうとした男性達は、どうなるんだろうね? 考えると怖いから、やめておこうっと。




 領主様に指示された通りの日付に、新しい港街へ入れるように準備する。もちろん、砦は亜空間収納の船の中にセット済み。


 砦はそのまま更地状態で置いて行こうかと思ったんだけど、例の木造の似非砦、あれを取り出して置いておく事にした。


 さすがに石作りの砦が木造になるんじゃショボく見えるかな? と思ったら、案外しっくりくるから不思議。


「このままでもいいかもしれんのう」


 じいちゃんもそんな事言ってる。うーん、いっそ今までの砦は船に入れっぱなしにして、似非砦はこのままにしておく?


 まーいっかー。航海から帰ってきたら、考えよう。


 出航時間が早いので、前日のうちに港街に入っていてはどうか、と領主様に勧められ、私、じいちゃん、ユゼおばあちゃん、それにブランシュとノワール、マクリアで向かう。


 結局、三匹は一緒に来る事になった。


「離レタクナイ」

「ピイイ」

「ピュイ」


 マクリア、また泣き声が少し変わってない? 成長する度変わるのかな。でも、ブランシュはそんな事、なかったんだよねえ。


 そういえば、ブランシュはいつ人の言葉を話せるようになるんだろう。


「ピイ?」

「何でもないよ」


 きっと、もう少し成長したら、話せるようになるんじゃないかな。それまではノワールに通訳をお願いすればいいしね。


 例のインフルもどき騒動の時以来だけど、あれからまた街の様子が変わってる。


「ほう、たいしたもんじゃな」

「ねー? もうすっかりじいちゃんの土人形、使いこなしてるよ」

「ほほう」


 街の区画も綺麗に整備され、中心地にはいくつか大きな建物が建っている。役場とか、そんな感じかな?


 街を眺めていたら、後ろから声がかかった。


「やあ、ようこそキッカニアへ」

「あ、領主様」


 ちょうど街の中央にいたから、見つけやすかったのかな。円形の広場の周囲に、中心を向くようにして大きな建物が九つ。どれも四階建て以上だ。


「大きな建物ですねえ」

「役場や交易関連の役所も入るようにしたからね。ここを中心に、向こうの大陸との交易が進む事を願っているよ」


 それ、万一計画がポシャったらどうするんだろう? 責任取れとか、言われないよね? 一応私、言い出しっぺだし。


 ちょっと内心で震えていたら、なんと領主様自ら街を案内してくれるという。


「といっても、見るところは殆どないがね」


 確かに。この広場の外側は、区画整理こそされているけれど、更地が広がってるもんなあ。


 あれ? でも前に来た時には、いくつか建物が建っていたような……


「ああ、それはもっと西よりの地区だよ。あの辺りは船大工やゼヘトが寝泊まり出来るよう、最初に建てた家があるんだ」


 なるほどー。そういや、前に来た時ってもっと端っこの方だったり造船所の辺りしか見ていないわ。


 領主様は、将来的にどんな区画にするかも考えて、整備させているらしい。


「広場から北は少し高級な店や富裕層が住まう区画、南は商業区画、西は港があるから倉庫や交易関連の商人が入る事を想定してるよ」

「へー」

「後は外から来た人達向けの宿屋を、西地区に作ろうと思っている」


 あー、あれかー。こっちの宿屋って、基本大部屋で雑魚寝なんだよねー。高級宿屋なんてないしな。


 あ、でも今提案したら、もしかして通るかも?


「領主様、ちょっとご提案が」

「何だい?」

「その宿屋についてなんですけどね」


 ついでに、今の更地状態からなら手を入れやすいだろうから、上下水道の考えも吹き込んでみる。


「ふむ、井戸から組み上げるのではなく、各施設に水を送る管を通す、と」

「それで、汚水も別の管を通って地下から浄水場へ送れば、街の臭さも軽減されるのではないかと」

「それに、個室形式の宿屋も面白そうだ」

「基本はベッド二台のツインで、数を減らして一台のシングルの部屋も用意しておくといいですよ」

「ふむ……その辺りは航海中に聞きたいのだが、構わないかね?」

「へ?」


 航海中って、もしかしてずっとスーラさんで通話するの?


「いや、明日の出発を前に頼みたかったから、今日のうちに来てもらったんだよ。君の船に、私と妻、それとあともう五人程、乗せてもらえないかな?」


 何ですとー?

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