第415話 説得

 日々仕事に勤しむジデジルの為に、彼女が単体で使用できる温泉直通のポイント間移動のゲートを作った。


 扉を開くと、向こう側は温泉って形。どこでもド……いや、何でもない。


 温泉は番号で選べるようにした。向こうにもジデジル専用のゲートを作ってあるので、行き来は楽。


 これで毎日温泉行って癒やせるよ。


「ユーリカ、私の分は?」


 ユゼおばあちゃん、いつの間に私の後ろに? それより、おばあちゃんは言う程疲れてないでしょうが。


 そう言ったら、悲しそうに俯く。


「聖地で長い事辛い思いをしてきたから、心身共に疲れが溜まっているのに……」


 う……そう言われると。でも、脇からじいちゃんがぼそっと一言。


「周囲の人間をこき使っておっただけじゃろうが」

「ふん!」

「うぐふぉ!」

「優しいユーリカなら、わかってくれるわよね?」


 もちろん、無言のまま高速で頷いてユゼおばあちゃん専用のゲートも作ったさ。


 まー、あれだ。聖地というしがらみがなくなったから、ユゼおばあちゃんも本音であれこれ出来るようになってきたって事でしょう。


 聖地でのユゼおばあちゃんは、いつも薄い笑みを貼り付けてる状態だったもんな……


 じいちゃんが言うとおり、周囲の人を使う事に長けていたのは本当だけど、その分責任はおばあちゃんが負うからね。


 周囲からのプレッシャーやらストレスは半端なかったと思うんだ。それは本当。


「ああ、やっぱり疲れに効くわねえ。腰と膝が楽になるわあ」


 ニコニコ顔で湯上がりのシャーベットを食べている姿を見て、いい事なんだと思う反面、もうちょっと周囲の事に関して手心加えてほしいなあと思うのも本当。




 温泉パワーもあってか、ジデジルの疲れは日に日に取れていっているようだ。その分、ユゼおばあちゃんが仕事を増やさないよう、じいちゃんが見張ってる。


 聖地には増員を申請したそうで、許可が下り次第派遣されてくるんだって。


 まずは完全に人手が足りていないホーガン領へ。そしてダガード全域へ。最終的には、デンセットに出来る大聖堂が管轄する大司教区全てへ。


 以前の教会の膿を一掃した際に大量の聖職者を破門にしたらしく、国内のあちらこちらはおろか、王都の聖堂ですら手が足りない状態なんだとか。


 破門にしたんなら、ちゃんと人員補充しておきなよとも思うけど、ちょうど同時期くらいに聖地への神罰執行とかもあったからね。混乱してたんだと思う。


 で、最近になってようやく落ち着いてきたという事もあり、増員の申請をしたそうな。教会も大変だのう。


 私は春になって温かくなってきたのもあり、検索先生の指示の元、国内のあちこちを素材採取しに飛び回っている。


 木材や石材、鉱石なんかも人が入れない深い山とかで採取するんだけど、他にもその地方特産のフルーツとか、ナッツとかを買ったりした。


 小さいリンゴのマルリーユがおいしくてね。サイズはサクランボを二回りくらい大きくした感じで、味は甘みが強い種。


 これ、たくさん敷き詰めてクラフティ作ってもおいしそう。そのままパイに入れてもいいかもー。夢が広がるね。


 そんな風に飛び回っていたら、いつの間にか航海に出る日が近づいていた。


 亜空間収納内には装備や資材、食材が山程入っているから、いつでも出航可能だよ。備えあれば憂いなしってね。




 さて、問題はジデジルです。ユゼおばあちゃんが話をつけるって事になってるけど、大丈夫かな。


 現在、角塔の居間ではその話し合いが行われているので、私はじいちゃんの研究室にお邪魔している。


「へえ、こんな風になったんだあ」

「そういえば、お主がここに入るのは初めてだったかの?」

「作ったのは私だから、どういう形かはしってたけど、その後じいちゃんがどういう内装にしたかまでは知らなかったから」


 研究室内は、マンガなんかで見る魔法使いの部屋って感じ。天井からはいくつもの植物が吊されて干されていて、棚には本がぎっしり、別の棚にはガラスビンやら素焼きのツボなんかが置かれている。


 机の上は、理科の実験室みたいな器具が所狭しと置かれていた。これ、蒸留用の器具? これも研究に使うのかな。


「おとなしくしていてくれるといいんだがのう」

「ユゼおばあちゃんに期待しておく」

「あれにか……」

「いやほら、ジデジルとは付き合い長いし」


 ユゼおばあちゃんは、私なんかよりもずっと長くジデジルと関わっている。それこそ、ジデジルが聖地に来る前からっていうんだから、長いよなあ。


 おやつの時間なので、今日は以前買ってきたマルリーユをたくさん入れたパイを出す。


「ほう、こりゃうまいの」

「うん、おいしく出来た」


 自画自賛。いいんだ、ケーキに関しては。


 マルリーユをサクランボの種抜きみたいなので種を抜いて、皮ごと砂糖で煮たものを、スポンジを敷いたパイ生地に入れて焼く。それだけ。


 アップルパイよりも甘い感じ。酸味を入れる為にレモン汁を入れてもいいかもね。


 スポンジを敷いたので、下のパイもべちゃっとせずにサクサクで食べられる。うまし。


 ちょうどおやつを食べ終わる頃、スーラさんでユゼおばあちゃんから連絡が来た。話し合いは終わったらしい。


 そろーっと角塔の居間に行くと、目を真っ赤に泣きはらしたジデジルがいる。うう、罪悪感が……


 私達の姿を見たら、またしても目に涙が盛り上がってきてる。


「さあ、泣いてばかりいないで、言う事があるでしょう?」

「うう……はい。神子様、賢者様、無事のお帰りをお祈りしておりますううううう」


 最後は泣き声になっちゃった……


 ごめんねジデジル。でも、あなたには大事なお仕事があるから。大聖堂建設、頑張ってね。


 そういう事に、しておこうっと。

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