第410話 そこ?

 船大工さん達は、皆首を傾げている。そんな中、ゼヘトさんだけがこそっと聞いて来た。


「何か、したか?」

「うん、ちょっと部屋の除菌と治癒を」

「治癒……君は、教会関係者だったのか?」

「あー、まー、そんな感じですねー。昔ですけど」


 嘘でーす。あ、いや、全くの嘘って訳でもなかったわ。一応、昔は聖地関係者でもあったっけ。


 今は向こうとは関係断ってるし、ユゼおばあちゃんやらジデジルやらは砦にいるけど、私が教会と関係してるって訳じゃない。


 色々首突っ込んではいるけどさー。


「それにしても、あれだけの人数をいっぺんに治療するとは……そうとう腕がいいんだな」


 そういえば、ゼヘトさんって瘴気の影響で私に襲いかかってきた事は、ろくに憶えていないんだっけか?


 憶えていたら、私が神子だってその口で言っていたから、何かしら記憶の片隅にでも残ってそうなものだけど。


 その後、ゼヘトさんから船大工さん達に話が通って、今回は領主様主導の下、教会関係者だった私が皆の治療に当たったって事になった。


 いやあ、これで春の航海は無事に出来そう。




 港街を去り際、同じような事が起こらないように街全体に結界を張って、病原菌やウイルス類が入り込まないようにしておいた。


 でも、今回の病気ってどこから入ってきたんだろう?


『近場に野鳥が棲息する水場があり、そこで感染源の鳥から魔獣へと感染、魔獣がこの街の水源に入った事により、ウイルスが人に感染したようです』


 マジで鳥インフルか! にしても、水源に入る魔獣ねえ……んじゃ、その水源も綺麗にしておきましょう。


 街からちょっと離れた森の中……って、ここ、あの襲撃者達が潜んでいた場所じゃん! 小屋もそのまま残ってるよ。


 水源は、この近くの泉らしい。あ、あった。うーん、調べてみたけど、生水飲まなきゃ感染しないっぽいなあ。


 でも、あの人達水より酒を飲んでるイメージ。


『一人でも感染者が出れば、そこから広がります』


 そうか。酒じゃなく水を飲む人達から広がったのか。やっぱり、一度湧かしてから白湯か湯冷ましで飲むように言うしかないかなあ。


『スペンサーさんを置いていけばいいのでは?』


 その手があったああああ! 何で忘れてたんだろう、私。スペンサーさんが提供する水は、内部で浄化殺菌済みだから、感染源にはならない。


 それじゃあ、ほっとくんも置いておこうか。その分、領主様にバターで請求しよう。いやゴーバルのバター、マジでおいしいから。


 一応スーラさんで領主様に確認。流行病が発生していた事、感染源に関する情報、その防ぎ方。


 最後に、感染防止の観点からスペンサーさんの導入を提案。


「ゴーバルのバターで引き受けます! 手入れ等はこちらでやりますし、万一故障した時はちゃんと修理しますので! あ、提供する飲料水等もこちらで安全なものを用意しますよ」

『……ゴーバルのバターを気に入ってくれて、嬉しいよ。あれも我が領の特産品だからね。では、バター二樽でいいかい?』

「もうちょっと色を付けてもらえると嬉しいですー」

『三樽でどうかな?』

「ありがとうございます! 早速設置してきます!」


 返事を待たずに通話を切って、早速港街に行く。スペンサーさんを置くのは、造船所とゼヘトさんが寝泊まりしているところでいいかな。


 造船所は広いから、複数台置いておこう。あ、その前にゼヘトさんに色々説明しなきゃ。多分、話が通じるのはあの人だけだと思うから。


「ゼヘトさーん。ちょっと説明したい事がー」

「え? 何かあったか?」

「うん、今回の病気の件でね」


 手短に、飲み水から感染が広がるって事を伝えた。


「飲み水……」

「一応、そっちの対策もしてきたけど、これから先口にするのはこのスペンサーさんから出されるものだけにしてください。あ、お酒も提供するんで、問題ないですよ」


 ちなみに、スペンサーさんで提供する酒類を出しているのは、領主様だ。元々この港街への食料の一部として確保していたんだって。


 ダガードは北の国だからか、酒豪が多いんだよね。そして職人はさらに酒好きが多い。


 だから、彼等を気持ちよく働かせる為には、酒を用意しておくのが一番なんだって。


 という訳で、スペンサーさんにもお酒を提供するようにした。温泉でも、未成年以外には出してるしねー。


 ミシアとかは、まだちょっと飲ませるのは早いと思うんだ。国の基準としては、軽いものならオーケーらしいんだけど。


 ちなみに、砦のメンバーの中で一番の酒飲みはユゼおばあちゃん。しれっとした顔で、ボトル一本くらい平気で開けるからね……


 ゼヘトさんから説明してもらって、実際彼等の前にスペンサーさんを出してみる。


「おお! 何だこの器!?」

「透明だよ……しかも凄い綺麗だ……」

「これ、ガラスか? こんなガラス、見た事ないぞ?」


 ……木のコップじゃ味気ないかと思って、スペンサーさんから提供する飲み物に関してはガラス器を使ってるんだけど、ここに食いつくとは。


 まあ、そのうちもっと凝った装飾のガラス器を、ジジ様とか領主様辺りに売りつけようっと。


 夏場のガラス器って、見た目から涼しげでいいよねえ。ダガードは夏が短いけどさ。

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