第411話 開眼

 ガラス器は、船大工さん達に「譲ってくれ!」と言われましたが、希望販売価格を伝えたところ、青い顔になって引いていきましたとさ。


 そりゃね、王侯貴族に売ろうってんだから、高額にもなるってもんです。


「……そんな高価な器、我々が使っていいのか?」

「あ、平気平気。ちゃんとスペンサーさんが回収するし、欠けてもこっちで修復するから。お金は取らないよ」

「なら、いいんだが……」


 ゼヘトさんは、まだ納得いっていない様子。船大工さん達みたいに、無邪気にガラス器を眺めてあーだこーだ言ってていいのよ?


 船大工のおっちゃん達は、職人という共通項からかガラス器の製造方法にも興味があるらしい。


 えーと、ガラスが透明になるのは、不純物が入ってるからだっけ? 検索先生に言われるままに作ったから、実はよくわかってなかったりする。


 一回作っちゃえば、亜空間収納内で作成可能だからさ。何度も手作業はしないのよ。


 あれ、何で一回は手作業で作らないとならないのかね?


『亜空間収納内での作業には、収納の持ち主の感覚が使われるからです』


 ……よくわかんない。


『……収納内では、持ち主が行った動作の再現が行われているだけです。オプションであれこれ付ける場合もありますが、基本動作は再現になります』


 つまり、再現する元がなければダメって事? うーん、わかったような、わからないような。


『では、そういうものと認識していてください』


 検索先生にさじ投げられた。


 スペンサーさんとほっとくんを必要数設置したので、水源から来る水は口にしないよう言い含めて港街を後にする。砦帰るついでに、遠回りして温泉入っていこうかなー。


 広いお風呂は最高だね。いや、砦のお風呂もそれなり気合い入れて作ってあるけどさ。


 砦には浴室がいくつかあって、その日の気分で使い分けてる。大人数で入れる大きな展望風呂もあるし、一人でゆっくり入るようの猫足バスタブもある。


 そのうち魔法でジェットバスを再現してみようかな。風を操る魔法を使えば、何とかなりそう。


 各温泉に設置して、全身をほぐしてもらうのだ! 夢が広がるね。




 砦周辺も、雪解けが進んでいる。日が長くなって、確実に季節が移っているんだなって感じ。


 王宮の方は、春からの航海に向けて忙しいそう。この間、領主様からスーラさんで愚痴が来た。何も私に言わなくても……


 多分、領主様の立場だと、他に愚痴る相手がいないんだろうなあ。お疲れ様でーす。


 じいちゃんは、最近研究室に籠もりきりで食事とお茶の時間以外顔を見ない。何を研究してるんだろう。


 ユゼおばあちゃんとジデジルは、二人で毎日忙しそうに手紙を書いている。聖地関連と思われ。


 ホーガン領に新しい教会を建てないといけないから、その辺りのあれこれかと。


 人員は聖地から派遣されているので、春になったら各地で人員が中心になって建設ラッシュになるそうな。


 で、私。


「焼けたー」


 領主様からもらったゴーバルのバターで、連日お菓子を焼いている。その日に食べる事もあれば、三、四日置いておく場合もあり。


 春の航海用に作り置きもしてる。いや、船の中に砦を丸ごと入れるから、毎日焼けばいいんだけどさ。


 不思議と、何もしたくない日もあるんだよね。でも甘い物は食べたい。そういう時の為に、亜空間収納にお菓子のストックは欠かせないのだ。


 今日焼いたのはナッツクッキー。ナッツ多めでぎっしりと。アーモンドとクルミが中心で、カシューナッツも入ってる。


 名称は違うけど、検索先生によれば地球のものとほぼ同じなんだって。ほぼって事は、一部は違うって事なのかね? おいしいからまーいっかー。


 あと、この季節はイチゴが温室で鈴なりなので、イチゴのタルトとショートケーキを。どっちも大好きー。


 タルト台は、よく使うので亜空間収納にストックがある。というか、なくなりそうになると検索先生から連絡が入るので、その度に大量に作るのだ。


 タルト台は、アーモンドクリーム入りとタルト生地のみのものと二種類用意してある。今日はアーモンドクリーム入りの方。


 カスタードクリームを作ってタルト台に絞る。バニラはないので、合成で作ったエッセンスもどきで香り付け。


 一応、口にしても問題ない成分で作ってあるから、大丈夫だと思うけど。でも合成って聞くだけで、なんとなく美味しくなくなる気がする……


 早くバニラを私に!


 ちょっと固めに作ったカスタードクリームを絞り、その上に切ったイチゴをそれっぽく飾る。縁の部分を綺麗に整えると、高級そうに見えるから不思議。


 出来上がったものは、亜空間収納へ。さて、次はショートケーキ。


「ふっふっふ。私は開眼したのだ!」


 今までスポンジにクリームを塗るのが下手すぎて、デコレーションケーキを避けていたんだけど、いい手があったんだ。


 魔法で塗ればいいじゃない。


「いや、楽ちん楽ちん」


 魔法でスポンジを宙に浮かせて、カットしてクリーム塗ってイチゴ挟んで、それを二回繰り返す。


 最後に全体にクリームを均一に塗って、上にクリームでちょっとデコレーションしてから粒のイチゴを乗せる。


「出来たー!」


 やったよ。スコップケーキからの脱却だ。今まで気づかなかった自分に小一時間説教したいくらい感動してる。


 これで他のフルーツを使ったデコレーションケーキも簡単に作れるのがわかった。次は桃かなあ。


 カカオが手に入ったら、チョコバナナのケーキを作るんだー。

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