第409話 インフルっぽい
聖地から無事人員が派遣されたので、本日ユゼおばあちゃんとジデジルは砦に戻ってくる事になりました。
お仕事終了のお祝いを兼ねて、八番湯にきてる。
「ああ、疲れが取れるわねえ」
「本当に……染みるようです……」
うん、ユゼおばあちゃんは聖地時代に溜まった疲れだね。ジデジルのはホーガン領での疲れだと思う。よく頑張ってたからね。
いや、マジでユゼおばあちゃんに馬車馬のように働かされていたと思うんだ。大丈夫かな。見たところ、過労には見えないけど。
まあ、温泉の効能が大分アップしているそうだから、浸かっていれば疲労も取れるでしょう。
『ここの湯は飲用も出来ますから、飲んでも効果があります』
そうなんだー。……でも、なんとなく嫌だから、ジデジルに言うのはやめておこうっと。
ホーガン領は、これから先も色々と大変そう。でもここから先は、国がやるから私はノータッチ。
ユゼおばあちゃん達は、教会関連でまだあるのかなー。多分、領内に作る教会のあれこれも、ジデジルの管轄になると思う。
大変だけど、基本彼女は優秀な人だから多分平気。ユゼおばあちゃんもそれがわかっているから、馬車馬云々を言うんだろうし。
そして、春になったら向こうの大陸に行くんだ。飛行船を使えば楽だけど、それだと交易にはちょっとね。
基本的に私しか使えないし。積載量という意味では、そこらの船の比じゃないくらいに積み込めるけどさ。
やっぱり、普通に船で運ぶ方が無難だと思う。嵐に遭わないようなルートを見つけるくらいしか、手助けは出来ないね。
という訳で、検索先生お願いします。
『安全性の高い航路は、既に検出してあります』
おお! さすがです検索先生。これでカカオとバニラとメープルが。
『その前に、新しい港街で軽い問題が発生しています』
何ですとー!?
スーラさんで領主様に連絡をしてみると、向こうにはまだ報告が上がっていないって。
『とりあえず、現場を確かめてきてくれないか?』
「わかりましたー」
報酬は、ゴーバルのバターでよろしくです。港街にはポイント打ったっけ? 最近、意識してないで打ってる事があるからなー。
『代行して打つ場合があります』
検索先生がやってくれてましたー。という訳で、港街にもポイント間移動で行けるよ。
相変わらず雪が凄いけど、街の中はそれほどでもなかった。あ、土人形達がせっせと雪かきしてる。ゼヘトさん、操るのがうまいなあ。
で、そのゼヘトさんはどこにいるやら。
『造船所にいるようです』
船大工さん達と一緒か。とすると、問題が起こったのは船の方? それとも船大工さん達の方? 大穴でゼヘトさんが過労で倒れたとか?
『船大工の数人が、肺炎で倒れたようです』
何ですとー!?
慌てて造船所に向かうと、入り口を警備しているはずの船大工さんがいない。よく考えると、これも変だよね。何で大工が警備するんだっての。
まあ筋骨隆々でそこらの盗賊程度じゃ歯が立たなそうだからなあ。剣を持った相手と闘っても、素手で勝ちそうだし。
そっと造船所の中に入ると、中はざわついていた。私が入ってきた事に気づいた人も何人かいて、奥に向かう者、こちらに来る者とで別れている。
「おい! ここは子供の来るところじゃないぞ!」
「領主様……コーキアン辺境伯に頼まれて、様子を見に来ましたー」
「へ? 閣下に?」
「ああ、彼女はいいんだ。奥にいるゼヘトさんのところまで連れて行ってやれ」
別の船大工さんがそう言って、私をじろじろ見ている若手……だよな? の船大工さんに声をかける。
若手の大工さん、胡散臭そうな目でこっちを見てるよ。
「本当にいいんですかい?」
「いいからとっとと行け!」
「へ、へい! おい、こっちだ」
奥へ行く間にも、そこかしこで立ち話をしている大工さんに紛れて、脇でへたり込んでいる大工さんがたくさんいる。
これ、たちの悪い風邪が流行っているのかな?
『感染力が高く、また重症化しやすい風邪のようです』
インフルみたい。ついでだから、この場にも浄化と治癒の力を振りまいておこう。
そっとやったはずなのに、一挙にその場の空気が清浄化し、座り込んでいた人達が首を傾げながら自分の体を見下ろしつつ立ち上がる。
うん、元気になって良かったね。
道すがら浄化と治癒を垂れ流していたら、奥に辿り着くまでにあちこちから笑い声が上がるようになった。
「なんだ?」
案内している若手大工さんが、後ろを振り返って怪訝な顔をしてる。大丈夫だよ、悪い事は起こっていないから。
早めに対処出来たから、死亡する人がいなくて本当に良かった。肺炎まで行っちゃってる人がいたけど、一発で治したから問題なし。
脳症とかも心配だよね。でも、調べたらインフルエンザウイルスではなさそうだから、大丈夫っぽい。新種のウイルス?
『こちらにはよくあるウイルスです。今回は変異して人に感染するようになったものです』
こっちにもあるのか、変異種って。
大分長い事歩いた気がするけど、ようやくちょっと大きめの扉の前に辿り着いた。
「ここにゼヘトさんがいる。中は病人ばっかりだから、気を付けろよ」
「大丈夫でーす」
何せ、ここに入る前にしっかり結界で覆ったからね。それに、ここからでも中に向けて浄化を使ってる。
にしても、部屋の中にウイルスが充満してるようで、薄い浄化じゃ一発で綺麗にならないな。
ま、いっか。中に入ったらちょっと強めのを使おう。あと、治癒もね。
扉を開けると、大きな部屋の中にベッドがずらりと並べられている。窓もない、薄暗い部屋。明かりは天井の辺りに小さなランプが一個。
ここ、倉庫か何かだな。そこを緊急の病室に仕立てたんだと思う。こんな場所に病人押し込めちゃだめなのに。
とりあえず、浄化と治癒を少し強めに。体力が心配だから、そっちを強化する術式もプラスして。
ほんの数秒で結果が出た。あちこちのベッドから、訝しむ声と共に起き上がる、筋肉だるま達。
こんだけの体を持っていても、ウイルスには負けるんだな。
「あ! あんた」
「あー、ゼヘトさん見ーつけた。領主様から言われて、様子見に来たよー」
「閣下から?」
領主様イコール閣下で通じるこの楽さよ。とりあえず、全員元気になったと思うから、この部屋から出ようか。
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