第408話 すこしふしぎ
冬のダガードは、雪雪吹雪雪雪吹雪吹雪雪。毎日がこんな天気。お日様、しばらく見ていないなあ。
こんな天気だとやる事もそうないので、温泉に入り浸ってる。
『極楽ですうううう』
検索先生も喜んでいるようで、何より。実体がないのにどうやって楽しんでいるのか謎だったけど、答えは単純で、私を通して楽しんでいたんだって。
「温泉楽しむ為だけに、そのうち実体化しそう」
そう笑ったけど、検索先生からの答えは意外だった。
『私単体での実体化は許可されていません』
許可って、誰からもらうんだろう?
『神です』
さようでございますか……
温泉は主に一番湯を楽しんでいる。ここからだと、ツオト村も近いしね。
ユゼおばあちゃんと一緒に、ジデジルも夜だけ入りに来る事もある。忙しく働いているから、少しは疲労回復しないとね。
「ここの温泉に入ると、疲れが消えてなくなります!」
それは良かった。ここの泉質は疲労回復に効くからね。ユゼおばあちゃんも、長年聖地で貯め込んだ疲労を回復させるといいよ。
『お報せです。一番湯は神子の影響を受けて、疲労回復の機能がアップしました』
マジで!?
『温泉に仕掛けた神子由来の浄化の術式を複数回受けた関係で、神子の力を吸収したようです』
えー? 何かやな感じー。それって私の成分が湯に溶け出したみたいじゃん。
『否定しません』
そこは否定してよ! 否定してくれないと、この先温泉に入れなくなりそう。
『では否定します。神子の成分ではなく、神子の神力が湯に影響を与えたようです』
……本当かな。ちょっと検索先生の事が信じられない。
『疲労回復の効果が上がった事を、素直に喜びましょう。ユゼもジデジルも、疲れが取れやすく、また今後疲れにくくなるはずです』
そうなの? それはいい事だけど、何か温泉に変な効能までついてちょっと怖い。
湯上がりには、イチゴのジェラート。寒い時に湯上がりでほかほかのところ、食べるアイスは最高!
室内どころか、敷地内全体を結界で覆って温度湿度調整しているしね。
「濃厚なのにさっぱりしていて、おいしいわあ」
「至福です……」
うん、ユゼおばあちゃんとジデジルにも好評です。ジェラート各種も、ほっとくんのレシピに追加しておこうっと。
温室でフルーツを育てているおかげで、スイーツ系レシピが充実してるなあ。
あ、今度またあの果物天国な街に行って、いろいろ買いあさってこようっと。
長い冬が、そろそろ終わりそう。毎日のように降っていた雪が、ここ数日は雨やみぞれで、数日ぶりにお日様も顔を出した。
「おお、久しぶりの晴れ」
冬の間は畑もお休みにしていたから、日照時間は気にしていなかったけど、やっぱり天気のいい日は気分がよくなるね。
まだまだ分厚く積もった雪は消えそうにないけど、こうやって天気のいい日が続けば、雪解けも進むでしょ。
ツオト村の治療院でも、最後の怪我人が退院するって。そのタイミングで一度治療院を閉めて、聖地から人材を派遣してもらうらしい。
本来は教会を建ててそこに常駐する為の人材らしいけど、教会を建てるにも雪解けを待たないとならないから、しばらくは治療院を教会代わりにするんだってさ。
治療院も、仮設で各村や街に作る方向で話がまとまってるそうな。いつの間に……まあ、その辺りはユゼおばあちゃんと領主様がうまく進めるんだろうな。
温泉パワーなのか、ジデジルはかなり精力的に仕事をしているらしく、ホーガン領では救い主とか言われてるんだって。
本人的には嬉しくないそうだけど。
「何で?」
「私が彼等を救った訳ではありませんよ。神子様が尽力されたところに、ほんの少し足したに過ぎませんもの」
そうかなあ? 各地の怪我人や病人を癒やして回ったのはジデジルなんだから、救い主は間違っていないと思う。
私がそう言っても、本人は首を横に振るばかり。そんなジデジルを見て、ユゼおばあちゃんが笑ってる。
「まあいいではないの。俗世の人にとって、身近な救い主が必要な時もあります。これも神に仕える者の務めと心得なさい」
「はい、ユゼ様」
ジデジルって、ユゼおばあちゃんにこき使われても文句一つ言わないし、相変わらずおばあちゃんの言う事には絶対服従だよなあ。
ユゼおばあちゃんの方も、使い潰せだの馬車馬のように働かせろという割には、ジデジルの事をよく見ているし気にかけてもいる。
私からすると、ちょっと不思議な関係だわ。
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