第407話 チョコ、バニラ、メープル

 砦に戻ってじいちゃんにあれこれ報告して、明けて翌日、スーラさんで領主様にご連絡。


『ああ、あれに関してはこちらから頼もうと思っていたところだよ』

「そうなんですか? じゃあ後の面倒なあれこれはよろしくです!」

『……君、最近色々と隠さないようになってきたね』


 えー? そうかなあ? 女の子には、色々と秘密があるのに。


 それはともかく、後で寸法とか形状とかを書いた板を送る事に決まった。紙じゃなくて板なのは、庶民は何かを書き残す場合高い獣皮紙などではなく、安い板きれや大きな葉っぱを使うから。


 何なら、亜空間収納の中には妖霊樹の端材を使った紙がうなっているけれど、これは出しちゃダメってじいちゃんが言うし。


 ちなみに、書くのは検索先生。魔法で板に焼き付けるんだ。ちょっとしたプリンタだよね。


 それを王宮に届けに行って、後は丸投げ。楽って素晴らしい。




 その後も、ちょくちょくツオト村の治療院には様子を見に行った。こっそりポイントを打っておいたので、ポイント間移動を使っていたのは内緒だ。


 ユゼおばあちゃんはうまくジデジルをこき使っているらしく、疲れは見られない。いいんだか悪いんだか。


 会いに行くたび、少年伯爵が元気になっていってる。どうやら、ユゼおばあちゃんとジデジルが治療院丸ごとを対象に、毎日浄化をしているんだって。


 そのおかげで、瘴気の影響が強かった少年伯爵の体が回復していった、という訳。改めて、浄化の力って凄いんだなあ。


 二人の浄化が有効なら、私がやれば良かったとか思ったけど、それは検索先生から止められた。


『神子の浄化は二人のそれよりかなり強力なのです。最小出力でも、彼女達の数十倍の威力になります』


 ……神子の力って、桁外れなんだねー。何か仲間はずれになった気分でしょんぼりだよ。


 ただ、広範囲に影響が出ていた土地を穢した瘴気の方は、私が一発で消したので回復も早いだろうという話。


 瘴気で穢れると、土地そのものの力が低下しちゃって、農作物とか酪農とかに影響が出る。もちろん、人間にも。


 どうもね、ホーガン領で使われたあの呪物は、結果的に土地まで穢して人の住めない場所にするつもりで使われたんじゃないかって。


 この考えは、ユゼおばあちゃんのもの。


「人に影響を与えるのなら、あの呪物の瘴気では薄過ぎます。ですが、それを何年も同じ場所に起き続ける事によって、周辺の土地が穢れ、やがて人にもその影響が出始めるのです。だから、あの呪物の目的の一つに、土地を穢すというのも含まれていたのではないかと」


 それはそれで厄介な事だ。どのみち仕掛けた連中か組織かは、見つけ次第ぶっ潰すけど。


 一応、候補がいるのは向こうの大陸なんだよねえ。そんな話をしていたら、ユゼおばあちゃんの口からとんでもない言葉が出て来た。


「向こうの大陸に行くのは、春になってからなのよね? 私も行きたいわ」

「え!?」


 マジですか!?


「あら、そんなに驚くような事?」

「いや、そりゃ驚くでしょうよ。別に、ユゼおばあちゃんと一緒に行きたくないって訳じゃないからね? 大体、大聖堂はどうするの?」

「大聖堂建設はジデジルの仕事ですよ。私はその手伝いをしているだけ。本来なら、あの子一人でその任に当たるべきです」


 ……言ってる事は正しいんだけど、何せ使い潰せって言ってる人の言葉だからなあ。


 それに、ジデジル一人だけ居残りってわかったら、絶対騒ぐでしょうよ。


「置いてけぼりにされたジデジルが、泣くかも」

「泣かせておきなさい。あの子は少しあなたに依存しすぎです」


 ユゼおばあちゃん、厳しい。いや、そう言われるだけの事が、ジデジル側にあるとか? ストーカーだもんなあ。


 私の船に乗る分には、誰を乗せるも私の判断のみで問題ない。一応国が仕立てる船団と一緒に航海はするけれど、個人で船出して向こうの大陸に行くってだけの話だし。


 何なら、海を行かなくても空からでもいいんだけど。一度、飛行船で行ってるしねえ。


 ただ、バニラやカカオ、メープルは見つけ次第、定期的に輸入してもらう必要がある。国内に広めたいから。


 自分で使うだけなら、それこそ生産している土地にポイント打っておけば、行き放題買い放題。ついでに苗木を手に入れて、温室で栽培という手も。


 ああ、もう少しでチョコレートが食べられる。ココアもホットでもアイスでも。


 チョコフレーバーって、お菓子には多いし使い勝手がいいんだよなあ。とりあえず、チョコレートケーキは絶対。うん。


 ガトーショコラではなく、チョコレートクリームを使ったケーキ。ナッツと一緒にスポンジで挟めば、魅惑のチョコレートケーキに。


 やば、想像しただけでよだれが。


「……何を考えたかは、大体予想がつくけれど、そういう姿は外で見せてはダメよ?」

「はい……」


 ユゼおばあちゃんの前だったので、しっかり見られてました。

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