第405話 そりゃ誰でも楽な方がいい

 三人とも、顎が外れそうですよー。


「いや、待て待て待て。君が船を作るのはわかっていたが、砦を入れるというのはどういう事だい?」

「いくら大型船を作るといっても、砦を移築なんて出来る訳ないだろうが!」

「馬鹿馬鹿しすぎて話にならん」


 領主様も銀髪陛下も剣持ちさんも、酷い言い草だよね! 出来るし馬鹿馬鹿しくないし、どういう事だって言われてもその通りだよとしか言えないよ!


「サーリよ、実験は成功したと言っておったな」

「うん、ちゃんと出来た」

「そうか」


 じいちゃんが優しく頷く。うん、ちゃんと出来たよ。褒めて褒めて。


「察するに、実験というのは砦の出し入れに関する事かね?」

「あー、まあそんなもんです」


 実際は、入れたはいいけど元の位置に戻せないと困るので、ちゃんと狙った場所に狙った形で出せるか、という実験。


 船の拡張空間での住み心地とかは、飛行船の時に散々体験したので大丈夫。


「それにしても、何でまた船に砦を入れようなんて思いついたんだ?」

「航海中も、砦の生活が出来るようにですよー」


 当たり前でしょうに。変な事聞くね、銀髪陛下って。この砦には、私が生活しやすい工夫があれこれと盛り込まれているのだ。


 まあ、今回木造で作った似非砦でもいいじゃないかとは思うけど、やっぱり住み慣れた我が家に帰りたいじゃない?


 普通は船の中でそんな事は出来ないんだけど、魔法なら出来るんだから、やらない訳がない。


 さー、これで航海中もいつもと変わらない暮らしが出来るー。


 銀髪陛下達は、私の返答に何だか驚いているんだけど。


「それだけの理由で、船に砦を移築するだと?」

「信じられん……」

「さすがは神子様……と言ったところかねえ。ははは……」


 そんなにおかしな事、言ってるかなあ。住み心地、大事だよ? それにこっちの世界の船って、木造の帆船でしょ? 日々の生活が大変そう。


 お風呂は毎日入りたいし、トイレも綺麗で臭わないタイプのがいいし、ベッドだって普段使い慣れてるものの方がいいじゃない。


 船も色々考えて、丸ごと結界で覆って波の影響を受けないように作ったしね。これはいい素材を集めた結果なんだ。


 素材の場所を的確に指示してくれて、いつもありがとうございます検索先生。


『どういたしまして。カカオとバニラとメープル、楽しみですね』


 本っ当楽しみ。




 三人はその後、何だかフラフラしながら帰って行った。あ、帰りはじいちゃんが絨毯で送っていったよ。王宮までだって。


 それにしても、砦の移築、やれば出来るもんだなあ。こうなると、地下室を作らなかったのは良かったのかも。


 地下まで作ってたら、砦が建ってる丘をごっそり移築する事になっただろうしね。


 あ、丸塔の上にある温室はもちろんの事、第二区域にある畑も全部持っていく予定。あ、聖針樹も持っていく事になるかー。


『あれは持っていった方がいいです。向こうで植樹しましょう』


 そうなの? ……もしかして、瘴気対策?


『そうです。神子の気を受けて、聖針樹は瘴気に対する能力が飛躍的に向上しました。もはや聖針樹ではなく、別の種になっている程です』


 マジで? ちょっと見てこよう。……あ、本当だ。「聖浄樹」ってなってる。


『植えておくと、成木の半径十メートルを緩やかに浄化します』


 ……はて、何か昔、そんな話を聞いた事があるようなないような。何だったっけ?


 まあいっか。とにかく、向こうの大陸のヤバそうな場所にこれを植えていけば、浄化完了でいいかな?


『というより、ヤバそうな場所はとっととその場で浄化しましょう。聖浄樹はその後に植樹するべきです』


 手抜きを叱られました……




 冬の間は大聖堂建設が止まるとはいえ、ユゼおばあちゃんとジデジルがツオト村に行きっぱなしなのは寂しいなあ。


 いや、ジデジルはいっそ行きっぱなしでもいいか。ユゼおばあちゃんがいないのは、本当に寂しい。


 私がツオト村から戻って早一週間。


「よし、ユゼおばあちゃんの顔を見に行こう!」


 どうせ今はデンセットにも行かないしね。護くんが見せてくれたデンセットの映像、凄かったもん。


 壁の外には吹雪いた雪が積もりに積もっていて、街中にも降り積もった雪があちこちに。


 日中雪が止んだのを見計らって、住民総出で雪かきしてた。護くんには除雪機能を付けたバージョンがあるから、送ろうかなって思ったけど。


「やめておいた方がええ」


 早速じいちゃんからダメだしをもらいました。


「そうなの?」

「人間なんてものは、皆弱いんじゃ。一度楽を憶えると、大変な時には戻れんものよ」


 んー、それはなんとなくわかるかも。船に砦を移築するのは、結局そういう事だよね。


 今護くんを貸して楽が出来ても、この先ずっと貸せる保証はない。だから、雪かきが大変でも、安易な手出しはしちゃだめって事で。


 あ、でも魔法を使わない道具なら、いいのかな? ほら、豪雪地帯で使われている除雪用の道具とか。


 これをじいちゃんに相談して、実物を見てもらったらオーケーがもらえた。ので、早速デンセットへ……の前に、領主様を通した方がいいってさ。


「おそらく組合も機能しておらんじゃろうて」


 なるほど。そこで領主様の出番という訳か。トップダウンで使うように言われれば、従わざるを得ないし、使ってみれば便利さはわかるでしょ。


 と言うわけで、領主様にお出ましいただき、除雪用の道具を売った。いや、無償はダメってじいちゃんと領主様両方から言われたからさ。


 結果、デンセットでは除雪が少しは楽になったんだとか。良かった良かった。

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