第404話 不気味に静か
砦に戻って、早速じいちゃんに実験成功の報告を。
「じいちゃーん! 実験成功したよー……って、あれ?」
何故か角塔の居間には、領主様と銀髪陛下と剣持ちさんがいる。ついこの間、治療院で別れたばかりなはずじゃなかったっけ?
「おお、お帰りサーリ。お邪魔しているよ」
「えーと、ただいま? です」
まるでここが自宅のようにくつろぐ領主様。何かよくわかんないけど、さすがだわ。
でもこの三人、何しに来たんだ?
「それで、今日はどういったご用件で?」
「この間の話を、詳しく聞きたくてね」
この間の話……呪物の事と、瘴気が向こうの大陸にあるって事かな? 確認してみると、そうだって。
一応、領主様には呪物に聖地の技術が使われている事と、邪神崇拝はまだ伏せてある。ユゼおばあちゃんに判断を仰ごうと思ってさ。
こんな事なら、昨日のうちにおばあちゃんに確認しておけば良かった。でも、いきなり来るとは思わなかったもんなあ。
「向こうの大陸の、どの辺りにどの程度の瘴気が溜まっているのか、知っておいた方がいいと思ってね」
もしや、瘴気のある国には行かないようにする為かな? 聞いたら、違うってさ。
「いや、瘴気があるとわかっている国なら、いくらでも交渉の仕方があると思ったんだよ」
私の浄化能力を当てにしてるな!? まあ、ぼったくりにならないのなら、手を貸すくらいいいけどさ。
「領主様、もしそういう国があっても、ほどほどにしてあげてください」
相手が可哀想だから。そう言ったら、領主様が顔を曇らせた。
「君の中で私はどういう存在になっているのかね?」
「悪徳宰相なんじゃないか?」
「陛下……」
いや、悪徳とまでは思いませんけど、やり手すぎて怖いとは思う時がありますよ。言いませんが。
「それにしても、あんな呪物を誰が何の為に作ったんだ?」
ギク。誰が、という辺りは今知られるのは困る。聖地を偏見の目で見られるのは、ちょっと勘弁。
いや、少し前のあそこは、確かにどうしようもない場所だったけど。それでも、ユゼおばあちゃんが踏ん張って支えていた場所だから。
あとはなあ、今更邪神崇拝の一団がいますーなんて言われても、信じてもらえないような気もするし。
世間一般には、邪神は「再封印」された事になっている。だから崇拝している一団も、復活させられると信じているのかも。
でも、本当は違う。邪神はこの世界のどこにも存在しない。邪神に似たものは、この先生まれるかもしれないけど。
『有り得ません』
そうなの?
『邪神が現世に出現したのは、まだこの世界が未熟だったせいです。神の一瞬の隙を突き、他世界から流れてきた悪意の塊が邪神となりました』
お、おお。そんな裏話があったんだ。
『現在、世界は安定し、神の力が行き届いています。邪神がまき散らした瘴気を完全浄化し終われば、同じような存在が生まれる事は有り得ません』
それはやっぱり、私に浄化を頑張れという事ですかね?
『あちらの大陸に、カカオとバニラ、砂糖楓の木を発見しました』
マジで!? バニラ、カカオに加えてメープルシロップも!? パンケーキには、メープルシロップ派なんだよねえ。
あと、お菓子にも色々使えるし。よし、何だかやる気が出て来た!
「頑張るぞー!」
「な、何だ?」
あ、ごめん銀髪陛下。脳内で検索先生と話していたから、その延長でつい大声出しちゃった。
「はっはっは。何だかよくわからんが、頼むよサーリ」
「任せてください!」
バニラとカカオとメープルシロップの為なら、完全浄化くらいやってやるわ!! 待ってろよ! 向こうの大陸!
その後、春の航海のスケジュールが話された。
「冬の間に準備をして、春になったらすぐに出発する予定だ」
「了解でーす。そっちは誰が行く事になったんですか?」
「私が船団長を務めるよ」
「え!?」
「何だね? 私が行ってはおかしいとでも?」
「えー、いやー、それはそのー」
だって、領主様って自分の領地以外にも、国のあれこれにも関わってる偉い人だよね? 向こうの大陸への航海って、二、三週間程度じゃ終わらないよ?
そんな長い間、国や領地から離れても、大丈夫なのかな。
「大体、向こうとは交易の交渉をしなくてはならないのだから、私が行かないで誰が行くというのかねえ」
その辺りは知りませんけどねえ。
そういえば、銀髪陛下が静かだな。てっきり「自分も行く!」とか言い出すと思ってたのに。
「……何だ?」
「何でもないでーす」
ついじっと見ちゃった。静かな銀髪陛下って、何だかイメージに合わないなー。最初はそうでもなかったはずなんだけど、いつからこうなった?
「そういえば、入ってくる時に実験がどうのと言っていたね? 一体何の実験をしたんだい?」
えー? それ聞いちゃいますー? ちらっとじいちゃんを見ると、軽く頷いている。言ってもいいって事だな。
「実は、自分で作った船に砦を丸ごと入れようかと思いまして」
「はあ!?」
三人の声が、綺麗に合わさったねー。
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