第403話 木製の似非砦
丸塔の脇に作ったじいちゃんの研究室で、二人して唸る。
「ううむ……船に入れるのはいいとして、問題は元に戻す方法じゃな」
「やっぱり、そうだよねえ」
ただいま、昨日考えた案を実行に移すべく、二人で試行錯誤中。
亜空間収納内で作った私の船の中に、砦を持ち込めないかと思って。
空間拡張自体は、もう確立された技術だからいいんだけど、問題なのはさっきもじいちゃんが言ったように、元に戻す事。
何も船に乗せたら乗せっぱなしって訳じゃないからさ。航海から戻ってきたら、ちゃんと元あった場所に戻したいし。
「うーん、ポイント間移動のように、敷地と砦の建物それぞれに対応するようポイントを打っていって、戻す時はそれを目指して出す……とか?」
「そのくらいしか、思い浮かばんのう。いちど、似たような大きさの建物をでっち上げて、実験してみてはどうか?」
その手があったか! でっち上げるだけなら、そんなに時間かからないしね。
しかも、今は冬。どこも雪に埋もれていて人の移動がないから、そこらで実験しても人目につきにくい。
よし、そうと決まったら早速実験だ!
手持ちの木材は実験に使うのはもったいないので、最終的に薪にしてもいいような木材を伐採しに行く。
こんな事なら、少年伯爵の領に卸す薪、もっと多めに伐採してくれば良かった。
伐採に来たのは南ラウェニア大陸。ポイント間移動を使って、あっという間に来た。
以前伐採したあたりは植樹したばっかりなので、まだ木材に使えるような木にはなっていない。
『魔法で成長促進しますか?』
本当、何でもありだな、魔法って! 便利なのでお願いします!
検索先生が出力や術式の補助をしてくれるので、私は指定された場所に魔力を注ぐだけでオーケー。何て便利。
植樹したばかりの苗木がぐんぐん育っていく姿は、早送りの動画を見ているみたい。
魔法で一気に成長させるからか、どの木もまっすぐに伸びていく。おお、いい木材が手に入りそう。
育った木を、端から切り倒す。切ってそのまま亜空間収納に入れ、枝打ちや乾燥をを経て板材へ。
一部は柱として成形。今回実験で作る建物は、砦と同じ大きさ広さにするので、結構な建築資材が必要なんだ。
釘は一本も使わない木組みで作るから。別にそれにする必要はないんだけど、釘を用意するのが面倒だから。
魔法なら、大変な工法でも簡単に出来ます!
壁も木材で仮組みして、どんな感じになるかの実験を行う。実際には、一番外側の壁は残していくんだけど。
高く作ってある壁が残っていれば、中がどうなっているか、わかりにくくなるからね。
いきなり砦が消えてたら、またフォックさんやローメニカさんを驚かせる事になるしさ。
という訳で、資材が揃ったらどこかで砦と同じ大きさの木造建物を建てて、船に入れたらどうなるか、取り出したらどうなるかを実験だ。
いっそ、このまま南ラウェニアで実験するかなあ。最南端なら、雪も少なそうだ。その分、風が強いけど。
気温が高い訳ではなく、乾燥しすぎて雪が降らないっていうね。多分、雨雲や雪雲が発生しづらい地形と気候なんでしょ。
『最南端辺りは、土地の成形からやらなくてはならないので、お薦めしません』
そうなんだ。じゃあ、やっぱりダガードに戻ってからかな。
『人目に付きにくく、実験しやすい場所が他にもあります』
え? どこ?
『魔大陸です』
という訳で、ポイント間移動を使い魔大陸に来た。北にある大陸で、まだまだ春は遠いというのに、ここは一足先に春って感じ。
もっとも、一年通してここの気温はこんなだけど。おかげで神馬やドラゴン達が大好きな果実も、もいだそばからすぐ生る。
ついでだから、また少しもいでいこう。島ドラゴンのところに、定期便として届けるからね。
そういえば、最近新たな技を開発したんだ。遠隔操作で果実をもいで亜空間収納に入れ、そのまま島ドラゴンに遠隔で送る。
おかげで島ドラゴンの姿、最近見てないよ。でも果実は確実に届いているようで、たまに朝の散歩の際、神馬が姿を現して礼を言っていく。
またドラゴンの素材、もらいに行こうかなー。
おっと、今は実験実験。
魔大陸でも北に位置するここは、今まで来たことがなかった。広い平原が広がっていて、鳥の声が聞こえる。のどかだなあ。
最初は普通に整地して仮の建物を建てようかと思ったんだけど、この環境を消すのはちょっとためらう。
という訳で、地上一メートルくらいのところに砦より少し広く結界を張り、その上に仮の建物を組み上げた。魔法って楽ー。
目の前で、どんどん組み上がっていく建物を見るのは楽しい。一応、形状と高さが合っていればいいのであって、中身はすっからかんのまま。
でも出来上がっていくのを見ていると、これこのまま元に戻すの、もったいない気がする。
『向こうの大陸の人目に付かない場所に、建てておきますか?』
うーん、誰も知らない場所なら、ありかな。うんと山の奥とか、人が入りにくい場所。そういうところなら、誰かの土地って事はないでしょ。
出来上がった建物にポイントを打って、地面代わりの結界にも同じ箇所にポイントを打つ。
で、建物を全て船の中の拡張空間へ。建物用の結界とは別の場所に結界を張り、そこに船を出す。おお、大きいなあ。
見上げるその船の中に入り、中を確認。船尾楼に入ると狭い空間に階段の入り口。
それを下りていくと、またしても狭い空間に、扉が一つ。扉を開けたら、丁度砦の表門に当たるところから入った場所。
入り口から見る、木製の似非砦ってところ。よし、成功。後はここから取り出す実験だね。
階段を上って甲板に出てから船を下りて、そのまま亜空間収納へ入れる。で、中から似非砦だけをポイントを目印に取り出した。
よし! 成功! これで砦を持ったまま、向こうの大陸に行ける!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます