第402話 邪神崇拝の一派
一人で砦に戻ると、じいちゃんがちょうど戻ってきたところに出くわした。
「あー、じいちゃん」
「おお、お主も戻っておったか」
「今帰ったとこ。一緒だったね」
とりあえず、角塔の居間でほっと一息。
「はて? 何やら甘い匂いがするのう」
ギク! そういえば、一人でキャラメルロールケーキを作って食べたんだっけ。キャラメルの匂いって、結構残るよね……
「何ぞ、甘い物でも作ったな?」
「えー、えーと、えへへ」
「まあいい。それよりも例の呪物じゃが」
「うん」
そうそう、その話が聞きたかったのよ。決してキャラメルロールケーキを話題に出したかった訳ではない。
「あの呪物、使われている術式の中に、聖地由来のものがあったぞ」
「え!?」
聖地由来って、じゃあ、あの呪物は聖地が作ったって事!?
「慌てるな。聖地由来と言っても、大分古いものでな。おそらくは五百年近く前のものじゃ」
五百! そりゃまた古い。ホーガン領に仕掛けられたのも約百年前って話だし、なんでまたそんな息の長い話になってるのやら。
「それとの、あの呪物には、比較的新しい術式も加えられておった」
「ん? それって、どういう事?」
「推論じゃが、古い文献か何かで聖地の術式を手に入れた連中が、それに手を加えて百年前かそこらに、あれを作り上げたんじゃなかろうか」
という事は、聖地は関わっていないって事でいいのかな? その方がいいけど、ちょっと前の聖地って、余裕でやりそうなとこ、あったんだよねえ。
「でも、誰があんなもの、作ったんだろう」
「……これは昔聞いた話で、わしも半信半疑じゃったんだが、教会組織の中に、邪神を崇拝する一派があるとか」
「はい!?」
「神への信仰に生きるはずの聖職者が、何を間違えて邪神崇拝に至ったかは知らんが、昔小耳に挟んだことがあるんじゃ。あの時は、何をバカな事をと思ったもんじゃが、あんなものが出てくるとなると……」
「本当に、存在する?」
思わずじいちゃんと顔を見合わせちゃった。何か、背筋が寒い。
目の前にした事があるからわかるけど、邪神ってなんというか、負の塊って感じなんだよね。
邪「神」とは言ってるけど、検索先生によれば本物の神ではなく、神に至りそうな存在だったってだけらしいけど。
それでも、現世にそんな強力な存在がいれば、そりゃ色々歪みもするって。おかげで南北ラウェニア大陸は、思いっきり影響受けてたんだし。
特に北ラウェニア大陸は、瘴気をもろに受けていたから、土地にも深刻なダメージを負っていたみたい。
本当、もっと早くこっちの浄化をすれば良かったよ。ローデンでの二年間、無駄だったなあ……
「邪神なんか崇拝して、どうするんだろう?」
「さての。人と違う信仰を持った者の思いなぞ、理解出来る訳がないんじゃよ」
じいちゃん、ばっさりだ。これでも一応、昔は聖地にいた聖職者でもあったっていうからね。お仲間が信仰の道を踏み外すのは、やっぱり良い気分じゃないんだろう。
うーん、あ。検索先生、世界であれと似た呪物って、他にないの?
『残念ながら、察知出来ません』
ええ!? 検索先生が探せないなんて……
『瘴気の影響でしょう。逆を言えば、瘴気が蔓延している場所には、ある可能性が高いと思われます』
んじゃあ、瘴気の蔓延している場所って、あるの?
『あります。ですが、こちらの大陸ではないようです』
まさか、魔大陸!?
『いいえ。あそこは地上で最も清らかな土地に生まれ変わりました。瘴気は近づく事すら出来ないでしょう』
そうなんだ……邪神すら完全浄化したもんね、そういえば。あの時は、本当にこのまま死ぬんじゃないかってくらい、力を振り絞ったっけ。
『瘴気の蔓延箇所は、あちらの大陸です』
何ですとー!?
「私のカカオとバニラが!!」
「な、何じゃ!? 急に」
「あ、ごめん。じいちゃん、検索先生によると、あの呪物と思しきものが、向こうの大陸にあるらしいんだ!」
「何じゃと?」
これから交易を始めようって時なのにー。
結局、この話は私達だけじゃ手に負えないようなので、領主様に報告する事になった。
『あの呪物と同じものが、向こうの大陸に?』
「ええ、その可能性が高いんです」
単純に、瘴気が蔓延している箇所があるってだけなんだけど、邪神が消えた今、そんなに瘴気が広がる事ってないはずなんだって。
だから、一カ所に留まり続けているのなら、それなりの理由があるだろうっていうのが、検索先生の判断。
『……その瘴気、君なら浄化出来るんだよね?』
「出来ます」
『ならば、航海の計画は続行だ。向こうについたら、よろしく頼むよ』
「はい!」
はっきり言った事はないけど、春から始まる航海には、自分の船で参加する予定だったしね。
その航海に関して、ちょっとした計画が出来たので、明日にでもじいちゃんに相談して試してみようっと。
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